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第30話 中青ヶ島旅行<2220.02.12>_クルージング

挿絵(By みてみん)

※画像はイメージです。


 朝食を食べた後、最初の観光は湾内クルージングだった。それほど大きくはない船に観光客が次々に乗り込んで行く。その乗り込む人の流れに僕らも入った。


(あっ、・・・そうか、このまま乗り込んだら狭い客室で一緒に・・・困ったなぁ・・・)


 この流れのままだと、歩いて行った先にある客室に高島さんと一緒に入っていくことになってしまう。


(ひとつ間違うと隣り合って座ってしまう・・・なくはない、というより、結構あるかも・・・だ、駄目だ、どうしよう・・・)


 視界に入ってきた客室以外の船の情報が欲しくて案内図を探してみるものの見つからない。この時の僕はおそらく信じられないくらい挙動不審だったろうと思う。それほど案内図が見たかった。


(例えば客室は2階もあって、この先の客室内からその2階に行ける・・・という感じではないなぁ・・・ないよなぁ・・・どう見ても・・・)


 2階があると期待したいところだけど、それほど大きな船ではないのでおそらくは無理だと思えた。でも一応それを期待を込めて確認したいのだけど、どうしても案内図が見つからない。そうしているうちに、もうあと数歩も進んだら客室のドアに手が届きそうなところまで来た。歩きながら左右を確認してみると、左手に階段があった。階段にチェーンをしてはなく、注意書きもなかったので、のぼってはいけないわけではなさそうなものの、多くの乗船者の誰一人階段を目指さない。


(おかしいな。なんでみんな2階に行かないんだ?・・・でもまぁ、このまま客室に入ると間違いなく高島さんの傍にいることになる。ダメだ。それだけはダメだ。もういい。後先考えて躊躇している場合じゃない)


 ためらっている場合ではなかった。迷いはしたものの、このまま高島さんと客室に入っていくのは耐えられない。


(昇ってはいけない階段ではなさそうなのだから行こう!いくぞ俺!)


 そのまま何も言わず、みんなから離れて左側にあった階段を目指した。列を離れる際みんなの反応が気になって一瞬だけみんなのほうを振り向いた。植木代表と目が合った。植木代表は少し驚いたような表情を見せていた。


(まずいなぁ、何か言われたらどうしよう・・・)


 そうはいっても選択肢はない。とにかく先を急ぐ。幸い植木代表から声はかけられなかった。

 階段をあがるとそこはデッキになっていた。天井がないので、青空がすがすがしい。壁がないので、風がもろに体に当たりとにかく寒い。寒すぎる。湾内とはいえ2月の洋上で遮るものがなく、風が体温を容赦なく奪っていく。デッキにはほかに人は誰もいないため余計に寒く感じられる。


(停泊していてこの寒さ。出航しても耐えられるのだろうか・・・でも今更客室に戻るなんてできないしなぁ・・・もうなるようにしかならない・・・か)


 船が動き始めた。アナウンスも始まった。寒すぎてアナウンスが頭に入ってこない。停船していても寒いのに、動き始めると更に寒さが体にこたえる。


(みんな知っていたからのぼってはこなかったのだろうか?・・・えっ、階段のぼるとそこはデッキだとみんな知ってたの?・・・えっ、なんで知ってるの?いやなんで僕だけ知らないの?)


 観光よりもまずはこの寒さとどう向き合うかが最優先になっていた。それでも少しは寒さに慣れてきていたのか、ところどころで船がゆっくりすすむ時のアナウンスには耳を傾けることが出来るようになってきていた。ただ、もう観光クルージングはどうでもよかった。


(客室はあったかいんだろうなぁ・・・きっと・・・せめてカイロ、いや暖かい飲み物だけでもあれば・・・気が利かないな自分・・・)


 長かったのか短かったのかわからない時間が過ぎた頃、船は出航した船着き場に戻った。船を降りるときか、船を降りた後みんなと合流して顔を合わせたはずなのだけど、その時の記憶はない。

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