第五十一話
オズワルドに呼ばれた先には思わずため息をついたのは、そこが最初のホテルだからだろうか、それともあんな事件があったというのに平然とホテルとして機能しているからだろうか…
いや、後者は少し違うだろう。
「レフィーユ・アルマフィ様。
ようこそ、いらっしゃいました」
ロビーの受付で支配人らしき人物が一人で迎えにやって来たりはしたが、いつもいるはずの受付には誰もおらず。
清掃員おろか、従業員の姿は一切見なかったからだ。
ふと、案内された高級料理店の扉を開ければ、そこで従業員は歓迎をしてくれたが、そんな考えは消える事がなかった。
「さすがにキミの名前を出せば、従業員にも『出勤します』言ってくれる人たちがいてね。
いやあ、さすが七色同盟のレフィーユ・アルマフィだ」
まるでこのホテルのオーナーにでもなったのような態度で、オズワルドが従業員の中心にいた。
「ふっ、私は私だ。勝手に私の名前を使わないでもらおう。
こんな大層なトコロに呼び出しておいて、何の様だ?」
「そうカリカリしないでほしいな。その煌びやかな服には似合わないぞ?」
招かれた席に座れと言うのだろう、オズワルドは椅子を開ける。
だが、それを見て見ぬフリをして、その対面に座って聞いてみた。
「私は、お前が重要な話があると言ってやってきたのだが、何か進展があったのか?」
「それもよくない、すぐに任務に取り組もうとする姿勢は立派だが、そう根を詰めるな。
あのサウスタンのようになってしまうぞ?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。
結局、全部あの男の言い分は誤解だったじゃないか?
我々が怪しいなどと…、しかも、こそ泥のアルマも逃がしてしまうとは、だからサウスタンは嫌いなんだ。
アルマに盗聴器をつけて損をした」
「ふっ、じゃあ言わせてもらうがあの謎の集団に襲われたのが、あのタンカーでの結果ではないのか?
その中でアルマが二人を逃がすために戦った。
そして、アラバとの会話は、アルマが『日記帳など盗んでない』というのを、あの男に信じてほしかったからだ」
その時の会話をオズワルドと私は、アルマに盗聴器のピアスをつけさせて聞いていた。
「馬鹿馬鹿しい、どうして、あの男にそんな事を言う必要があるんだ?」
「お前に言っても、信じてもらえなかっただろうからな」
「私は七色同盟の中心人物だぞ?」
「それがどうした?」
「あのサウスタンは何者なんだ!?」
「さあな、貴様より、あの男の方が魅力があったんじゃないのか?
何も進展の無い捜査に、何もしない警備員、何もしないお前、墓守り(カリフ)が愛想を尽かしたのだろうよ」
「レフィーユ、随分とあの女の事を信用するのだな?」
「ふっ、私は任務に失敗したから自爆するような輩を信用に値しない」
そう言うと、オズワルドはため息をついたまま黙り軽く手を挙げてサインを送った。
少し警戒して、周囲を見回したが三人の女の従業員が厨房辺りから並ぶように立つだけなので、気になりもしたが、オズワルド答えた。
「まあ、今日は大事な話があるんだ」
「なんだ?」
「婚約を受理してほしいんだ」
「貴様は墓守りだけでなく、私も呆れさせるようだな?」
「どうしてだ、もう周囲にはそう伝えたんだ。キミは周囲にも迷惑をかけるつもりかね?」
「ただがマスコミ関係、財団関係だろう、そんな親同士が決めた婚約に何の意味がある!?」
声を荒げる理由はそれだけではない、このオズワルドという男は、様々な『接待』にお金をつぎ込んでいたのだ。
それこそ事業の経営に影響の出るくらい。
「し、知っていたのか、だが、その程度、キミとの結婚が出来れば…」
「情けない男だな」
「なんだと…」
「それくらい自分で何とかしてみろ」
これ以上、この男に何を言っても無駄だろう。
人間、呆れすぎると何も言えなくなるようで、私はそのまま帰ろうとすると…。
「レフィーユ、『七色同盟の謎』というのを知っているかな?」
思わず立ち止まって、オズワルドを見る。その顔はまさに勝ち誇っているような気にくわない表情だった。