第三十八話
そして、その明後日の事である。
「白鳳学園、治安部リーダー、レフィーユ・アルマフィ、以下25名確認しました」
タンカーの前、その従業員らしき人が調査許可書を返してもらい、先に他の治安部員に声をかけ中に入れさせていると、レフィーユに聞いて来た。
「あの本日調査というわけですが、ホントにこのタンカー全体を捜査するのですか?」
「ふっ、そのつもりだが?」
「あの、一応、このタンカーは住居としての機能もしておりますので、それなりに一般の方への配慮の方もお願いしたいのですが…」
「ふっ、心配するな。
だから、案内つきで調査を進めるという条件を飲んだのだろう。そこは出来る限り配慮はするさ。
しかし、何かあった場合…わかっているな?」
そう言って、最後尾のセルフィと一緒にタンカーの中に乗り込むとセルフィは、やはり納得出来ないのだろう。
「『案内つきで調査』なんて、調査の意味がないじゃない」
「ふっ、それはそうだ。意味は無い」
「だったら何でこんな悪条件をのんだのよ?」
「どうせ一昨日も入れて三日も日にちが開いたんだ、意味が無い事は変わりはだろう…」
「そう一昨日の事もよ。何よ、アレ?」
「ふっ、何の事だ?」
「あの人の事よ。
相変わらず、とんでもない情報を持ってくるのね?」
「ああ、あの男は相変わらずという事だ。だから、アルマとて伝えやすかっただろう。
『カリフは全滅した』とな」
「姉さんはそれを信じているの?」
「…この事は真相がわからないかぎり、信用しないほうが良いだろうな」
「ふん、そうね。
『あの火災は、アルマさんが、あの謎の集団に襲われた際にそれを切り抜けて起きた火災だ、と言ってました』
確かあの人はそう言っていたけど、おかしいのよ。
私は近場で見たけど、あの装備『その人物だけを消滅させる爆破』程度、ビルが火災になるとは思えないわ?」
「そこは、オズワルドも指摘していたな。
だが焼死体を解明させると、フォルグナート公国の…どうしたセルフィ?」
「何故、部室にあの人がいたのが気になったのだけど?」
「ふっ、何を気になる事がある。
あの男とて、私にさっきのアルマの事を伝えたくて、やって来たのだろう?」
「…それにしては最初に友達と話をしていて、随分と姉さんに伝えようとするのに時間が掛かったように思えるのよ。
もしかして、あの人オズワルドが来るの狙ってなかった?」
「ふっ、まるで私が『優秀な警備員の捜査が、あの魔道士を追い詰めているに違いない』というセリフを待っていたような言い草だな?」
「そのとおりオズワルドが姉さんに言い寄りながら、言ってた事…っ!?」
するとセルフィは呆れたようにレフィーユを見て何かに気付いた。
一昨日の事は、タンカーを調べる口実を作る演技だったのだ。
きっと、その前の日に話し合うなりして、オズワルドに罠を仕掛けていたのだろう。
レフィーユは、呆れたセルフィに笑みを零していた。
「まあ『優秀な』警備員を持っているオズワルドだからこそ、突き止める事が出来たのだ。
あの謎の組織の人間が、フォルグナート公国…通称、ワールドゼロの国民だとな。
おかげで、これでタンカーを調べる必要が出てきたのじゃないか、今は私達に出来る事をやるだけだ」
すると、セルフィは通路に差し掛かり、キョロキョロと周囲を見回した。
「どうした、セルフィ?」
「いつもなら、あの人が偽造した治安部員証明書を持ってきて入ってくるトコロなのに、やって来ないのも気になるのよ」
「ああ、その事か心配するな、もう潜入している」
「えっ、こんな厳重な警備をどうやって?」
「今朝方、エドワードに頼み込んでいるのを見かけた。
何を頼み込んだのやら…な?
さて、私達もそろそろ、捜査に取り掛かるとしよう」
もうセルフィの心境はいかがなモノか、その通り彼女の期待通り、彼はエドワードに話を通し、一足先にタンカーにいた。
いたのだが…。
「みっ…」
彼は呟き、タンカーの中で汗をかいていた…。
それは熱いから出るものではなく、緊迫した時に出る汗である。
彼は…緊迫していたのを誤魔化すように一人、叫んでみた。
「み、道に迷った!!」