第五十三話
コンコンッ
パソコンを打っているとノックがあり、誰だろうとドアにある覗き穴から外を覗き込む。
するとポニーテールが見えたので…。
ガチャ
チェーンを掛けてから開けると、さすがに姉妹である。
「ふん、無用心ね」
「チェーンロックを斬り落としておいて、『無用心』なんて言わないでくださいよ」
「アンタね、ノックして、チェーンロックを掛けるなんて失礼だと思わないの?」
そう言うとハルバートを消して『入るわよ』と入ろうとしていたので…。
「ちょっと待ってください」
「見たところ汚くなさそうだし、少しくらい散らかってても気にしないわよ。
もしかして、如何わしい『回覧板』でも見てたのかしら?」
少しニヤついてセルフィは言うが、こう答えるしかない。
「言ったでしょう、捨てましたよ」
「前にも言ってたけど、ヒオトさんやらをすごく警戒してたけど、どういう意味だったのよ?」
「昔、私の部屋、前に『レフィーユさんにアンタの落ち度を見つけてやる』と言われて拘束されて部屋を荒らされましてね。
幸い、見つかりませんでしたが…、食べ物も持ってかれて、多分見つかってたら、あの時、脅すだけですまなかったとつくづく思いましたよ」
「ア、アンタ結構、サバイバルな生活をしてるのね…」
そう言ってセルフィは警戒しているのだろうか、周囲を眺め入ってきた。
「それで、何の用ですか?」
「ゲームを借りに来たのよ」
「冗談でしょう?」
何しにやってきたのか、原因は『エドワード』の事で来たのだろう。
「とうとう、言われてしまいましたからね…」
そう、エドワードは『言われて』しまったのだ。
「離婚を迫る女って、始めてみたわ」
「私もですよ」
飲み物の冷暖の好みを聞いて用意するその間、その時の事を思い出していた。
何もアイーシャも最初から、離婚を迫ろうとしていたワケではない。
だがその態度は、男の自分から見ても不機嫌という表現が生易しくなるくらいイライラしていた。
そういう人には、異性は近づいてはならないが、同姓は気を使う。
声を掛けようにも無視する、毎度のようにエドワードは謝る、そのサイクルも今回、レフィーユがいなかったからだろうか。
「そんな事で、頭なんて下げる事はありませんわ」
今思えば、これも彼女がいないせいだろうか…。
「ちょっと、お前、ええ加減にせえや」
サイトが突っ掛かり、アイーシャの肩を掴んだトコロで近くにいたイワトがさすがに止めに入るが、だが、サイトの口は止まらない。
「お前のために、エドが謝ってんやろ、そんな事もわからんで…ッ!!」
早足で近寄り『パンッ!!』とアイーシャはサイトの頬を張って言った。
「言ったはずですわ、どうして親同士の勝手に決めた結婚でこんなグズグズした人と居なければならないの?
なら良いわよ、そんなに気に入らないのなら別れますわ」
そんな事は冗談では言えない。
その時のエドワードの顔を思い出すとこっちまで曇って来そうだったトコロで、紅茶を入れ終わったので戻る。
するとセルフィは最初の口約通り自分の棚に並べたゲームソフトパッケージを眺めていたが、振り向くとセルフィは一切そっちの方に目をやらなかったのだから、今回の事をそれほど気にしているのだろう。
「ありがとね、アンタが間に入ってくれなかったら、もっと最悪だったわ」
「見てられませんでしたから、というのもありますが、あの集団に襲われた時、エドワードさんが頑張っていたのを知っているのは私だけですからね。
言っておかなければって、思ったのですよ」
そう言うがセルフィは『ふん』といつもの様にしていたがしばらく黙っていた。
「どうしたのですか?」
「…ホントは私の役目だったのじゃないのかなって思うのよ」