第六十七話
壮絶だった戦いの敗者と勝者がいた。
その図式どおり、どちらかは立っており、その片方はそれにもたれ掛かるように気を失っている。
そう、これはもともと勝ち目の無い戦いだった。
「私はいつも、特別扱いされていた…」
しかし床に寝転ばせた時、まだエドワードは意識はあったのだろう魔道士の足を掴んでよじ登って行く。
振り切れるほどの力、でも魔道士は黙ったまま彼をずっと見つめていた。
「嫌だった、でも、私一人ではどうにもならなかった…。
そんな時に現れたのが、あの人だった。
彼女は私と同じ思いを持っていた。
でも彼女は私と違って、うじうじしてなかった。
羨ましかった、次第にどうすれば彼女の隣に居られるか思うくらいだった…」
一手一手、歯を食いしばり組み付くようによじ登り、ようやく目線が同じ高さまで合おうとした時、エドワードはよろけて倒れこもうとしたが、魔道士が一歩、後ずさって抱きかかえられていた。
「守る…守るんだ」
意識も薄れてきたのだろう、構う事無く、エドワードは両手で抱きかかえていた魔道士の首を絞めていた。
「……」
首を絞められていると言うのに、苦しむそぶりを見せず、ずっとエドワードを見ている魔道士。
しかし、力を込めれば、簡単に振り払える程度に絞められていたのだろう。
彼は首を引っかかれながら、それを外して意識があるのかどうかわからないエドワードに答えた。
「…そうですか、では、アイーシャさんには手を出さない方が良さそうですね」
そして彼は、確かに答えた。
「…私の負けです」
聞こえたのかどうかわからないが、エドワードはそれに答えるように今度こそ潰れるように倒れ込んだ。
『後は任せる』と言わんばかりに、彼は私を見る中を叫ぶ人物がいた。
「どうして勝ったのは貴方の方じゃない!?」
アイーシャだった。
「結構なダメージじゃないですか?」
おどけながらも胸元に手を当てるが、アイーシャは納得のいかない様子だった。
「例え一撃でも、私は…これ以上戦えませんよ」
「おふざけにならないで…。
私は何のために日記帳を捨てたのよ…」
アイーシャは魔道士を殺意を持っていたのだろうか、睨みつける態度に迫力が増していた。
「ふざけているのは、貴女の方ですよ。
貴女がどれだけ死にたいのかわかりませんが、一度、生きていて欲しいと考えてくれる人の気持ちを考えた事がありますか?」
すると倒れたままのエドワードを見た。
「貴女の事が好きだと言ってもくれるのに、貴女は真っ直ぐ受け止めようともしない。
貴女のために戦ったのですよ。
貴女はそれを笑う権利はどこにあるというのですか?」
「それこそ笑い草ですわ!!
貴方も『戦えば、考えが変わる』なんて幼稚な考えを持っているの?」
すると、魔道士の気配が変わった。
最初は怒りだと思った。だが目が哀れていた。
「彼は知ってますよ。だから、黙って戦う事しか出来なかったんじゃないですか?」
すると彼は遠くを眺めた、その視線の先は私の背後だったが、その意味はしばらくして気づく事にした。
「そこまでよ」
「遅かったですね?」
歪んだ声でそう聞いてくるので、どんな気持ちで言ったのかわからないのだろう。
「アンタ…」
彼がエドワードを倒した事が、すぐにわかるような状況下セルフィは彼を睨みつけていた。
運が悪いのだろうか、ただ、彼はこの一言を覚悟していただと思えた。
「許せない」
一体、彼はどれくらいこんな目に合っていたのだろう。彼は慣れすら感じさせる態度だった。
「どうする魔道士、これでボクとセルフィを敵に回す事になるけど、キミは逃げた方がいいんじゃないのかな?」
『逃げろ』という意味を遠まわしに言うすると、彼はエドワードを一瞥して私に背中を向けた。
「そうですね、もう勘弁してもらいたいですよ」
そう言って立ち去りながら、おそらく、これが彼の本音がもれていた。だが素直に尊敬が出来た。
「待ちなさい!!」
セルフィが追っかけようとするが、これくらいの事はさせてほしかった。
「駄目だよ。今はエドワード達を運ぶんだ」
そう言って、セルフィに力の抜けたアイーシャを任せて、エドワードを担ごうとした時、何かに光っているモノに気付いた。
彼に取り付けられていた通信機だった。
「もしもし、こちらアルマ…」
一瞬、驚いたのか、反応されると厄介なので一方的に話す事にした。
「アイーシャを捜索する際に漆黒の魔道士に接触して、エドワードは今、話せない状態なんでね。
怪我を負ったという事だよ。
今…」
すると今いる現在地を言うと、次にコレを言うのは気が引けた。
「…勘違いしないでほしいな。
勝ったんだよ。
もう一度、言わせてもらうけど、エドワードは勝ったんだよ。
漆黒の魔道士に…」