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第六十二話


 「アイーシャ!!」


 エドワードはタンカー内を駆け回っていた。


 艦内は未だに騒がしかったが、すでに治安部が動いていて避難体制は整っていたらしく、脱出用ヘリのプロペラの音が自分の居る場所を轟かせた。


 「…しろ、エドワード。


 …えてるのか、エドワード、応答しろ」


 おかげで自分に手渡されたインカムから、通信が入ったのを聞き逃しそうになったが、何とか返信した。


 「あっ、はい、すいませんガトウさん、プロペラの音で少し聞こえなくて」


 「そうか、ならいい。だが一人でいいのか?」


 「大丈夫です、それに私がやらないと」


 「すまん、俺はお前に通信機(コレ)を渡す事しか出来なかった、避難を優先しないといかんからな」


 「けが人もいたのですから、ガトウさんは間違ってませんから」


 「だがな、お前はそうは思っていても、アイーシャは…」


 「こんな時に、そんな事を言ってられません」 


 「だが、好きじゃないのだろう?」


 「……」


 「事実は変わらないのだぞ?」


 「ですけど!!」


 一際、大きく声を荒げたので、怯んだレオナに言ったエドワードのいう事に耳を傾けた。


 「別れるのは仕方ないのかもしれませんよ。


 でも、こんな時にホントに何もしなかったら、私はホントに最低じゃないですか!!」


 普段、聞くことの無いエドワードの声に思わずレオナは黙ったが、少し考えながら悟ったのか、


 「…わかった、だが、気をつけておいた方が良いのかもしれん」


 「ガトウさん?」


 「実はあの後、甲板辺りの中継車の周りにいた覆面たちと魔法使いが戦っていたのでな」


 「…漆黒の魔道士ですか?」


 「ああ、幸いすぐに離れたから、俺はその隙にそこの中継スタッフも避難させたのだが、あの魔法使い、何かを探していたようだ」


 「何か…を、日記帳なのでは?」


 「いや、それはおかしい、お前も日記帳がどこにあるかを見たはずだ」


 「おそらく、シャンテさんが持っていると思うのですが?」


 「だったら、雑魚に構う必要はないだろう。


 まあ、暴れてくれたおかげで交戦する事無く避難させる事が出来たが…。


 エドワード、気をつけろよ。とりあえず武装はしておけ、終わったらすぐに行くからな。


 危なくなったら逃げろ、いいな?」


 そう言って、通信が切れると、ここで自分が東方術で武器を作りあげてなかった事に気がついたので慌てて、サーベルを作り出す。


 すると辺りが静かだからか先ほどのやりとりがあったせいか、一人だという事に余計に気付かせ彼を緊張させた。


 「…!!」


 しかし、それでも走り出した。


 怖いからじゃない、彼の想いがなんとか走り出す行為を完成させていた。


 「アイーシャ!!」


 彼はもう一度叫ぶ、だが、その度に先ほどからある言葉が突き刺さる。


 『もう別れましょう』


 今、考えても酷い仕打ちだった。


 公衆の面前で、自分の力の無さが招いた結果だろう。


 歯を食いしばって、自分は耐えた、今までの人生の終末。


 でも…、


 それでも…。


 角を曲がるとエドワードはさらに緊張した。


 「おや、エドワードさん、奇遇ですね?」


 そこに立っていたのは、初めて目にする西方術『闇』。


 エドワードは当然、慌てながら身構えるが、その漆黒の魔道士は両手を広げながらエドワードに聞いてきた。


 「私は貴方の敵ではございませんよ?」


 そんな事を言われて、誰が信じるだろう。


 エドワードは再度、彼を確認するように眺める。


 自分の背丈は余り高くないが、その魔道士も同じくらい。しかし、闇の法衣のためか彼の印象は大きく感じられたので、エドワードは恐る恐るを誤魔化すように聞いてきた。


 「だ、だったら、私はある人を探していまして、そ、そこをどいてもらえないでしょうか?」


 すると魔道士は少し考え込むような態度を見せ、道を開けたので、ホントに道を譲ったのか疑問に思いながら横切ろうかとした。


 その時である。


 「お待ちなさい、私も人を探しておりましてね。


 先ほどから、ここに至るまで個室の全てを探しているのですが、見つからないのですよ?」


 この時、何故か魔道士がアイーシャの事を探していると不意に思い、誤魔化す。


 「あっ、私は関係ないですよね?」


 「その割には、私が扉を開ける度に同じような音がしてましたけど、貴方も誰かを探していたのでは?」


 濁った声で何故か逃げの口上をあっさり見破った魔道士は、あるドアに目を付けていた。


 自分もこの階にある個室のドアを片っ端から探りながらやって来たので緊張感が増したのだが、魔道士はそのドアを注目するように壁にもたれ掛かっている。


 まるで自分が誰を探しているのか、わかっているような態度だった。


 その時の自分は嫌な人だと、魔道士を睨みつけていたが少し違って見えたので黙っていた。


 今までアイーシャに散々呆れさせたせいか、これだけはわかった、彼は呆れていたのだ。


 どうしてこんな表情をするのだろうかと困惑していると、


 「エドワードさん、少し話をしませんか?」


 態度はそのままに視線は自分に向いて唐突に話を始めた。



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