第四十二話
つい、最近、前の話と見合わせている癖がついてます。
「レフィーユさん、貴女のせいじゃありません、すいません」
「人が調子を聞こうとしたら、お前は突然、何を言っているのだ?」
「いえ、何でもないです。調子はどうですか?」
「何かひっかかるが…まあいい、私の方は『案内着き』の立ち入り調査で何にも出てない始末だ」
「機嫌悪いですね?」
「当然だ。
私が『あそこが気になるから、ちょっと良いか』と行こうとすれば…
何が『ちょっと待ってください』と慌てて止められて、待つ事、10分で何が『調べて良いですよ』だ。
『調べる』という意味がないじゃないか?
不機嫌にもなる」
彼女は周囲に聞こえるように強調しながら言うのだから、よほど機嫌が悪いのだろう。
次に何を言おうとするまでに少し息を整えていた。
「それで、お前の方の首尾はどうだ?」
「そうですね、エドワードさんの協力を得て、タンカーに潜入に成功しましたが、途中で何の因果かエドワードさんと、アルマさんで探索する事になりまして…」
「これはまた随分と面白いメンツだな、一体、何があった?」
驚いた様子でこっちをみたエドワードとその様子に笑うアルマを見て思ったのだが。
「いつも通りと言いましょうか、私を含めて、エドワードさんにも危害を加えようとしませんから、ま大丈夫だとは思いますが…ねえ」
こうやって薄暗く長い通路を歩く中でも、やはり不安である。
「何を企んでいるかはわからんからな、一応、どこにいるか教えてもらおう」
「すいません、ここがどこなのかわからないのですよ。
まあ、危害を加えるつもりは無いので、しばらく着いていこうかと思います」
「レフィーユ、心配する事はないよ。
ボクは君達の協力をしてやろうとしているだけだよ」
「ふっ、どうだか。
あんな事があった手前、貴様はどうも何かを隠して私達に接触を図る節があるからな。
私はどうもお前を信用できん」
レフィーユもやはりその辺は怪しいと思っているのだろう。
自分もさっき『どこなのかわからない』と言ったのも、普通は『どこからやって来た』と言うが、自分の中にもやはり完全に信用してはいけないと思ったからだった。
「まあ、どう思うかはキミ達が決める事だからね。
安心してほしいな、ボクは彼らに危害を加えるつもりはないよ。
…どうしたんだい、アラバくん?」
だがこの時、別に自分には思う事があった。
自分の持った携帯から、アルマがいる場所はやく3メートルほど離れている。
そんな彼女と彼女の間で、どうやって会話を完成させているのかがまったくわからないのままだった。
一応、音量を最大にして携帯を手に離れたアルマに向けていたのだが、先ほどのその意図が理解できなかったらしい。
そして、思わず携帯を凝視するレフィーユの一言。
「ふっ、女には女同士にしか出来ない会話が出来ると、アイツに言っておけ」
「という訳だよ、アラバくん」
そんなクスクス笑うアルマと自分が再度、歩みを進めるとようやく目的の場所に着いたらしく、足を止めて、先ほどのように壁を弄る。
今度はふすまの様に開いた。
「ここは機関室ですか?」
「そういう事になるけど、正確にはその配管の裏側って言ったらいいかな?」
「裏側ですか、おかしいですね。それにしてはここは随分と広い感じがしますけどく?」
「ふふ、その通り、そして、ここから、ほぼ一方通行で誰にもバレずに外に出る事が出来るんだ。
それにここからなら、謎の集団が集められる事が出来ると思わないかい?」
そして、アルマはエドワードの方を見る。
「それが、エドワードさんの部屋にあった…」
そう呟いて、自分もエドワードを見て。
「まあ、この通路は他にもあるんだけどね」
アルマの一言にずっこけていた。
こう答えのように、アルマはしばらく歩き、また壁を弄りドアを開ける。
「ちなみにここはチェンバレン君、だったかな、彼の部屋に繋がってて、さらに間隔を置いて全員の部屋に繋がっているんだよ。
まあ、昔からある、脱出経路だからね」
「あれ、でも、エドワードさんは『知らなかった』のですよね?」
驚いたままのエドワードも、つい頷くのをみてアルマは言った。
そして、いつもの調子で…。
「後は自分が考える事だよ」
「そう来ると、思いましたよ」
少し『ムッ』とする中、エドワードは感心するように言った。
「やっぱり凄いですね。私はさっきから圧倒されるばかりで、ごめんなさい、本当は東方術者の私がしっかりしていないといけないのに」
「そんな事は無いですよ」
「いえ、貴方は十分に凄いと思います。
私は強くならないといけないといけませんのに、これじゃあ、アイーシャも守れないのも当然ですね」
「ああ、その事だがエドワード君、いいかな?」
「な、なんでしょうか?」
「ボクも調べている内に『キミが強くなりたい』なんて事は知ってはいるけどさ。
強くなっても、意味がないと思うよ?」
「えっ?」
「そんな強さを求めても、この『アイーシャはキミが別れたがってる』って意味は変わらないって事だよ。
キミもそんな事を理解してないほど、ボクは子供だとは思ってはないよ」
押し黙るエドワードを見て、アルマは言った。
「…ある男の話をしようか」
「ある男…」
「ああ、ある男、その男はね。
ある一遍の正義感を持っていた。
どこにでもいる、例えば爆破事件が起きて逃げ惑い、その人ごみの拍子で倒れた老婆を安全な場所に移すといった行動が戸惑う事なく、実行できるような男だった」
「それなら凄い人じゃないですか」
エドワードの反応にアルマは自分を見ながら言った。
「いや、だが、その老婆には小さな子供がいたんだ。
その子は、彼を見て何をしたと思う?
石を投げつけたんだ。
『お婆ちゃんに触るな』ってね」
「どうしてですか、明らかに彼は間違ってないじゃないですか?」
「そう間違ってない、だが、彼にはある特徴があったんだ。
その特徴のせいで昔から『彼は悪だ』と、こう言われ続けていたんだ。
例え、キミの言ったとおり間違って無くても、世間は一度、判断した事に概念を覆さない。
そんな彼にキミは良く似ている。
キミの場合はどんなに頑張っても、アイーシャはキミに振り向く事など無い。
キミにホントに必要なことは、現実を受け入れる事にあるんじゃないかな?」
「現実を受け入れる…」
「…強くなるというのは、そういう事だよ。
自分の弱さを認める。
生まれも認め、そこから自分自身を見直す事が『強さ』なんだよ。
ボクは思うけど、キミがいくら特別な生まれで弱くても、それは今からでも始めないといけない事なんじゃないかな?」
そう言われ、アルマはいつものようにエドワードに考えさせてたが、しばらくして、その先に続く道を見た。
「やって来たようだね」
それはゾロゾロとやって来た。
「どおりで立ち止まっていたワケですか?」
「この状況じゃ、どう言われても仕方のない事だね…」
エドワードは戸惑う中、謎の集団が自分達の前に立ちふさがろうとしていた。