第七十二話
このお土産屋の少し奥で三人が、おそらく歴史が変わるような話をしている。
誰かに聞かれてしまうと、明らかに今後に何かしらの影響を及ぼしかねない会話を自分達はしていると自覚をしている中を通行人が横切った。
レフィーユも視界に入ったので騒がれるかと思いもしたが、さすがカリフの隠れ家というのだろうか、完全にこちらからは見えるが完全に影に隠れた彼女を見つけることのなくそのまま素通りしていった。
「『とある人物』としておこうか、その『とある人物』が、そこにいた執事に日記帳を手渡したというのは有名な話だよね。
そして、その瞬間が、最も日記帳が『他人』に読まれるタイミングがやって来た」
今でこそ金庫で保管され神聖さを帯びたその日記帳は、当時、最も普通の日記帳だったらしいと、アルマはその時代を思い浮かべながらレフィーユを見た。
「……」
彼女もずっとアルマを見たままだったが、何も言わなかった。
おそらくアルマはそこまでは言わなかったが『読まれてしまっていた』のだろう。
手渡された人物に…。
こう察してしまうと、次に口を開く人物は自分だと自ずと解る。
「ですが、あれは『七色同盟が今から何をするのか』書かれた日記ですよ。
内容を変更する機会があったはずです、そんなみんなの足を引っ張る内容を変更しないと言うのは、おかしくありませんか?」
「その通り、日記帳を読んだ人物も、当時『虹色同盟』に仕える事が名誉だと思っていたと、ボクの親からも、ボクのおばあちゃんからも聞いてる。
でも、『裏切られた』って言う感情が強かったのじゃないのかな?
その証拠に執事は、ボクの先祖の兄弟のどちらかが殺害する至ってる。
そして、その目標が兄か弟かわからない片割れに向かった頃、その執事にとって予想外の事が起きてその子は『助かった』。
その人物が影で組織していた…」
「…カリフか」
レフィーユのいう事に何も言わずアルマは頷いた。
「当時、カリフは二つに分かれてなんかない。
『影で組織していた』というのは頭領も、その時のお父さん、つまりボクの先祖が勤めていたそうだ。
そして、あの事件が起こった。
当然、頭のいない組織は分裂、分散の危機に至りそうになったけど、跡目がいたから何とか持ちこたえそうだった。
でもカリフ(かれら)が執事を前にして、つきつけられたのは、そんな裏切り行為、多くの仲間は執事側に付いた。
そして、ボクの先祖に仕えていた執事は…彼の息子を『虹同盟の一員』の証しようとした」
「バカな、誰かが気付くはずだ」
それに首を振ったのはアルマだった。
「そうだね、だけど、今度はあちらはカリフを手にしていた。
当然、キミのように、七色同盟の一人の『誰か』が騒いだ。
けど、始末された。
レフィーユ、ミンが殺害されたのが『この事件』の始まりなんかじゃないんだよ」
あえてアルマは何色の人物がこの行為に及んだのか言わないのは、あまりにも大きな問題、一個人がなんとか出来る問題じゃなくなっていたのだろう。
そして、その何色かわからない『誰か』を始末して、最悪な事をさらに生んだとアルマは言った。
「今度は身内も兄弟もいない…。
そして、考えあげたのは、カリフの子供をその跡継ぎにする事だった」
「それがシャンテさん…」
「ここまで来ると、一般レベルで異変に気付くかもしれない。
だけど、日記帳はここで利用された。
一番、脅しやすい人物を探し当てる事が出来たんだ。
今回も似たような事件が起きてるけどね」
緊張が張り詰めた空気を何とかしようとしたのか、アルマは軽い調子で笑みを浮かべたがレフィーユは黙ったままアルマに答えた。
「なるほど、だから『名誉などアテにするな』か?」
そんな皮肉を込めて…。
「情報操作がうまくいけば、意外と矛盾なんて破棄できる。
それを指し示すように、その人物は足場を固めて行き。
とうとう七色同盟と名前を変え、その一員として生き延びた。
言っておくけど、こちら側のカリフとしては何もしなかったわけじゃないんだ。
影で様々な抗争があったそうだ。
様々な小細工に、命のやり取り。
でも、あまりにも強大になった相手に、適うわけもなく、その行いは『墓荒らし(カリフ)』といわれるようになった。
そのせい…なんだろうね…」
「どうしたのですか?」
「ボク達にも変なプライドが生まれていた。
オズワルドが自分が七色同盟の中心人物である事といったことにプライドがあるように、墓荒らし(ぼくら)にもいつか墓を守るモノとして、返り咲くなんて、プライドが生まれてしまったんだ」
「『生まれてしまった』ですか、ですけど、こういう事に陥っただからこそ、プライドを持つ事が大事だと思うのですが?」
するとほんの一瞬、アルマが黙ったというより、息を呑んで緊張したのに気付く程の間だった。
「それはミンを見殺しにしても、持つモノなのかい?」
『ごめん』
ただ一言、そう言ってアルマは辛そうに自分達を見た。
彼女はカリフの頭領は自分であるのに、その事件が起きるだろうと予期もしていたらしい。
「守ろうとしていた、でも、ボクの意見なんて誰も聞かなかった。
『お前は頭領とはいえ、まだ若いからわからないだろうが、大局を見ろ』
…なんてね。
アラバくん、拉致する前に感じてたかも知れないけど、へたくそな尾行だっただろう、それだけカリフお得意の技術も落ちていた。
そして、年功序列も確執があった組織はそんな名誉だけが先走って、どこかの求婚マニアと一緒だったんだ…。
その時の日記帳も読んでいたボクにとって、それこそ大きな『裏切り』だった。
でも、ボク一人ではどうする事も出来なかった。
そこでボクが選んだのは、アラバ君、キミだった。
ボクは昔からキミの事を知っていたのは話したよね…。
そんなキミを利用する事で、ボクは三つの計画を実行しようと目論んだんだ。
一つ目は、前に言ったようにレフィーユにシャンテ側のカリフの存在を見せる事。
二つ目は、この通りエドワードに王位を戻し、日記帳に変わる新たな象徴として、ボク達のカリフが表舞台に立つ事にあった。
三つ目は…」
それを言い終えた瞬間、レフィーユの目が鋭くアルマを睨みつけていた。
正直、自分でもアルマに利用されている感じもしていた。
いつもホントの事を話すとも思えもしなかったが、いざ、ホントの事を聞くと吸い込む空気が冷たく感じた。
「どこかのタイミングで、アルマさん側、古参のカリフを始末…ですか」