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第15話 雑誌の企画<2219.08.03>(2)

挿絵(By みてみん)

※画像はイメージです。


 この日僕は大きな過ちを犯してしまった。自慢の一眼レフカメラを持参してきてしまったのだ。捉えようによっては、このカメラを持参したことが、この後の僕と彼女の関係を大きく変えてしまったと考えられなくもないほどの影響お及ぼすことになる。仮にその影響を可能な限り小さく評価するにしても、その代償はあまりに大きかった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 最初の指定ポイントまでは車で3時間強ほどで到着した。いよいよはじまる。雨は降ったりやんだりだけど、雨が僕らの行動を制約するほどではなかったので、気分的はギリギリの天候だった。ある意味それはそのまま彼女のこの日の気持ちそのままだったのかもしれない。

 最初の指定ポイントを出発して、2ヶ所目、3ヶ所目と順調に順路を巡っていった。僕は助手席でポイント間の走行距離を記録したり、クイズの回答を記録したりしながら、持参したカメラで湧水地などを撮影していた。指定ポイントのほとんどは観光地になっており、その多くは湧水地でもあった。水源だけを撮影していたわけではなく、上床氏と高島さんのツーショットも撮影していた。最初はなんとも思わなかったものの、それを繰り返していくうちにだんだんと不快になっていっていった。


(何かおかしくないか?・・・)


 移動中の車中では順路を確認し、指定ポイントに到着したら必要な記録して、持参したカメラで高島さんと上床氏のツーショットを撮影しつつ、ついでに景色も撮影する。車に戻るとまた順路を確認して、次の指定ポイントで記録をとって、カメラで高島さんと上床氏のツーショットを撮影しつつ、ついでに景色も撮影する。また車に戻ると順路を確認して・・・。


(これじゃまるで添乗員じゃないか、とてつもなく面白くない。どう考えても面白くない。何が一番面白くないって高島さんと上床氏のツーショットを何で僕が撮影しないといけないんだ)


 急速に面白くなくなってきた僕は一計を案じた。最大の問題はひとつ。写真撮影だ。高島さんと上床氏の写真を撮らないだけでもこの状況は大きく変わる。順路の案内や記録はやらないと仕方がないけど、写真撮影は義務じゃない。一緒に行動したのではわざわざ記念撮影をしなくてはならないから、指定ポイントに到着したらまず二人とは距離をとる。次に、一緒に行動しないことが不自然にならないように、さして興味のない案内の看板を必死に読み込んで、時には2度読んでみたり、3度読んでみたり、いっそ暗記してみたり。こうなると、もはや観光とか雑誌の企画とか、そこらへんはもうどうでもよくなってきていた。こうすればゴールまでなんとかやりすごせるかと思った矢先、指定ポイントではないところで、上床氏が急に車を止めた。


「ここは有名な撮影スポットなんだよ」

「(知るかぁ~!)そうなんですね」


 さわやかに返した。


(車を止めているから降りるしかないのかな・・・)


 分厚い曇があるために何故ここが有名な撮影スポットなのかまったくわからなかった。お世辞にも景色がいいとはいえない。山頂近くらしく、たしかに壮大であることだけは理解できた。


「降りようか!」

「えっ、あっ、はい・・・」


 路肩に止めた車から3人とも降りるには降りた。


(冗談抜きにこのまま歩いてひとりで帰りたい。このまま帰りたい。ここでこの二人のツーショット写真を撮るくらいならこのまま黙って歩いて帰りたい。是非にもそうさせてもらえないものだろうか)


 気の小さい僕にそんなことができるわけもなく、ただそこに立っているだけだった。それでも無駄に気をまわしてしまう性格なので、言いたくない台詞がつい口を突いてでてしまった。


「写真撮りましょうか?」

「あっ、そうね、折角だからお願い」


 今にして思えば、湧水地などの観光名所での撮影はまだよかった。何故だかここでの撮影はどうにもこうにもならない抵抗を感じる。上床氏の言う通りここはおそらく青ヶ島本島屈指の撮影スポットなのだと思う。暑い雲を取り払った先の背景がどうなっているのかは分からないけど、尋常じゃない空間が広がっているのはいくらなんでも分かる。だからなのだろうと思う。壮大な空間を背景にして写真に納まる二人という構図は特別感を醸し出すからなのだと思う。


(流石に無理。本当に無理。いい大人だけど泣いてもいいだろうか・・・せめてカメラを投げ捨てて帰ってもいいだろうか)


「じゃ、じゃぁー、い、いいですかぁー。お、お2人はそこに立ってください・・・は、はい、チーズ」


 震える声を抑えながら、やはり震えている手でシャッターを押してしまった。


(やってしまった。きっと生涯後悔することになるだろう写真を撮ってしまった。辛すぎるからもう次に行こうよ)


「さっ、次行きましょうか」

「あっ、撮るよ」


 そう言いながら上床氏が僕に歩み寄って来ていた。感情が爆発した直後のことだったので、この後ここで高島さんと僕のツーショット写真を撮られてるときの自分の感情をまるで思い出せない。

 この時の写真は今でも持っている。高島さんと上床氏の写真では高島さんの表情は真顔。僕と高島さんとの写真で高島さんの表情は満面の笑み。でもそれは帰って写真を見てからわかったことで、この場ではわからなかった。この写真で僕も一応笑顔になっている。我ながら鍛え抜かれたポーカーフェイスは流石だと思った。

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