第六十話
セルフィが耳に掛けていた通信機で、
「そう、現場レベルを2上げて、4で対応、何かあってからじゃ遅いわ」
とシャンテの動揺からさすがに何か起こる気配を察したのだろう。
セルフィ自身も手を広げて、ハルバートを作り上げる。
現場レベル4というのは治安部で言うところの『武装して待機しろ』という意味である。
迎撃の警戒レベルとするなら、攻勢の現場レベルだと思ってもらっても構わないと、以前、レフィーユから教わった事があった。
レベル5は『指示を待つな現場対応しろ』
今はセルフィが『アタック』と声を掛けさえすれば、各位が治安維持のために行動を開始する。
当然、その事に関しては『そんな事も知らなかったのか?』と呆れられたが、攻撃は最大の防御というのだろうか、現場をよく知ってる自分にとって、セルフィの考えは正しいと思えた。
そして自分はさすがだなと少し顔を老け込んだ感じがした、無理も無い。
彼女は同級生とはいえ、飛び級で自分より年下なのだ。
そう考えると少し笑顔になり、後は彼女に任せようと思い。
「ちょっっと、待ちなさい」
ぶすっ!!
「あいたっ!!」
ハルバートを背中に突き刺してきた。
「痛いじゃないですか?」
さすがは姉妹である。
突き刺す位置は姉と一緒なので、背中をさすっていると、悪気もなく答えた。
「ふん、今どき抜き足、差し足で逃げるなんて、アンタはどこのどろぼうがっこうよ?」
「だったら解りにくい例えはやめてくださいよ。
『どろぼうがっこう』なんて絵本、『ウィキ』にも載ってませんよ?」
「ふん、だったら直接調べなさい。
でもアンタ、あのシャンテの動揺を見て何とも思わないの。一体あの日記帳に、何が書かれていたのよ?」
「なにも日記帳に書かれているのは、日常の悩みだけではなかったという事です」
「…どういう事よ?」
首を傾げてセルフィは聞いてきたが、何かしら思い当たる節があるのだろうか自分が今にでもここから立ち去ろうとしているのに下の様子を眺めたまま自分の返答を待っていた。
だが中々、事実というのを口にするのは難しいので、考え込んでいるとセルフィは『やっぱり』と答えをいった。
「その時のテロの実行グループだった?」
「…正確には、この著者が計画したそうです」
どうして2000年の間、日記帳が読まれる事がなかったか?
みんなが読まなかったから読まないで至れた、今まで体裁もあるだろう。だが、金庫にあるという事は封印されているのと同じ意味があったのだ。
それをどこかしら、セルフィは気付いていたのだろう。
少し空気が重くなったので、つい誤魔化すように慌てて取り繕ってしまう。
「ま、まあ、日記の内容で『アルマフィ』と出てましたから、貴女の先祖が計画したワケではないですよ…」
しかし、そんな事を言っている途中で意味の無い事のだろうと頭を痒くなるのを感じた。計画に乗ったのは間違いないのだから。
セルフィは心なしか下の方を見る頻度が多くなる、もう会場は沸点に達しようとしているのだろう。
「どこに行こうとしてるのよ?」
踵を返した自分にさらに飛び掛らんとする体勢で、セルフィは言うので、これだけは言っておこうと思った。
「興が冷めました、帰ります」
「ふん、帰るって、それを信じれると思う?」
少し笑みを浮かべ身構えなおすが、身構える事無く両手を広げて。
「セルフィさん、今の敵は私ではないでしょう。貴女には全体を動かさない責務があるはずです。
冷静な単独犯より、動揺した組織犯…。
どっちが対処しやすいか、わかるでしょう?」
振り下ろした、鋭い刃が首元にすれすれで止まる。
「今度は、いい取り繕い方を覚えておく事ね」
セルフィは少し微笑んだような気がしたが『ふん』と振り返り、元の位置に戻って行く。
自分も離れ、ドアをしめると一際大きな声が聞こえた。
「アタック!!」