第五話
周波数を変えたと同じくらいだろうか、学園の方から車の音がした。
みんながわき道に入り、警戒しながら車をみる。
わき道で、しかも一方通行なので入ってこないとはいえ、緊急事態には曲がったりする。
緊張感を持って、誰もが『曲がるな』と思い、その思いが通じたのか…。
『白鳳学園 治安部車両』と書かれた車は直進していくので、ここにいる誰もが安堵した。
さすがの彼女もサイレンをあげるほどの騒ぎにしたくないらしい
通り過ぎたのは少しだけだった。
ドアが開かれ、何名かがこっちに向かってきた。
「哨戒…、わき道も見逃すなって事か…」
彼女らしい指示にみんなが動揺する中、レオナは出来る限り冷静に言った。
「落ち着け、車がそこにあると言う事は、この場所を離れればいいと言う事だ」
そんな事で冷静になるのは難しいが、双子のシリウは答えた。
「これから別の銀行を目指すって事でいいの、アラバ?」
「そうなりますが…」
「どうした?」
「『目指す』というのではなく『目指さないといけない』でしょうね。
おそらく、レフィーユさんはサイトさんを倒した時点では、どこに行くのかわかってないと思います」
「どういう事?」
「『ただ逃げている』のだと思っていると言う事です。
ですが一人、何かしらしくじった時点で…」
「あの人は、我らの狙いに気付くと言うことか?」
「そうです。そうなれば銀行を重点的に警備をおく事になるでしょう」
「まるで、一巻の終わりじゃのう?」
「その通りだ、ゲンゾウ、ちっ、ここにも哨戒か…」
大きな通路からさらに細いわき道に入り、先頭にいたレオナの一言は挟み撃ちとなっていることを示していた、そんな中。
「あっ、レオナ、後ろの哨戒が下がっていくよ?」
「そうか、なら、一旦戻ろう…」
あえてゆっくりと、見つからないように…。
逃亡者達は車の音を確認すると、ようやく安堵した。
「あっ!?」
その時、キリウは何かを見つけて緊張をしたが、すぐに安心して言った。
「良かった、男だ」
事情を知らない人が聞けば何かしら誤解されそうな言い方だが、今はそんな事は誰も言ってられなかった。
何故ならキリウだけではない、いや、その時、みんなはこれで味方が増えると考え、キリウは引き入れようと男子生徒に話し掛けようと近寄った。
だが、この時、気付くべきだったのだろう。
彼女が哨戒を命じれば『すみずみまでやれ』と命令する事くらい。
安心しきった、この時のみんなは気付いてなかったが、キリウは完全につり出され『餌』に触れてしまった。
「えっ?」
しっかりと捕まえられ、さっきの取調べ被害者である男子生徒は通信を入れた。
「みんな、捕まえたよ。このジングウジがさ…」
通信を入れた事により、この男は『あちら側』の人間だとわかったキリウは、必死に足掻いた。
「は、離せ!!」
「いいじゃん、死のう、このジングウジとさあ!!」
しかし、この男も一応、治安部の人間である。取り押さえ方を知っているのでビクともしなかった。
隠れていたイワトがたまらず助けようと身を乗り出したが、
「行くな、ゲンゾウ!!」
レオナが体格を生かし、必死に止めた。
「もう間に合わん、よく見ろ!!」
音だけだが、この音は先ほど聞いた車の音だった。
キリウは自分の西方術で雷を、この男の顔面に一撃、二撃、三撃と放つが…。
「もう痛くないよ、お前達もさ、あれくらいの痛みを味わえ。楽になれるぞ?」
「だ、誰が!!」
なおも電撃を流すが、設定以上の身体となったこの男には効かないらしい。
そして、ようやく事態が最悪な展開に向いてきたのが彼自身にもわかるのだろう…。
「キリウ…すまん…」
レオナはただ、そう言って、視線を送ったキリウに頷いた。
だが逃げようとした、その時だった。
「兄ちゃん!!」
弟のシリウは、取り囲まれるであろう環境の中に飛び込んでいってしまった。
そして、レオナもこう言った。
「ちっ、どうやらここが勝負時の様だな…」
「レオナさん?」
「ここでちまちまと隠密行動をとるより、俺たちがここで時間を稼ぐ」
「レオナ、何を言っとんじゃ?」
返答の変わりに、彼の東方術、金棒を作り出して、何も言わず地面に『ゴン』と音を立てるので、冗談で言ったのではないと思った。
「イワトさん、行きましょう」
「そうだ、行け」
そして、レオナは大きく息を吸い込み、叫んだ。
「我らの勝利のために!!」