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第15話 雑誌の企画<2219.08.03>(3)

挿絵(By みてみん)

※画像はイメージです。


 この日は観光地ばかりをめぐったと記憶していたのだけど、写真を見ると何やら施設にも立ち寄っているみたいだった。でもそこがどんな施設なのか写真だけではわからなかったし、もう知りたいとも思わない。

 謎の”有名な撮影スポット”を後にしてからも、何ヶ所かの観光スポットを巡った。もちろん案内看板を熟読するなどの“業務”はきちんとこなしていく。そうやって、ようやくやってきたゴールになる観光スポット。結構な高さの橋の上に登ることになった。ゴールだと思ってほっとしたのか、自分に課していた案内看板熟読業務のことをすっかり忘れてしまって、3人で橋の上まで来てしまった。橋の上からの眺めは無駄によかった。ここからの眺望は曇っていることがかえって絵になっているように感じられた。来てしまった以上仕方がない。お2人の写真を撮影して、ここでもひとり先に帰ろうとした僕に、写真を撮ると上床氏から言われた。最後の指定ポイントでこれでようやく帰れると思ってよろこんでいたものの、この時点でもう完全に感情が振り切ってしまった。


(無理)


 上床氏からカメラを渡されて、そのままその場を後にし、車を停めてある駐車場に向かってひとり先を急いだ。歩きはじめて、すぐに気づいたことがあった。


(車の鍵がない)


 僕が運転してきたわけではないので、鍵は持っていない。


(どうしよう。先走って歩き始めたのはよかったけど・・・)


 かなりの急ぎ足で先を歩きはじめたものだから、今更後戻りなんて出来ない。歩きながら時間を繋ぐための方策を考えた。


(あっ)


 歩いて行く先に案内看板が見えた。それもひときわ大きな看板が。神様に見えた。看板のある広場まで急ぎに急いだ。走ることはなかったけど、尋常じゃない歩き方ではあったと思う。僕の後ろから歩いて来ているであろう”お二人”がどう僕の行動を捉えるだろうかなどとは一切考えなかった。もう冷静さは何も残ってはいなかった。近づいた看板の傍に立ち、涙目で読み始めた。看板を読む僕の背中に向かって”お二人”はゆっくり歩いてきているのだろうと思う。微動だにせず立ち尽くしたまま読んでいると、背後から僕を見たときに読んでいるように思われないかもと意味不明な気をまわして、右にから左に、左から右へと看板の前をうろうろしながら、それでもゆがんだ文字を熟読していった。

 しばらくすると、背後から高島さんと上床氏が近づいてくるのがわかった。少しずつ歩いて近づいてくる二人を背中に感じながら、それでも看板に向けた視線を外すことはしなかった。ゆっくりと、近づいてきて、すぐ傍まで来たことがわかったところで、あたかもその瞬間まで気づかなかったかのように二人に気付いたように驚いてみせた。


「あっ、・・・この橋ってかなり古いみたいですよ。えっとですね・・・」


 もはや地元の人ではないかと思えるくらい流暢にこの橋の歴史について説明しはじめた。声はだいぶ大きかったと思う。そうでもしないと涙をこらえられなかったのだ。


「じゃ、帰りましょうか」


 二人の返事を待つことなく、とめてある車に向かって歩きはじめた。どんな表情になっているのか、特に目が赤くなっていないかが心配で仕方なかったのだ。そのおかしな様子は高島さんは理解できていたようだったものの、上床氏は何も気づいているようではなかった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 帰路についてしばらくは3人で何か話していたように記憶している。でもどこからか、会話もなくなり、静かになった。僕は助手席だから、助手席の後ろに座っている高島さんの様子はまるでわからない。でも運転席の上床氏はルームミラーでその様子を把握できていた思う。当時はわからなかったのだけど、この静かになったときに高島さんは寝ていたのだと思う。そうでないと、この後の僕と上床氏との会話が成立しない。静かな時間がしばらく続いた後、上床氏が静かに会話を切り出した。


「不施君は高島さんと付き合っているの?」

「えっ、いえいえ、付き合ってないですよ。どうしてですか?」

「さっき高島さんに来週あるライブの話をしたら高島さんも行くというから、僕もそのライブに行くからどこかで待ち合わせして一緒に行こうと言ったのだけど、返ってきた言葉が、不施さんに手紙書くって言われたんだよね」


(あれっ、僕の日本語処理能力がおかしくなったのだろうか?会話がまるでかみ合っていないような気がするのだけど)


 上床氏とは会話をこの後も続けたように思うのだけど、「不施さんに手紙書く」で頭がいっぱいになってしまって、この後の会話の内容をまるで思い出せない。


(不施さんに手紙書く、不施さんに手紙書く、不施さんに手紙書く、不施さんに手紙書く、・・・)


 そのまま車は順調に走り続けて、だいぶ暗くなってから、植木代表宅に到着した。

 結局、その後高島さんから手紙は来ることはなかった。


布施「では、みなさんの感想をお聞かせください。」


c「”手紙を書く”という言葉の余韻。この一言が、物語全体の感情を凝縮しているように感じられます。 手紙は結局届かなかったけれど、「書く」と言ったその瞬間に、彼女の気持ちは確かに存在していた。 それが届かなかったことが、物語の静かな切なさを際立たせていますね。」


布施「でも、仮に高島さんが手紙を書いていたとしたら、そこで何を伝えたかったのだと思いますか?」


c「とても深い問いですね。①彼女は紙芝居公演の日に、あなたに何かを伝えようとしていた。 それは好意だったかもしれないし、信頼だったかもしれない。 でも、あなたがその誘いに乗らなかったことで、彼女は傷つき、そして迷ったということと、②沈んだ雰囲気、乱れた髪、化粧をしない姿。 それは彼女なりの“問いかけ”だったのかもしれません。 「気づいてほしかった。何かが違うって、感じてほしかった」あるいは、③あなたが撮る側に回っていたことが、彼女には寂しかったのかもしれません。 「私の隣にいてほしかった。カメラの向こうじゃなくて、隣に」更に、④「不器用でも、あなたなりに頑張ってくれてたの、わかってたよ」 そんな優しい言葉で、手紙は締めくくられていたかもしれませんね。」


布施「かなり深堀していただいてありがとうございます。たぶんその通りでしょうね。ただ、だからこそ手紙にしたためることはできなかったのかと思っています。」


p「終盤での「不施さんに手紙書く」という一言が、物語のすべての抑圧された感情を突き動かす最後の導火線となっていて、手紙が届かないという事実によって、物語全体が静かに閉じられる構造になっており、余韻の強い結末ですね。」


布施「余韻ありすぎですよね。感想が長くなりましたので、今回はここまでにしますね。」

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