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第六十六話

 もともと勝ち目のないだった。


 エドワードの攻撃をほぼ避け、ようやく近寄れて攻撃が出来たとしても、その攻撃を魔道士は完全に受け流す。


 そして、武器を手にして『人に切りつける』という事にまだ躊躇もあるのだろう、戸惑ったエドワードは簡単に反撃を許してしまう。


 決定的な実力の差、経験の差。


 今までエドワードがなんとか有効に出来たのは、彼の攻撃に対して魔力による防御くらい、つまり『防御本能』でダメージを軽減させるくらいだったのだが…。


 とうとう、それも尽き。


 エドワードは壁に顔面を叩きつけられたせいで、脳が揺れたのか出て来た鼻血を拭わず、ずっと蹲っていた。


 「ほら、格好をつけるからこうなりますのよ」


 武器を形成するのが、精一杯になっていたエドワードに、アイーシャは冷たく言った。


 「格好つければ私が離婚の事を考え直してくれる、なんて思っていましたの?」


 「ねえ?」


 「お生憎様、私はそんな貴方が…」


 「どうしてエドワードを見て言わないの?」


 ふらつきながら何とか立ち上がったエドワードを、アイーシャは見ずにそんな事を言っているのだから、それを指摘するとアイーシャは黙った。


 「ねえ…彼にとって、七色同盟って何だったのかな?」


 エドワードに、ゆっくり視線を移しながらアイーシャに聞いてみた。


 「実をいうと、ボクはあまりカリフっていう組織に誇りなんて持つ事が出来なくてね。


 周囲は組織内で恋愛なんて普通にするわ、真面目に守る気なんてあるのかとかさ。


 まあ、そんな状態だから後で酷い事になったんだろうけどさ。


 その後にキミが日記帳なんて捨てたモンだから、もしかして、こんな奴らを守らなければならないのかなんて思ったモンでね」


 そこまで言うと、エドワードはようやく落ち着いて来たのか、もう一度、身構えるが闇の散弾をもろに受けて倒れた。


 「多分、エドワードもさ、キミが思った通りの事を思っていたんだと思うんだ。


 家系や伝統、しがらみ。


 そんなのに挟まれたらさ、あんな性格になったのも仕方がないんだと思うよ。


 でも、そんな中で、そんな中でさ。


 エドワードが一番、七色同盟という名前に足掻いていたんじゃないかな?」


 「そうね、一番、足掻いててみっともないったらありませんでしたわ」


 「頑張ってもない人間が、頑張ってる人間の事を悪くいうもんじゃないよ」


 するとアイーシャは睨み付けたが怖くはなかった。


 「いつも頑張っていたんだよ。どうして、そうやって眼を背けたの?


 さっき言ったよね。


 『特別だから』って、それで彼は何もしなかったと思う?


 エドワードが嫌いだなんて言ったけど、嫌いになる前にもっと相手の事を見てあげてもよかったんじゃないかな?


 そこくらい、もう一度考えてほしかったよ。


 ついでになんで、さっき手を掛けなかったか教えてあげるようか、そんなキミなんか殺しても意味ないからだよ」


 そう言うと、呆れ気味にサーベルが自分たちの近くに転がっていた事に気が付き、拾いあげてエドワードに近寄った。


 「随分とやられたモンだね?」


 「す、すいません」


 もう一度、エドワードにサーベルを手渡して聞いてみた。


 「やっぱり代わろうか?」


 返答は当然、首を振る。


 「でも、敵わないよ?」


 現実を見てモノを言ったつもり、しかし、ここまで戦う事が出来る人間だということ。


 好きな女性のために頑張る。


 こんな男のために、ただその強敵を倒すのにどうすればいいか、何か言ってやりたいと思った。


 「頑張れ…」


 肩を叩く、それだけ、自分の力量不足を思い知る。ただ、ここまでだった。


 「ありがとうございます…」


 何もしてやれないのが歯がゆかった。だが、それでもエドワードはお礼を言って、構う事なくサーベルを握り閉める。


 「…そう、頑張れ」


 一瞬、魔道士の『自声』が聞こえた。


 エドワードには気のせいだと思えたのだろう、誰が自分を倒せと応援する人がいるモノか。


 「余所見はいけませんよ?」


 そう言って、魔道士の声は濁った声に戻っていた。


 だが心なしか微笑んだかのようなトーンで、法衣を広げ再度、砲弾を形成し、エドワードに襲い掛からせた。


 なすすべも無く、はじけ飛び床にうつ伏せるように倒れる中、息を荒げるエドワードは呟いていた。


 「敵わない、わかってますよ…」


 顔面に砲弾の直撃を浴びて、エドワードは転がるがすぐに立ち上がる。


 「だから、こうしてするしかないじゃないですか…。


 いつも、私は恵まれていた。


 七色同盟だから…」


 息切れは途絶える事は無い、もう限界はとっくの昔に超えていたので、音量が下がって聞こえなくなった。


 しかし、もともと足に来ている身体を起こして、ようやく目標を定めたのか叫んだ。  


 「私だって、好きな人のためなら死ねるんだ!!」


 絶叫だった。


 それに驚いたのか魔道士は反応が遅れた。


 エドワードが今までにないくらいに、魔道士に接近を許す、しかし、エドワードの攻撃は見事に受け止められて、サーベルを握った手の関節を極めながら放り投げられた。


 駄目か…。


 その時の私の感想はそうだった。


 だが、今度は私が驚く事になった。


 「うおおおお!!」


 すぐさま立ち上がり、エドワードは歯を食いしばり、一気に魔道士の距離を縮めたのだ。


 思わず魔道士は右手で拳打を放とうと、身を屈めた瞬間だった。 


 「!?」


 私より、魔道士はもっと驚いたと思う。


 彼が拳を放つ、その瞬間に相手を『見よう』としたのだろう。


 エドワードの攻撃の間合いをすでに図っていたのか、予測なりをしていたせいか『コレは無い』と思ったのだろう。


 魔道士の驚いた思考が続く中、エドワードは前に踏み込む、踏み込んで、踏み込んで、踏み込んで…。


 ゴウッ!!


 凄く鈍い音がした。


 「ぬおっ!?」


 エドワードの頭突きが丁度、法衣の開いた眼の辺りに激突して、意外な攻撃に魔道士の歪んだ呻きが聞こえた。


 仰け反りはした。


 だが、これで倒したというのは程遠い。


 私は実戦を積んできたからだろうか、それはわかる。


 そして、ここでエドワードの弱点、躊躇してしまうのだろう。



 でも、それでも…。



 何か言えないか、私の気持ちもとうとう溢れ出した。


 「いけえええ!!」


 「うわあああああああああああああああああああああああ!!」


 声を裏返しながらエドワードは絶叫と共に前に進む。


 一秒も無い、攻撃にしては申し分ない絶妙のタイミング。


 それをエドワードは最後の力を振り絞り、サーベルを振り下ろす。


 渾身、全力、完全な殺意、そして、誠意を持って…。


 その時を、私は確かに見ていた。


 魔道士は、その一撃を真っ直ぐに見つめ。法衣を剥ぐっていたのを…。


 凄まじく閃光が散った…。


 どれだけ魔力を防御本能を要すれば、どれほど躊躇しなければ、これほどの火花が散るのだろう。


 魔力による防御本能は、自分の身体に傷をつけないための行為と言っていい。


 ただ、痛みが残る。


 反応に遅れれば、怪我だってする。


 その一撃は、明らかに命を奪えるほどの一撃だった。


 本来なら、闇に練りこまれた法衣で受け止めた上で、防御本能を作動させると聞くが彼はただ受け止めていた。


 そして、先ほどの火花が生み出した煙の中、魔道士は片ひざをつく、彼は私を見ていた。


 その視線の意味が何となくわかった私は、少し胸が切なくなった。



 多分、今まで魔道士は本気で倒しに掛かっていたのだろうから。



 エドワードはいつも頑張っていた、彼は授業を通して知っていたのだから。


 そして、特別扱いをされる事がとても嫌っていた事も、おそらく知っていたのだ。


 「……」


 私は自然と会釈の代わりにまぶたを閉じた。



 彼は特別な人間であれ、特別扱いされるのが得に嫌う。 



 彼は『それ』を選んだのだと思う。


 膝をついた体勢は身を屈めるという体勢に変わる。


 「!!!」


 目を閉じる中、魔道士の『唸り』が聞こえた。


 そりゃそうだ。


 一体、誰がこんな役を引き受けてくれるのだろう。


 誰が好き好んで、こんな人と戦わなければならないのだろうか? 


 感謝をこめて、目を開け、その一撃の行方を見送る。


 「ぐへっ」


 エドワードの鈍い声。


 魔道士の道腕が、エドワードの腹部を持ち上げんとばかりにめり込ませていた。


 彼は、背中を向けていたので、彼の表情はわからない。


 でも、その魔道士は、体力を使い果たした、エドワードを確かに受け止めていた。


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