第2話 神殺し
その日は、大魔導士さまの言ったとおり、すぐにやってきたの。
わたしが”夜の庭”に来て、2年が経っていた。
冷たい石の床に描かれた魔法陣の中心で、わたしはおのずと膝をついて祈るような姿勢になった。
いつかは来る日と知っていたのに、組んだ手が少し震えているのが、自分でも分かった。
魔法陣の周りには、この国を治める12人の魔導士たち。
その人たちが口々に呪文を唱えるのを、わたしはぎゅっと目をつぶって聞いていた。
「来たれ、冬の女神・ヴェトラ!」
大魔導士さまの声が響いた瞬間、わたしの身体は雷に打たれたような衝撃に襲われた。
もちろん、雷に打たれたことなんて一度もないけど、きっとこれがそう。
そして、突然自分の中に感じたの。
冬の女神さま─きらきらした真っ白な光をまとった圧倒的な存在を。
「わらわを呼んだのは、そなたか」
わたしの声なのに、口を動かしてるのはわたしじゃない。
「いかにも。私が、この国を統べる大魔導士アーレンだ」
またわたしの口が、勝手に動いた。
「冬もこう長引いて、退屈しておったところじゃ。戯れに話を聞こう」
周りを囲む魔導士たちが、急に杖をわたしに─冬の女神さまに向けた。
大魔導士さまが冷たい声で告げた。
「話すことはない。この国の民のため、死んでいただく」
わたしに向かって、12人の魔導士の魔法─神殺しの刃が、一斉に放たれた。
瞬時に、わたしの身体から、女神さまの力があふれ出すのを感じた。
石造りのドームの天井をぶち抜く氷雪の嵐が、柱のようにわたしの身体を囲む。
魔導士たちの攻撃は、いとも簡単に弾かれた。
女神さまが、力を緩めた。
氷雪の柱は一瞬で消えたけど、12人の魔導士たちは、うかつに攻撃はしてこない。
「人間風情が、わらわを殺そうとは……お笑い種だ!」
女神さまが─わたしが笑い出す。
「冬の理も知らずして、春・夏・秋を引き延ばすとは、愚かなことよ!」
大魔導士さまは、杖をわたしに向けたまま、苦しげな表情で言った。
「長引く冬が民を飢えさせ、この国を苦境に立たせているのだ……」
女神さまは、鼻で笑った。
「わらわとて、本意ではない。だが、春も夏も秋も3年続いたのでは、冬も3年続かねば、道理が合わぬ」
みんな一斉に動揺したわ。
さらにあと1年、冬が続くって、女神さまが言うんだもの。
「ただ3年も冬を続けるのは、退屈でな。ちょうどよい。この贄の娘は、わらわがもらうとしよう」
そう言うと、女神さまは再び氷雪の嵐を起こしたの。
目の前の大魔導士さまの姿が、嵐の向こうに霞む。
身体がふわりと宙に浮いたような感覚になって、わたしはぎゅっと目を閉じた。
再び目を開けたとき、わたしは灰色の空と白い雪の中、町の通りに立ってたの。
なんだか懐かしい感じがする。
”夜の庭”にいたときは、靄がかかったようだったわたしの記憶が、ふいにあふれてきた。
わたし、ここを知っている。
「レニ……?」
雪の下に眠る土の色みたいな茶色の髪と瞳。
わたしの名前を呼んだ男の子は、わたしの記憶より少し大人びていた。
「ヨルン……!」
わたしの中で、冬の女神さまがいたずらっ子みたいに笑った。




