第3話 大魔導士さまの魔法
「ヨルン……!」
町の孤児院で、きょうだいみたいに育ったヨルン。
少し大人になったヨルンに駆け寄って、手を取ろうとしたとき、不思議なことが起こったの。
わたしたち、お互いに触れられない。
近づくと、磁石みたいに反発して、弾かれてしまう。
戸惑ってるわたしたちを見てた、冬の女神さまが言った。
ヨルンには聞こえない、わたしの頭の中で。
「ふむ……大魔導士の魔法じゃな」
冬の女神さまが、パチンと指を鳴らした瞬間、わたしの中で「鍵が外れた」ような不思議な感覚があった。
ヨルンとわたしは、お互いにやっと手を握ることができた。
「女神さま、大魔導士さまの魔法って?」
わたしはまだ女神さまと頭の中でうまく話すことができなくて、声に出して聞いた。
ヨルンは、わたしが誰と話してるのか、不思議な顔をしてる。
女神さまは、わたしの頭の中で説明してくれた。
「そなたの純潔を守るため、男が触れられぬ魔法をかけておいたのであろう。人間の魔法など、わらわにとっては、ほんの戯れじゃ。解くことは造作ない」
ふいにわたしの手を握るヨルンの手に力がこもった。
わたしは、ヨルンの茶色の瞳をまっすぐ見た。
以前より、少し目線が高くなっていて、ヨルンの背が伸びていることに気づいた。
「レニ、まさか君が戻ってくるなんて……。でも、冬が続いてるかぎり、生贄にはされてないって……君はまだどこかで生きてるんだって、信じてた」
ヨルンが自分の上着を脱いで、そっとわたしの肩に掛けた。
「こんな薄着で外にいたら、風邪引いちゃうよ。靴も履いてないなんて」
そっか、わたし、儀式用の白いワンピース1枚のままだった。
でも、不思議なことに、全然寒くないの。雪に触れてる足だって、少しも凍えてない。
「当然であろう。冬の女神のわらわが、そなたの中のおるのだから」
女神さまが、頭の中でつぶやいた。
わたし、なんだか便利な身体になっちゃったみたい。
ヨルンはかがむと、自分の背中をそっと差し出した。
「レニ、乗って。とりあえず、僕の家であったまろう」
わたしは、ヨルンにおんぶされて、町の工房へいくことになったの。
ヨルンの背中で、わたしは久しぶりに人のぬくもりに触れた気がした。
ヨルンが工房の親方さんに掛け合ってくれて、わたしはしばらくヨルンの部屋に置いてもらえることになった。
15歳になったヨルンは、今年からこの工房で、魔道具の手入れの仕事をしているんだって。
わたしがヨルンの上着のフードを取って挨拶したら、親方さんはちょっとギョッとしたみたいだった。
この2年、大魔導士さまとずっと一緒にいたから、すっかり忘れてしまっていたけど、わたしの真っ白な髪は少し人を驚かせてしまうみたいなの。
以前この町にいた頃もそうだったけど、ヨルンだけはわたしを異質な目で見なかった。
ヨルンが差し出したハーブティーのカップから、湯気が立ち上る。
「本当にびっくりしたよ、レニが突然帰ってくるなんて」
ヨルンは、まだ半分信じられないって顔をしてる。
わたしも、まだふわふわした気持ちだったけど、女神さまはわたしの記憶のある場所へ飛んだんだって。
わたしの記憶は、ぜんぶ女神さまに筒抜けみたい。
わたしは、ハーブティーに口をつけた。あったかい。
わたしがひと息ついたのを確認して、ヨルンがためらいがちに聞いたの。
「ねぇ、レニ。どうして君は12歳のままなの?」
わたし、そのとき初めて気づいたの。
ヨルンは成長してるのに、わたしは”夜の庭”に連れ去られたときのままだって。




