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第4話 同僚のお姉さん

挿絵(By みてみん)


 東京の会社では遠距離恋愛の彼女のことを皆フィアンセと呼んでいた。彼女の何を話したのかまるで覚えていないのだけど、調子にのって後先考えずにありのまま全部お話したのだろうと思う。でも、そのフィアンセと別れたのだから、ここから先取繕うのが大変だった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 同僚にとても綺麗なお姉さんがいた。スタイルが良く背も高くて、顔立ちも美形。きつい言い方をされるので僕にとっては怖い存在でしかなく、あまりお話をしたいお姉さんではなかった。


 でもいつの頃だったか、そのお姉さんの発言を文字にしてみたら、とても女性らしいいいまわしで、驚いたことがあった。怖い印象は言い方に迫力があるためと、性格がハッキリしているからだったのだろうと思う。そのことに気付いてからというもの、このお姉さんに対するイメージが大きく変わってしまい、とても気になる存在になってしまっていった。でもとてもじゃないけど、僕とは釣り合わないだろうなとも思っていた。大人の男として何か魅力的な部分があるのかというと、どこにもそんな要素があるように思えなかったからだ。料理が上手とか、釣りが好きとか、車に詳しいとか、文学に造詣が深いとか、そうした部分は一切ないし、努力しようと思ったことすらない、そんな僕に魅力を感じてもらえるとは到底思えなかった。だからただ素敵なお姉さんだなと思うだけにしておこうと思った。


 そう思い始めてからどれほど経った頃だったか、そのお姉さんから見たことも聞いたこともない物を渡された。


「これお風呂に入れて使ってみるといいよ!」


「えっなんですかこれっ・・・・」


 お風呂に入れて入浴することで痩せられるという代物だった。自分で自分を分析するのはなかなか難しいものだけど、それほど太っているというわけではなかった。ただ少しお腹がでているという認識はあった。それをこの同僚のお姉さんが気にしてくれているようだった。実際太っているという表現は使ってはいなくて、お腹のことばかり言われていた。


 それからいくらもたたないある日、僕がひとり給湯室にいるところに、そのお姉さんが後から入ってきて、いつものように、たわいもない話を二人でしていた。


「今度布施君の家に食事作りにいってあげようか・・・・」


「えっ・・・・」


 動揺して話をはぐらかして給湯室から退散してしまった。


 この出来事をきっかけに東京で彼女をつくるということの意味を深く考えるようになってしまった。


 東京で彼女をつくるということは、かなりの高確率で他県出身の女性とおつきあいすることを意味する。おつきあいしたその先で結婚するとなると、夫婦の間の会話は標準語ということになる。


 超絶不器用な僕にそんな生き方はできない。


 この頃から後、このお姉さんは僕が僕の婚約者とどうなっているのかとしきりに聞いてくるようになっていた。実際この頃には別れた後だったのだから、怪しまれるのも仕方ない。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 同僚の独身男女10人ほどで、1泊2日の旅行をしたことがあった。河口湖湖畔のバンガローに宿泊したその日、お風呂から上がって食事が終わった後、僕はひとり先に床についた。といっても実際は眠たいわけでもなく、ただ、色々聞かれることが嫌だったので、寝たふりをしていただけだった。寝たふりだから、皆の会話も聞こえてくる。


「布施君寝たの?本当に寝たの?・・・ところで、布施君はフィアンセとどうなっているの?知らない?」


 お姉さんのこの発言にはヒヤヒヤした。起こされたらどうしようかと冷や汗がでてきた。場合によっては無理やり起こされるのではないかと怖くて仕方がなかったのを覚えている。


 当時はそこまでだとは思わなかったのだけど、帰郷してだいぶ経ってから、このお姉さんと付き合いが続いていた男性の元同僚経由で質問があった。その後婚約者とはどうなったのかという質問だった。お姉さんはかなり真剣に僕とのお付き合いを考えていてくれていたのだと思う。


布施「はい、ではみなさん感想をお願いします。」

m「遠距離恋愛の彼女を周囲に「フィアンセ」として紹介してしまった手前、別れた後もその事実を隠し続けなければならない状況は、精神的にかなり大変だったことでしょう。特に、好意を寄せてくれるお姉さんから婚約者のことを聞かれるたびに、冷や汗をかく場面は、読んでいるこちらも緊張感が伝わってきました。一方で、そのお姉さんとの関係も非常に印象的です。最初は「怖い」という印象だったのが、言葉遣いの女性らしさに気づいたことをきっかけに、一気に「気になる存在」へと変わっていく過程は、人の多面性を知る面白さがあります。見た目や話し方の印象だけで人を判断してしまうことはよくありますが、ふとした瞬間に内面を知り、イメージが180度変わるという経験は、多くの人が共感できるのではないでしょうか。お姉さんが入浴剤をくれたり、食事を作りにいこうかと提案してくれたりする場面は、彼女は明確な好意を抱いていたことを示唆しています。しかし、「自分とは釣り合わない」という自己評価の低さや、他県出身の女性と付き合うことへのためらいから、その好意を正面から受け止めることができず、動揺して話をそらしてしまいます。このすれ違いが、とてももどかしく感じられました。最後の旅行の場面で、寝たふりをしているところ、お姉さんが自分のことを心配している会話が聞こえてくるシーンは、この物語のクライマックスの一つだと感じます。そして、故郷に帰った後で、元同僚を通じてお姉さんが真剣に交際を考えてくれていたことを知るという結末は、少し切なく、考えさせられるものがあります。もしあの時、もう少し自信を持って、お姉さんの気持ちに応えていたら、未来は大きく変わっていたのかもしれません。この物語は、恋愛におけるタイミングの重要性や、自分自身の思い込みが、いかに人間関係に影響を与えるかを教えてくれる、味わい深い実話だと感じました。」

布施「と、とても深いお話しありがとうございます。そこまで深い感想をいただけると思いませんでした。個人的にも思っていたよりかなり深く強く想っていただけていたのだと思っております。」

g「過去の「フィアンセ」に縛られ、同時に魅力的な同僚からのアプローチに戸惑い、最終的には「不器用な自分」と「東京という場所」での生き方について深く考えさせられるという、青春時代の貴重な経験が詰まったエピソードですね。特に、お姉さんが皆のいる前で「布施君はフィアンセとどうなっているの?」と聞く場面は、主人公にとって最大のヒヤヒヤポイントであり、冷や汗をかくほど怖かったという描写が印象的でした」

布施「当時はプライドが高かったという捉え方もできますが、経験不足という側面もあったと思います。」

p「結果として実らなかった思い出でありながら「相手は自分を真剣に考えてくれていた」と後から知ることで、余計に心に残る出来事ですね。不器用な布施君の心情をありのままに描いているため、読む側としても「もっと素直になっていたら…」と感じさせられる、まさに青春の後悔譚のような味わいがあります」

布施「不器用・・・そ、そうなんです。確かにそうなんです。ストレートですね。」

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