第5話 恋のはじめ方?
わたしが恋をする。
大魔導士さまの思いどおりではないかもしれないけど、悪くないことに思えたの。
女神さまも、わたしも、自由になれる方法。
でも、肝心の恋のはじめ方が、わたしにはさっぱり分からなかったの。
本の中でなら、読んだことがある。
誰かを思うあったかい気持ちや、心臓がドキドキする感じ。
それがきっと恋なんだって、頭では考えられるんだけど。
気持ちはさっぱりついてこない。
ヨルンは焦らなくていいんじゃないかって言ってくれた。
でも、わたしはヨルンがどんどん成長して、自分だけ置いて行かれるのが怖いって感じてた。
聞きかじった人間の恋に関する知識と、わたしの記憶をのぞいて、女神さまがまたいたずらにそそのかす。
「ヨルンに恋すれば、問題ないではないか?」
わたしの中に、ほかに候補がいないと、女神さまは言うの。
ヨルンのことは、もちろん好きだけど、恋の好きとは違う気がする。
だって、わたし、本の主人公のように、ヨルンにドキドキしたりしないもの。
それは、恋じゃない……気がする。
ほかに誰にも聞ける人がいなくて、わたしはほかでもないヨルンに尋ねたの。
「女神さまが、ヨルンに恋すれば問題ないって言うの。ヨルンは、恋したことある?」
隣に座ってたヨルンはちょっとびっくりしたような顔をしたあと、ぷいっと横を向いちゃった。
「恋って、しようと思ってするものじゃないと思う」
そうよね、わたしもそんな気はしてた。
それが難しいの。
「レニは、ちょっと無神経だよ」
あれ?ヨルン、何か怒ってる?
こっちを向いてくれないヨルンに、わたしは急に不安になった。
「僕はとっくに君に恋してるのに、無理やり僕を好きになろうなんて。そんなこと言われても、全然うれしくない!」
ヨルンが、わたしに恋してる?
ヨルンは、わたしにドキドキするの?
ヨルンがわたしの隣を離れた。
女神さまが、頭の中でささやいた。
「レニよ、失敗だったみたいじゃな」
その夜、鏡を見て、わたしはため息をついた。
12歳から1ミリも成長していないわたしの身体。
背が伸びて、手も大きくなって、大人びたヨルン。
わたしがヨルンに恋できる日は来るのかしら─?
その日、ヨルンとわたしは、工房からお客さまへの届けものを持って、一緒に町の通りを歩いていたの。
この町に戻ってから、こうしてヨルンと外を歩ける時間が、わたしは何よりうれしかった。
天気はくもり。雪は降ってはいなかったけれど、道に固く踏み固められていた。
「あれ?今、晴れ間が見えたような……」
ヨルンがつぶやいた。
わたしも空を見る。
晴れ間は─青空は、あっという間に落ちてきた。
空から響いた太い声に、わたしの胸に懐かしさがあふれた。
「フィン……!」
親友の空色ドラゴンが、鈍い音を立てて、通りの真ん中に着地した。
周りの人たちが逃げまどっている。
「探したぞ、レニ。ドラゴンに匂いを覚えさせておいたのは正解だったな」
フィンの背でそう言ったのは、大魔導士アーレンさまだった。
黄金色の瞳が、わたしを射抜く。
わたしの中で、女神さまが不愉快そうに、一つあくびをした。




