第4話 純潔と恋
わたしの時間が止まってしまっていた理由。
わたしの記憶をさかのぼった冬の女神さまが言った。
「大魔導士に時間魔法をかけられておったな」
わたしが”夜の庭”でトロトロと眠り続けていたのは、そのせいだったみたい。
これも、わたしの心と身体の純潔を守るため?
大魔導士さまから離れたことで、今は時間魔法は無効になっているって、女神さまは言った。
「そしたら、わたしはまたこれから成長するの?すぐにヨルンに追いつける?」
わたしの期待は、思いも寄らない方向に裏切られた。
「それは難しいな。わらわがそなたの中にいるかぎり」
どういうこと?
わたしの疑問は、もちろん女神さまにすぐ伝わる。
「冬とは眠りの季節。そなたの身体は今、ほぼ眠っておるのじゃ」
女神さま曰く、わたしの身体は時間が完全に止まっているわけじゃないけど、ごくごくわずかずつしか進んでいないらしいの。このまま千年でも生き続けると聞いて、わたしは驚きを通り越して、言葉が出てこなかった。
「人間の言うところの不老不死というやつじゃな!」
女神さまは、自分が身体の中にいる特典!とでも言いたげだ。
たしかに、女神さまとわたしの身体を共有することになって、便利なこともあったの。
冬の寒さはまったく感じないし、おなかも空かない。喉も乾かない。
何よりうれしかったのは、晴れた日に外に出ても、肌や瞳が痛くないこと!
太陽が怖くないって、こんなに気分が明るくなるものだったのね。
でも、千年生きるってうれしいことなのかしら?
わたしは、”夜の庭”に住む親友の空色ドラゴンのフィンを思い出した。
フィンなら、千年ぐらい一緒にいられるかも。
でも、ヨルンも、大魔導士さまも、わたしが知っている人間は、誰も千年も生きられない。
それって、淋しいことじゃないかしら?
不思議ね。
この間、女神さまと一緒に殺されるはずだったのに。
今度は千年生きる身体になっちゃうなんて。
ヨルンは、この話を難しい顔で聞いていた。
「レニの時間を取り戻す方法はないんですか?」
真剣な顔で、ヨルンはそう女神さまに尋ねた。
「生贄として死ねって言ったり、今度は千年ひとりで生きろなんて……そんなの、身勝手すぎます!」
ヨルンは、わたしより真剣に怒っていた。
女神さまは、わたしの口で答えた。
「生贄の資格を失うことじゃな」
えーっと、生贄の条件は……わたしは、大魔導士さまの言葉を思い返す。
「恋を知らぬ心と、穢れを知らぬ身体」
これだわ!
「わたしが恋を知ったら、女神さまはわたしの身体にいられなくなるってこと?」
女神さまはうなずいた。
「そのとおり、純潔が失われれば、神はその体に同居できぬ」
わたしをそそのかすように、女神さまが笑った。
「レニ、わらわに人間の恋とやらを見せてみよ」
え、女神さまは乗り気なの?
退屈だから、わたしの身体をもらうって言ってたのに。
「興味があるのじゃ。神は恋をせぬのでな。これぞ、極上の退屈しのぎじゃ!」
そうなんだ。神さまって、案外孤独なものなのかしら?って考えていたら、女神さまから訂正が入った。
神さまは、孤高の存在なんだって。
恋をする─。
女神さまは簡単に言うけれど、わたしは雲をつかむような気持ちだった。
恋って、どうやってするものかしら?




