第四十七話
その夜の事である。
レフィーユに頼まれた自分は、アルマがいる留置場に向かっていた。
『彼女は怪我をしているから、その治療を頼む』
そんな事を頼まれたが『いろいろ聞き出してほしい』という意味だろう。
ここは消灯時間のため今は薄暗く、誰もいないトコロをみると、この決定にはオズワルドは納得していないのだろう。
最初のゲートで警備員を見かけてから、誰もいないのだ。
『アルマが何かしら暴行に及んでもほっておけ、助けに行くな』
そう考えているのだろうと思いながら、しばらく歩くと気配がした。
横になっていたその人物も、自分の気配に気付いたのかゆっくりと振り向いた。
「アルマさん、何をやっているのですか?」
「見てわからないのかい、パッチワークだよ
ボクは上下の繋がったツナギような服が嫌いでね。この程度の拘束着なら肩の関節を外せば脱げるから、仕立て直しているんだよ」
そう言って夜一人、しかも下着姿でそんな事をやっている異様な光景の中、アルマは聞いてきた。
「それで、キミは何しにやって来たんだい?
下着姿の女を見に、やって来たわけじゃないだろう?」
「怪我の治療ですよ」
「聞き込みの間違いじゃないのかい?」
クスクスと彼女は冷やかして来て、両断した拘束着のズボンに紐を通していたので投げやりに答えた。
「勝手に思ってくださいよ」
「おや、怒ったのかい。それはすまなかったね」
そう言って正面で向かい合うと、今、自分が目にしている『それ』が目立つように見えたので。
「私はそんな大きなキズを見せられて、興奮するほど変質者ではございませんよ」
随分前からあるのだろう、アルマの身体はキズだらけだった。
背中に大きく跡を残しているモノもあれば、引き締まった腹部の横など抉れて新たなくびれを作っているモノもあったので、顔は赤くなっていたとは思うが、違う意味で息を呑んでいた。
「…カギくらいもらったんだろう、これでも背中にも怪我をしているんだ。バンソウコウくらい張って行ってくれないか」
そういうので中に入って、怪我の治療をしようとしたが、どうしてもキズに目が行ってしまう。
それに気付いたのか、アルマはゆっくり言った。
「これは、ボクが訓練で負ったキズでね。
ボクは生まれてから、ずっとこのカリフの頭領になるように訓練を受けていたんだよ」
「生まれてから?」
「そう、この世に生を受けてから…。
お父さんも、おばあちゃんも、カリフの頭領だったからね。
ボクも、こうなるんだ。こうならなけらばならない。
何て考えていたから、没頭するのに時間が掛からなかったよ」
後ろを向いたまま、昔の事を思い出したのか肩に見えるキズを撫で、先ほどの腹部にある大きなキズを撫でて言う。
「誇りもあったよ、だって、七色同盟って言う凄い人達を守れるんだよ。
どんなにキズを負っても、その一心でつらい訓練だって耐えられた。
でも、今の七色同盟を知ろうとした時、幻滅したよ。
エドワード、チェンバレン、死んだミン君、レフィーユはまだ、良いかもしれない。
残りは、身分に調子に乗っただけの人間だ」
拳を握り閉め、彼女の心境が読み取れるなか、彼女は自分の方に向いてきた。
「そんな中で、出会ったのはキミだった」