第七十三話
「だがそれならおかしいではないか、最初の目的はとにかく。三つ目の古参どもを始末するのも、お前の狙いだとわかるが…。
確かにエドワードが王子だったというのを公表した。
しかし、王室の復興は語ってはないだろう?」
「よく気づいたね、それはボクの賭けだったんだ。
あの当時、古参のカリフの判断で方針が変わるくらい腐敗していたと言ってもいい。
繰り返すようだけど、ミンも殺された手前、何とかして彼等を始末しなければ、七色同盟はもっとめちゃくちゃになると思った。
でも『まだ』ボクにも良心があった。
その時にはアイーシャが捨てた日記帳が手元にあったのを利用して、ボクはこう聞いてみたんだ。
『日記帳はこんな感じで破棄される可能性がある。
エドワードに王位、王室を復活させて、傀儡にすればボク達にとって今後、優位に立てる』
とね…」
「だが思惑は外れた。
だがアルマ、お前はそんな理屈で大勢の人を殺す計画立てたというのか?」
頷いたアルマに、今にもレフィーユは掴みかかろうとしていた。
でも、そうしようとしないのは、アルマがずっと彼女を見ていたからだろう。
「そのとおり、もう起こした手前、言い訳はできないよ。
あの子にも悪いことをした…」
いつものようにはぐらかす気もなく、そんな事を言うアルマの顔はとても澄んでいた。
「タイミングは君達がよく知っているだろう。
でもあの時、捕まった彼女がボクの隠れ場所を教えたんじゃない。
ボクがもらした(リーク)したんだ。
古参どもを始末出来る、これほど絶好の機会を逃すワケにはいかなかったからね。
狙い通り、調子に乗った老人カリフは全滅した。
後はキミに協力する事で味方である事を演出すれば、シャンテ、そして、シャンテ側を排除すれば計画は誰にも実感のわく事がなく実行される。
だけど目の前に広がっていた光景は、あまりにも違いすぎていた」
「光景?」
「ああ、キミとエドワード、あまりにも実力差のある戦いだった。
意地だけで立ち上がるエドワードを容赦なく打ち伏せ、手加減なんかなく何度も倒す。
でも、意地だけで立ち上がるエドワードを見た時、ようやく彼に気づかされた。
ボクらが守るべきだったのは名誉なんかじゃなかった。
部下が最後まで口を割らなかった事に微笑んでいた事に、エドワードはどうしてアイーシャにこだわり続けるのかが、ようやくわかった…」
アルマは悔いるように拳を握り締めて答えた。
「意地だったんだ」
大きくため息をついたので、どこかで見たイヤリングが光に反射した。
「すべてを始末して、ようやく気づいたんだ。
意地があるから守ろうとすることが出来ると、意地があるからボクらはいままで戦ってこれたんだって
ね。
今さら許してほしいなんて言えないけど、でも、さらなる腐敗を避けるにはこれくらいしか出来なかった」
「…これから、どうするつもりだ?」
「そうだね、罪を滅ぼしたんだ。罰を受けようと思うよ」
まるで死を覚悟するように言うので、ようやくこの会話が何かしらの方法で、アルマの仲間に聞こえるようにしてあるのだろうと。
そう思った時、腕を組んで答えた。
「気に入りませんね」
自然とあっさり答えた。
おかげでアルマに『何だって?』と聞かれてしまったが構わず答えた。
「オズワルドさんにしたり、貴女にしてもどうして七色同盟という人は足掻くというのを知らないのでしょうね。
当初の計画を実行しないなら『全てを聞かせた上で自分が死ねば』全てが解決するとでも思っているのですか?」
「でもどうすればよかったのかな、今度ばかりは象徴である日記帳すら、どこかに行ってしまった。
もう象徴はない、新しく作られた『象徴』も利用する機会を失った。
今の彼等にあるのは怒りなんかじゃないよ、消失感…。
この殺意は人を殺すのも先人達が示しているじゃないか?」
「なら、死ねばいい、ただし、条件がありますが…」