第七十話
その日、エドワードが一人、会見席に座ってフラッシュを浴びていた。
『エドワード 本日 離婚』
今日何度目になるだろうか、いい加減にテロップの共通項を見つけだすほど、テレビを二人でとある場所で眺めていた。
「結局、別れる事になったか…」
今は昼下がり、ここのテレビで流れている会見は朝の9時に生中継されたので、昼下がりになってこんな質問をしてくるのには彼女も事後処理に追われていたからだ。
会見席には、今、彼しかいない。
(…では、話し合ったと言いましたが、これはご両親方と話し合ったのでしょうか?)
(いいえ、もう、そう言った事をなくした上で、ちゃんとアイーシャと話し合い。決めた結果です)
エドワードは見ての通り、全快とまではいかないが回復した身体で、この会見に臨んでいた。
アイーシャは結局、あの後から姿を見せていない。
(では、そんな勝手な事をして、双方の家の名誉にキズを付く事を考えた事がなかったのですか?)
今回の騒動で無傷でなかったのは誰もいないだろう。
オズワルドにしても、この一週間の間でレフィーユの一件が決まり手となったのかとうとう破産が決まったらしい。
チェンバレンに至っては、シャンテと最後は寄り添う事となったが、彼女への追求は逃れられないだろうし、チェンバレンにもそれは及ぶ。
レフィーユは、あの会見は何かしら波紋を呼ぶ事になるのは目に見えていた。
「ふっ、心配する必要はない。その程度で潰れるほど、私は弱くは無い。
この通り、今回ばかりお前は悪役だが、私はお前は間違っていないと思う。
結果的に良かったのじゃないのか?」
そう言っていつもの調子でレフィーユは新聞を取り出して、自分に見せる。
確かに『今回ばかり』である。
周囲には知り合いの活躍も記載されていたが、確かに今回ばかり読む気にもなれなかった。
『漆黒の魔道士を倒した エドワードの活躍』
第一面を飾った自分の活躍(?)に、自然に眉間にシワが寄る…。
おそらく、このシワの寄りは、次の瞬間、さらに深くなっていくのがわかった。
何故なら…。
「どうした目の描写が眉間のシワで、顔がリットルを表しているぞ?」
『どうやってるのだ?』と聞いてきたが、問題は次のテレビの映像にある。
なおもマスコミが盛り上げるのを狙っているのか、無粋な質問をエドワードにぶつけ続けていた。
最初の内はエドワードも何とか返答をしていたが、とうとう…。
(エドワードさんが不甲斐ないから離婚に及んだ説もあるそうなんですが、そこの説明はどうしてしないのですか?)
調子に乗ったマスコミがいい気になった。
その時…。
(すこし言い過ぎじゃないかな?)
アルマが影から現れた。
一斉にフラッシュはアルマを襲う、それを想定してだろうか口を覆うように布で隠していたアルマはエドワードに一礼して、マイクを取った。
(どうも、ボクはアルマ、キミ達でいう…カリフという組織の頭領といえば解るかな?)
普段、自分と接している様な調子、その軽い調子と、しかもカメラ目線で答えていた。
(ごめんね、エドワード君、静観を決め込んでいたんだけど、あの子、レフィーユの時にも心無い質問のしてたヤツだから、言っておこうと思ったんだ。
あまり図に乗らないでほしいな)
余りの異変に警備員も彼女を取り囲み始めるが、アルマは気にせず答えた。
(キミ、さっきさ。
不甲斐ないって言ったけど、エドワード君は、この一週間ずっとアイーシャと話し合って、それで決めたんだよ?)
するとアルマは、エドワードに向いて聞いてみた。
(前の彼だったら、話せなかっただろうさ。
エドワード君、キミは前に比べれば随分と、いい顔つきになったモンだよ。
何がきっかけでそうなれたのか、わからないけど今なら向き合えるんじゃないのかな?)
(あ、あのどう言うことでしょうか?)
おそらく、その時の光景は、一生忘れる事はないだろう。
「レフィーユさん、一つ、聞きたいのですが『知ってました』?」
「まあ一応、七色同盟の全員は知っていたがな」
(もう自分の名前に縛られる事はないだろう?)
そう言うと、エドワードは意味を解したようにマイクを取って言った。
(私、エドワード・F…。
私の名前はエドワード・フォルグナート・ポルテは、本日、アイーシャさんと離婚します)
一瞬、会場が静かになった。
どういう意味か考えたからだ。
『ワールド・ゼロ』、それの元の国の名前と一緒の苗字を持つ、その解りやすい意味に…。
「王と名乗る事をやめて2000年も経っているから誰も気にはしなかったが、エドワードはフォルグナート公国の今の皇太子にあたる人物だ」