第三十七話
そうして時は深夜、レフィーユは机にあるパソコンの画面に目を向けていた。
『ただいま休憩中』とスクリーンセーバーが流れている事で彼女は、電源を付けてから、そのパソコンが正常に動作しているのを感じ取っていた。
彼女自身『その間、シャワーを浴びたのは正解だったな』という心境だろうか『ふっ』といつもの調子で机に座りマウスを一定に動かして、スクリーンセーバーを解除、カチカチとインターネットを開いていた。
しかし、彼女は検索サイトが開かれたというのに、何も検索しようとしない。
ただ、そこに書かれているニュースを見ているのだろうかと思われるが…違う。
彼女はゆっくりとマウスで矢印を動かすその先は履歴であった。
そこには彼女が関わっている事件に関する項目がずらりと並んでいた。
『七色同盟』『七色同盟の歴史』『七色同盟の謎』『カリフ』『ワールド・ゼロ』
つい彼女は微笑むが、その笑みが途中で止まる。何故ながら、部屋の入り口のドアに気配を感じたからだろう。
「人の部屋のシャワーを浴びて、人の部屋のパソコンを使う、いつか訴えられますよレフィーユさん?」
「何だアラバか、脅かすな」
「驚いたのはこちらですよ。こっちは日記帳を取りにまたあの集団がやって来たのかと思って少し警戒しましたよ」
「そうだな、アイツらが、お前の正体を知らないのは良かった。おかげで私はこうやって、お前のパソコンを落ち着いて見ることが出来るのだからな。
それにしても、最近起きた事件も履歴として残っているとは、お前も勤勉な事だな?」
「いえ、厄介でしたよ。
そうやって、ネットで調べようとしても、この七色同盟、それに関する事だけは学園で習った範囲までしか掲載されてないのですからね。
これも、オズワルドさんの仕業ですか?」
「いや、これは仕様と言ってもいいだろう」
「仕様…?」
「そうだ、七色同盟といっても一般的な生活を送りたい親戚もいるだろう?
マスコミやパパラッチ、報道機関、これらの追求からは逃れる事は不可能かもしれないが、だが、一般人からは守る手段だと言う事さ」
「ですけど、オズワルドさんは普通に自慢してたじゃないですか?」
「オズワルドが異常なだけだ、チェンバレン、エドワード、女性陣は解らないが、少なくともあの二人はその仕様の重要性はわかっているとは思っているさ」
「重要性…ですか…レフィーユさんは?」
「ふっ、私もその重要性は理解しているつもりだ。
だが、もっとも私は普通にテレビに出ているから、説得力に欠ける」
「なるほど、だから『名前を出さなかった』ですか?」
「ふっ、どうとでも取るがいいさ。だが、まあ、情報を得ようと思ってもオズワルドが邪魔をするのは目に見えているだろう。
そして、謎は山済みだ、私もお前に、少し協力をしてもらおうと思ってやってきたのさ」
そういって、レフィーユは動画サイトを開いた。
「あの爆破事件でチェンバレンに出会ってな、動画サイトにエドワードの結婚式の映像が流れてたそうなんだ。
あの事件以来、私はどうやって日記帳が盗み出されたのかが気になったのもあるが、これが日記帳の最後に映し出された映像になるそうだ」
映し出された、映像は確かに『七色同盟の挙式』と題名が打たれていた。
そこにエドワードは数回頷いたあと、あの日記帳が入っている金庫へと歩みを寄せていた。
「あっ、エドワードさんが、ダイヤルを回してますが、あれ?」
しかし、ダイヤルを一つ回すと、今度はチェンバレンに代わり、回したのだろうか、さらにもう一人の男が変わる。
おそらくその人物が殺害されたミンなのだろうが、最後のアイーシャに変わる頃、自分の様子にレフィーユが気付いたように言う。
「ああ、あの金庫はダイヤル式でな。
四桁の番号を入れる事で、扉を封じていた支柱が外れる仕組みになっているのさ。
昔ながらの簡単な作りで、力を込めれば女性でも支柱は動くくらいだろうが、頑丈な金庫だと言う事は変わりは無い」
「だから、四人が一つ番号を覚えて、押しているという事ですか?」
「そうだ、ちゃんと隠すように出来ているのを見た事もある」
「たとえミンさんを殺しても、残りの番号は三桁、内部犯の場合二桁、警備も万全、開錠は不可能というワケで、ミンさんが殺される理由も気にはなりますが、この記念館で起きた大きなイベントはこれが最後なワケですよね?」
「そうだ、だが逆を言えば、警備が薄くなるタイミングはここしかない」
そう言われた性か、映し出された映像をじっと見ていると、厳正な式は終わり、少しにぎやかな披露宴となった。
そうして、衣装を変えたアイーシャが入場してきたのだが…。
「相変わらず、機嫌悪いですね」
「ふっ、そうだろうな、結局、親が勝手に決めた結婚だからな」
そして、エドワードが学園で見たようにアイーシャを気遣う。
「エドワードも大変だな」
手で払われ、残念そうにするエドワードを見て、レフィーユは静かに聞いて来た。
「お前はエドワードをどう見ている?」
「まあ、アイーシャさんに好かれようと頑張っている人ではありますけどねえ」
「実はな、昔から私にも連絡を取り合ってはいたのだ。
『どうすれば、アイーシャに認めてもらえるか』とな、私とて意見がいえるのだが、男としてのお前の意見を聞きたくてな」
「なるほど、だから、イワトさん達と行動を共にしても、注意程度にすませていたわけですか。
ですが、あそこでみんな感じたのですがね、無理だと思うのですよ」
ため息一つ、レフィーユが頷いたように、これは無理だろうと思った。
『どうすれば、男らしく見えるか?』なんて想像は出来るだろう、だが、エドワードは優しい。
優しい人間というのは、それをすると無理をしているのがわかる。
そうなるとアイーシャも気付く可能性がある、そして、アイーシャはエドワードの事が嫌い。
そこをつけ込んで下手をすれば『別れてくれ』とエドワードに離婚を求めてくるだろう。
「あれだけ人を嫌悪しているというのがわかる人も珍しいのですがね…」
「何か、きっかけみたいな事が起きればいいのだがな…」
そこで彼女が『じっ』と自分を見るのだが…。
「な、何ですか、その目は?」
「いや、何かきっかけがあればいいなと…思ったのだが…」
「どうして『いいな』で、私を見るのですか、無理ですよ?」
「無理か?」
「アイーシャさんが、何かしら離婚の目的を探してるというのにですか?」
「ふっ、それもそうだ。
ところでお前はこんな深夜にどこに行っていたのだ?」
「ああ、買い物です」
「門限を破ってまでコンビニでアルバイト求人冊子と、ジュース一缶の買い物がか。私のおすすめしたシャンプーも買わずに面白い冗談だな?」
「人様のシャンプーの心配しないでください、大体、あれ結構高いのですよ、他にどんな冗談を言えばいいのですか?」
そう言っていると、披露宴の途中で席を立つアイーシャの姿を見て答えた。
「…まあ、明日教える事にしますよ」
「どうした?」
「少し、協力してあげようと思ったのですが、その前にレフィーユさんに聞きたい事がありましてねの」
「なんだ?」
「あの謎の集団、どこに隠れていると思っていると思ってます?」
「セルフィたちにしらみつぶしに探させてはいるのだが、見つからんとなると、おそらく…」
目を細め、少し考えた後、おそらく自分と考えが一緒だろうと思った。
「それはオズワルドさんがやって来たタンカーですか?」
「では、お前はオズワルドが今回の黒幕だと、思っているのか?」
「いや、もし私がオズワルドさんでしたら、もう少しマシな誤魔化し方をするのですが、この町にあんな不気味なタンカーは目立ちすぎですからね。
調べておきたいなと思ったのですよ」
「だが、オズワルドがそれを許すとは思えないな」
「だから、明日一手、協力しようと言っているのでしょう?」
するとレフィーユはにこりと笑っていた。