第四十四話
「ここから先は行かせないよ?」
アルマはそう言って覆面を被った男を突き飛ばし、そして、身体をくねらせて両手にカタールを構えて言う。
「しかし、いい加減、キミ達の組織の名前くらい教えてほしいものだね」
「おのれ、ふざけるな!!」
挑発に乗ったのも知らず、槍を構えた男がアルマの身体目掛けて突きかかるが、すれすれで避け、彼女が放った喉元への躊躇の無い一撃に倒れた男を見て覆面集団は思わずたじろいだ。
「ボクもキミ達のような影の集団だって事、キミ達忘れてないかい?」
ニコリと笑い、カタールを飛び掛りながら振り下ろす。
その着地を狙って、周囲もさすがに取り押さえに掛かろうとするが、先ほど斬り付けた敵に肘打ちをして、腕を交差した体勢になり、回転する動作だけでカタールを振り回して間合いをとる。
「一人に、何を手こずっている!!」
まるで一介の舞踊を思わせる戦い方をみて、アルマに苛立ちを覚え声を荒げるがアルマは言った。
「残念だけど、キミ達はボクを殺せない事くらいわかるよね?」
思わず周囲が静まりかえった。
2人を追わせるために3人向かわせたが、これは12対1から始まった戦い。
この覆面集団にも慢心があったのかもしれない。
だが、結果は5人倒され7対1、人数が減るにつれ東方術の付加能力も生かすが、その残りも傷を負っていた。
しかし、目の前に立っているアルマは、軽く血は浴びもしているが付加能力も使わずにこの集団は傷すら負わせるすら出来なかったのだ。
「…そろそろ、ボスに会わせてほしいんだけどな?」
思わず覆面集団は驚くがアルマは笑いながら言った。
「これでもカリフなんだけど知らないと思ったかい?」
そのままアルマは視線を遠くに移す。
その視線に気付いたのか、覆面集団も背後の気配に気がついて慌てて道を空ける。
「…あまり図に載らない方がいい、カリフ」
「随分と遅い登場に、随分とずさんな配備だったけど、先約でもあったのかい?」
笑いながら、気軽にアルマはその人物に話かけるが、じっくり観察をしていた。
いつもどおりといおうか、覆面を被っている。
だが動きやすいようなボディスーツを着ているため体型で女性とわかるが、次の瞬間にアルマ確信に至っていた。
「…部下の報告によると、走って逃げられた」
その女性は東方術で『日本刀』を作ったからだ。
「シャンテ、会いたかったよ」
……。
「駄目です、見つかりません!!」
その頃、エドワードを連れて、元来たエドワードの部屋を戻ろうと隠し通路のドアを二人して探そうとするが、先ほどエドワードが焦るように締め切った扉はどこにあったのか解らなくなっていた。
「ど、どうしますか?」
そうすると何やらが走ってくるような音が聞こえた気がしたので、手を引っ張りながら言った。
「追ってくるという事は、ここに出入り出来る道があるという事です。このまま走りましょう」
走りながらなので、ちゃんと聞き取れたのかわからないが、エドワードを連れて走るとその通りの大きな隙間があった。
まずはエドワードを先に出して、自分も手を引っ張られながらも抜け出し、そのまま角に入ると3人が追っかけて先ほどの道に入って行くのが見えた。
これで時間が稼げると少し安心しながら、辺りを見回すと上に上る階段が見えたので、息を切らせたままのエドワードと一緒に行こうとしたが…。
思わず引き返した。
「ど、どうしたのですか?」
困惑する、エドワードを見ながら繋がったままの携帯を手にした。
「レフィーユさん、今、どこですか?」
「すまない、ようやく、2階からそっちに向かっている」
「そうですか、不味いですね。
少し取り囲むのが遅いと感じてましたが、取り囲まれそうです」
エドワードを連れて、そこにある自販機の影に身を隠す。すると階段のある方からやって来たのは覆面を被った二人組みだった。
「貴女だったら、ありがたかったのですが急いでください」
そう言って、携帯をまだ付けたままで収めるとエドワードは焦ったままだった。
「ど、どうしましょう?」
「エドワードさん、あれを見てください」
「ダストシュートですか、でもどこに出るのかわかりませんよ?」
「大丈夫です、アレはクリーニング専用の入り口です。
見つかりはしますが、安全に逃げれます。エドワードさんは先に逃げてください」
「アラバさん!?」
肝心の通路が狭かったため、一人一人が入らないと安全を確保出来なかったのでそう言った自分にエドワードは言った。
「だったら私が残ります、私は東方術者です」
「エドワードさん…」
「これでも七色同盟であるという誇りはあります…」
「エドワードさん!!」
「私に、そんな事させないでください!!」
大声でそんな事を言うので、とうとう気付かれてしまった。
「…すいません、でも戦えるんです。どうか、そんな事を言わないでください」
静かに二人を取り囲もうとするなか、自分は近くにあった消火器を武器になるかと手にする。
突然、声を荒げられたからか、何を言っていいのかわからなかった。そんな中、拍手だけが大きく聞こえた。
「よく言ったー、エドワード。それこそ男の子ってヤツだー」
チェンバレンが、腕を捲りながら自分達と5人の覆面たちの間に立って言った。
「どうも下の階が騒がしかったんでなー。
やって来てみれば、なんだこりゃ、騒がしい事になってるなー?」
「チェンバレン、この男は七色同盟の障害になると判断し抹殺する事にした。退いてもらおう」
「抹殺ねー。
俺からしてみればー、お前達の方が十分に怪しいけどなー」
構わず集団の一人が、二人に歩み寄ろうとした。
「大した自己中だなー」
ゆっくりと『一歩』歩み寄り、距離にして3メートルだろうか、チェンバレンはその距離を『一歩』で縮めて敵を突き飛ばしていた。
「西方術の風で空気の輪を作って、その中に入って身体を砲弾のように飛ばせば、十分な武器になるってー、俺の戦い方も知らないのかー?」
「おのれ、七色同盟を裏切るのか?」
「はあ、俺は裏切ってなんかねえよー?
ただな、コイツはレフィーユの連れだろうがー、これ以上の理由がどこにあるんだー?」
のったりとしてチェンバレンは言うが、明らかに威圧していた。