第四十一話
頷くエドワードをみてアルマは、にこやかに笑い、何をするのだろうかと思っていると、エドワードの部屋を散策し始め。
「アラバ君、ちょっと、この本棚を退けるのを手伝ってくれないかな?」
「この本棚滑車が付いているのですから、ストッパー外せば何とかなるのでは?」
「一応、エドワード君の部屋だからね。了承を得たとはいえ、丁寧に扱わないと失礼だろう?」
ごもっともな理由だったので、ストッパーを外し丁寧にアルマの指示通りにやると、さすがにエドワードは困惑していた顔をしていたらしくアルマは言った。
「何をしているのかと言いたそうな顔してるね。エドワード君、その前に一つ聞いていいかな?
キミはこの部屋を使っていいと、誰から言われたのかな?」
「それは随分前、父以上前くらいの話になりますが、それがなにか?」
聞いているのかと言いたくなるくらい、しばらくアルマは背中を向けていたが、やがてエドワードに聞いてきた。
「じゃあ、これが何かわかるかな?」
そう言って、アルマは踏ん張る、その瞬間である、壁はまるでシャッターのように開いた。
エドワードの顔が何を物語っているのは、容易に理解できた。そんな状況下、アルマは構わず中に入って行くので、戸惑いはしたが本棚を元の位置に戻しながら、二人はアルマに続く事にした。
「凄いですね、まさかこんな事になってるなんて…」
あらかじめアルマが照明のスイッチを入れていたので、エドワードは周囲を見回してそんな事を呟いていた。
「あの部屋はキミが随分前から使っていたというのに知らなかったのかな?」
「す、すいません、まさかこんなトコロがあるなんて知りませんでした」
「まあね、これがこのタンカーの入り組んでいる構造の理由でもあるんだよ」
「ど、どういう事でしょうか?」
「通路が入り組んでいれば人はそこにある空間や通路に気付かないという事ですね?」
自分の言った事にエドワードは感心しながら、アルマはにこやかに頷いたが、おかげで気がついた事があるので聞いてみた。
「では貴女は、どうしてこの通路を知っていたのですか?」
「噂だったからだよ」
「噂…?」
「そう、このタンカーには秘密の通路がある事で有名でね。予めインターネットで調べて見たんだよ」
「インターネットって…。そんなに簡単に見つかるのですか?」
「エドワード君、機密は存在しても、今のご時世、組織に忠誠を誓う人間なんていないよ?」
あんな事があった。自分の事を棚に上げて、そんなことを言ったので今度は自分が困惑した。
「相変わらず、何をしたいのかわからない人ですね。どうして、こんな手のかかる事をするのですか?」
もともと、アルマに対して困惑をしていたのだろう、多分答えてくれないと思った。だが、アルマはじっと見つめて言った。
「それは日記帳に書かれていたからだよ。アラバ君、あの日記帳の最後は何て書かれているか知ってるかい?」
アルマなりに遠まわしに思い出せと言ったのだろう。
確かにこう書かれていたのだ。
「…この世に聖人君主はいない。
正しいかどうかを判断が出来るのは第三者だって事だよ」
「だから、私をあの時『選んだ』のですか?
ですが第三者というのは、貴女達、カリフの事なのでは?」
「それは違うよ、アラバ君」
エドワードは何を言っているのかわからない様子だったが、アルマはエドワードを見て言った。
「エドワード・F・ポルテ、東方術はサーベル、付加能力は刀身が伸びる事…」
そう言いながら、今度はレフィーユの東方術、付加能力、七色同盟の全員の特徴を言う。
「そして、チェンバレンは西方術、風の使い手、それを生かした体術と言ったトコロかな。
知っているというのは、関わっているとそんなに代わりが無い事。
つまり、そこに書かれている、第三者というのは部外者、つまりキミと…あと一人はわかるだろう?」
「あの…誰なんでしょうか?」
「エドワード君、漆黒の魔道士だよ。ボクは彼とキミに判断を委ねたんだよ。
彼には日記帳を、そして、キミには情報をね」
「あのすいません、アルマさんは日記帳の内容を知っているのでしょうか?」
「まあね、でも、間違いなく言えることはキミが知る必要の無い事だよ。
それにもう一度聞くけど、この通路、本当にキミは知らなかったの?」
「そ、それはホントです。信じてください」
「どうだか…」
「エドワードさんはこう言うのは慣れていないのですよ。それで、私達をどこに連れて行こうとしてるのですか?」
「うん、そうだね。
私の調べ物に付き合ってもらおうかと思ったんだよ。まあ、しばらくは歩く事になりそうだけどね。
それはそうと…、キミはそもそも今日はアルバイトの日じゃなかったかな?」
「ホントにいろいろ、調べてるのですね。
お構いなく、クビになりましたから…」
何故かエドワードが驚いたのは、アルバイトの経験がないからだろうか、同時に驚いたアルマは代わりに聞いた。
「ボクの知ってる情報だと、キミは駅前のコンビニでアルバイトしてて、結構、真面目に働いていたのにどうしてだい?」
「随分、古い情報ですね。まあ、レフィーユさんが様子を見にやって来てしまいましてね…」
「それがどうしたんだい、有名人がやってくるというのは店が繁盛するのは間違いないという事だろう?」
「ホントにそう思いますか?」
睨んだ…。
そして、何かを感じ取ったのだろう。
自分の視線に二人は明らかにたじろいだ。
そう…彼女のせいだ。
確かに先ほどのアルマの言うとおり『繁盛』というより『賑わい』をみせるだろう。
まるでドラマのように…。しかし、現実は違う。
どう調べたのだろうか、彼女はやってきた。
確かに様子見にやって来たのだろう。
正味3分ほど話をして『頑張れ』と言って去っていったのだから。
だが、それが、その後の問題だった。
賑わいを見せるコンビニ…。
それは何日か続くと客の回転が悪くなるのを見せ付けていた。
おかげで店長からこう言われてしまう始末である。
「すまない、やめてくれないか?」
しかも、この『流れ』が計3回…。
「私はどこの社会不適合者ですか?」
「く、苦労してるのですね…」
エドワードが心配した、その時である。
携帯が鳴った。
デジタルにこう描かれていた。
レフィーユ・アルマフィ…。