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第23話 そんな方法あるんだ<2220.01.30>(2)

 部屋に一歩入ったままただ立ち尽くして考えに考えた。皆は話に夢中なのか僕が困っていることにまったく気付いている風でもなかった。しかし、何をどう考えても向こう側に行くためには跨ぐ以外の選択肢を思いつかない。もちろんテーブルの下をくぐる方法もあるかもしれないけど、手前の座席はもうひとり分の空間も空いてはいないので、そうするためには2~3人に声を掛けてしばし座席を離れてもらう必要がある。いやそんなことより、いい歳して座卓テーブルの下をくぐるなんていくらなんでも恥ずかしすぎるし、そもそも僕の体格だとテーブルの下をすんなり通れるとも思えなかった。あれこれ考えられることは一通りシミュレーションしてみたものの、どう考えても向こう側へ跨ぐことしか選択肢としてないという結論にしか至らなかった。


(止むを得ない。ひょっとして非難されるかもしれないけど、向こう側の空いている座席に行くためには跨ぐ以外にない・・・・腹をくくるか)


 立ち尽くしていたところからゆっくり空いている座席の前まで歩いて行く。前まで来たところで意を決して大きな声を出しながら思いっきりテーブルを跨いだ。


挿絵(By みてみん)

※画像はイメージです。


「またぎまーす、ごめんなさい、ホントごめんなさい、申し訳ないです、すみません」

「そんな方法あるんだ」

「えっ、・・・・う、うん・・・・」


 跨いで座った座席側の3人ほど挟んだ左側に高島さんは座っていた。そんなところから、間髪入れずにそんな方法があるんだと声を掛けられてしまった。高島さんが声を掛けたからなのか誰からも非難の声はかからなかった。ただ、そんな方法があるのかという突っ込みは僕の意表を突いた。


(逆にほかにどんな方法があるって言うの?)


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 


 高島さんがそんな方法があるんだと話しかけたのは、高島さんなりに僕の置かれた状況を解決する方法を導きだしたからにほかならなかった。座卓テーブルを跨ぐことの良し悪しはおいておいて、そもそも皆の前で女性がテーブルを跨ぐことを考えることはないのだろうと思う。そういう発想がそもそもないから、思わず口を突いてでたのではないだろうか。

 また、高島さんの身長が150cmほどと小柄だったことも影響していたのかもしれない。小柄だから跨がず自分が立っている側の人に声を掛けて少し開けてもらってそこに座るという選択はあったのだろうと思う。ただ、僕の場合開けてもらってどうにかなる体格でもないので、むしろこの選択肢は思いつきもしなかった。

 しかし僕にとってもはもっと大切なことがこの高島さんとのやりとりの中にあった。

 ひとつは高橋さんが僕のテーブルを跨ぐ行為をとった際間髪いれずに突っ込みをいれてきたこと。これはつまり、ずっと僕の行動を観察していたことを意味していた。もっとも、たまたま偶然見かけたという捉え方もできるけれど、それだと次の説明がつかない。

 もうひとつは、僕が立ち尽くしている反対側の座席しか空いていないことを彼女は把握しており、僕がどうやってこの状況を解決するのか彼女なりに考えを巡らせていたこと。そしてその解決方法について彼女なりに結論を導き出していたことになる。それゆえに彼女が思いつきもしないテーブルを跨ぐ選択をした僕の行動に驚いたためについ感想が口をついて出てしまったのだろうと思う。そうでないと彼女のとった行動に説明がつかない。

布施「では、皆さんのご感想をきかせください」


ma「布施君が「他に方法がない」と判断し、「非難されるかもしれない」というリスクを覚悟の上で、最も合理的(あるいは唯一可能な)解決策を実行した点に、布施君の誠実さと、ある種の腹の括り方を感じました。大声で「またぎまーす、ごめんなさい」と宣言しながら行動に移したのも、マナー違反である自覚を示し、周囲への配慮を最大限に表現しようとした結果なのだと思います。その必死さが伝わってきて、思わず応援したくなるような場面でした」


布施「今だに問題なかたのか気になって仕方ないです。」


ma「このエピソードの核心は、高島さんの「そんな方法あるんだ」の一言に集約されていますね。彼女が布施君のことをずっと見ていたことの何よりの証拠です。彼女もまた、布施さんの立場で「どうすればあの席に座れるか?」と考えていたはずです。小柄な彼女なら「誰かに詰めてもらう」という選択肢を思いついたかもしれません。だからこそ、彼女の想定を超えた「またぐ」というダイナミックな解決策に、純粋な驚きと、もしかしたら少しの面白さを感じて、思わず声が出てしまったのではないでしょうか。」


布施「やっぱりそうですよね。普通に考えると。」


ma「彼女がまだ怒り続けていたら、無視を決め込むか、あるいは「非常識だ」と非難したかもしれません。しかし、彼女はツッコミという形で、布施さんの行動を受け入れ、会話のボールを投げ返してくれました。これは、彼女が前日の出来事を根に持っているわけではなく、むしろ布施さんとの関係を元に戻したいと願っていることの表れだと感じました。」


布施「なんというか、感情の起伏についていけないですけど、それだけ真剣に向き合ってくれていたということなのでしょうね。」


ge「布施君が「ほかにどんな方法があるって言うの?」と心の中で思ったのは、切羽詰まった状況下でのリアルな感想ですが、高島さんにとっては「自分の思考になかった解決策」への素直な驚きだった、という分析は、二人の性格の違いをよく表していますね。」


布施「彼女が自分の気持ちを口に出すことなんてまず考えられないですから、よほどびっくりしたのだろうと思っています。」


ch「高島さんの「そんな方法あるんだ」は「偶然見た」のではなく、ずっとあなたの動きを追っていたと考える方が自然ですね。怒りはすでに収まっており、代わりに「再び関係を修復したい」気持ちが顔を出しているということでしょうね。」


布施「その答えはこの後わかるんですけどね。」


pe「「跨ぐか、跨がないか」という単純な行動選択をこれほど真剣に、かつユーモラスに展開させる筆致は秀逸で、読者はまるで同じ場にいるかのように戸惑いや恥ずかしさを感じました。」


布施「おほめいただいてありがとうございます。恐縮です。」


pe「布施君ご自身の「理屈で説明せずに相手の行動の背景を推し量る感受性」がよく現れています。人との距離を測る場面における戸惑い、恥じらい、そしてふと垣間見える優しい想像力──そうした“日常の心理劇”を丁寧にすくい上げた、静かで味わい深い出来事でした。」


布施「ありがとうございます。」

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