第六話
取り囲まれ始めた、双子に向かって走り込んだレオナは金棒を振り抜きながら叫んだ。
「踏ん張れぇ!!」
キリウは言われた通りに踏ん張る。そして、そこに取り押さえていた男の腹部に金棒がめり込む。
「おわっ!!」
しかし、この男は金棒で殴られたのにも関わらず、軽い調子で呻くだけだった。
この男は目で追う事によって働く魔力『防御本能』で防がれ、効いてないのかと思うだろう。だが、ここからがレオナの東方術の付加能力である。
男の身体がまるで、金棒にしがみ付いたような形で浮き上がり、そのままレオナは振り抜いて跳ね除ける。
「大丈夫か?」
「レオナ、どうして?」
「ここで俺たちが時間を稼ぐ事になった」
そう言うと、先ほどの男も立ち上がった。
「たった三人で何が出来る?」
その男の言う事に答えるように『無駄な、抵抗はするな』と言いたいのか、その代わり白鳳学園の治安部の女性陣は、各々自分の東方術で武器を作るモノ、すぐに西方術を行使出来るように身構えていた。
「ごめん、オイラがしくじったせいで」
とうとう退路も塞がれ、事態は最悪の一途を辿るのでキリウはさすがに申し訳のない気分になっていたが、レオナは金棒を構えて答える。
「何、今となっては仕方ない事だろう、だが、どうせ捕まるんだ…」
レオナが身構える、その事がどれほど厄介な事なのか、この男も治安部の人間だという事が味方して、周囲は明らかに動揺する。
「派手にやるぞ!!」
レオナは咆哮を上げると、怯んだ女生徒が突っ込んできた。
だが、一向に応戦しようとしない…。
何故ならキリウの雷撃とシリウの西方術、『風』の壁が進路を塞いだから、そんな中でもう一度、金棒がうなりを上げる。
彼の金棒は振る力を当たった相手の体重を『差し引く』事にある。
例えば、レオナの作った、振る力、つまり、当たるまでの距離から計算される一撃が90キロだとすれば、この女性が40キロくらいだろうか、当たった彼女の体重を無い事にしていた。
事件では体重が100キロを超える巨漢を相手にしたことがあり、時折、持ち上げる事のない彼の付加能力ではあるが、今回は女性が中心である。
不利な体制での叩き伏せたりなど、距離のないが突く事を完成させていた。
「おら、どんどんいくぞ!?」
女性に暴行を加えるとは、なんてモラルの低いと思われるだろう、しかし、このレオナの付加能力、実際には戦闘において『怪我』をさせる事には、不向きなのだ。
「な、なんでオレだけ…」
付加能力を解いた一撃が、先ほどの男子生徒を腹部に命中してうずくまる、こうやって金棒で叩いた方がダメージはあるが…。
『女性に優しいレオちゃん』
そう女生徒に茶化されているレオナの攻勢は続いていた。
だが…。
「残るは一人よ、みんな集中して!!」
15分を超える攻防の中、キリウとシリウが、ついに力尽きて取り押さえられていた。
レオナの最悪は続く…。
「なかなかやるではないか…」
サーベルを片手にあの麗人が澄ませた表情で帰ってきて、周囲を一瞥して聞いてみた。
「女性中心の治安部員が相手とはいえ、一人でここまで立ち回るとは、さすがあの男の周りには骨のあるヤツが集まってくれるモノだ」
「往復4キロの道を走ってやってきて、汗一つも掻いてない貴女に言われても、嬉しくないね」
キリウとシリウは引っ立て上げられ、とうとう彼らから二つの小包がレフィーユの前に運ばれてきた。
「ふっ」
不適な笑みを浮かべサーベルの先端で、上に放り投げ、一、二、三と小包が落ちるまで、サーベルが往復して、それはバラバラになる。
「いいのか?」
「サイトを捕まえた時に、同じような感じのカバンを見つけたのでな。
おそらく、このようにお前を含め、あと3つ、その中にホンモノの『回覧板』が入っているのだろう?
…いや正確には『あと2つ』だな」
「いや、わからんぜ、俺が『回覧板』を持っているのかも知れないぞ?」
そう言って、レオナは懐から少し厚めの封筒を取り出し、プラプラと振るとレフィーユは自信を持って答える。
「いや、それはニセモノ、お前は言ってみれば、あの二人を助けるための囮だな」
「どうして、それがわかる?」
「それはお前があの二人を助けようとしたからだ。
もし、あの二人うちのどちらかが『回覧板』を持っていたとすれば、お前達は全員で助けに行っただろう。
だが残念ながら、助けに行ったのはレオナ、お前だけだ。
じゃあ、今度は私がお前に聞こう、何故、回覧板を持って、ここにやって来たのだ?」
レオナは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、レフィーユは何かに気付いた。
「なるほど、だんだんわかって来たぞ…。
『回覧板』が何であるか」
「ちぃ!!」
飛び掛り、金棒を振り下ろすが、レフィーユにひらりと避け確信を持って、レオナに言う。
「そして、どこに向かっているのかを…」
「ぬうおおおっ!!」
そのまま金棒の連続攻撃を繰り出すが、レフィーユは避けに徹する。
なぎ払い、袈裟切り、突きを避ける様は、まるで殺陣を思わせるような動作に周囲は歓声すら漏れるくらいだった。
とうとうレオナは肩で息を切らせ、対照的にまだレフィーユは余裕である。
「ふっ、少なくとも消耗しきった。今のお前の攻撃は私に当たることは難しいだろうよ
さあ、レオナ…」
金棒に左手で掴むので、レオナは息を呑む。
「お前の付加能力は『振る事によって発揮する能力』だ。
すなわち、こうやって密着させてしまえば、振る動作を行なう事など出来ず。
お前の付加能力を生かす事は出来ない。その意味、いや、もうわかるな?」
これ以上、何も言わず振りかぶるのは、覚悟をさせる礼儀なのだろうか…。
多分、疲れきった身体には防御本能は作動しないだろう。
多分、自分はこの一撃で気絶するだろう。
だがレフィーユのみね打ちが迫ってくるというのに、レオナは冷静だった。
冷静に後を託していた。
あとは…任せた…。
そして彼の思考は、そこで途絶えた。