第二十八話
彼女は微笑みながらハルバートをぐるぐると頭上でまわす。
「いきなりですか…」
つい呟いてしまうように、その動作が彼女の付加能力を生かす動作、それが彼女の能力の『足場』を作る事だと言う事は経験していたので、半ば呆れる自分を尻目にセルフィは身構えなおす。
「ふん、アンタに油断できるワケないじゃない。私から見ればアンタの方が余裕はあると思うわよ?」
「それは貴女のお仲間がいないからでしょうね。
その能力は攻撃を遮る手段として、さらに攻撃の手段とするのが、貴女の戦い方ではありますが、貴女の能力は人、すなわち仲間がいると更に厄介ですからね。
一度聞いてみたかったのですが、どうやったら、こんな目に見えない足場を人に正確に伝える事が出来るのですか?」
遠まわしに『貴女にはこの足場が見えているのか?』と聞いたのだが…。
「別に見えても見えなくても、位置を教える事くらいは簡単でしょう?」
と、さらりと凄い事を簡単だと言ってのけた。
「人間は見えないものを伝えるのに、どれくらいの苦労をすると思っているのですか?」
「ふん、うるさいわね、でもアンタ。さっき私が負けたって言ったけど、その後に私、リベンジしたわよね?」
「三対一で、そんな事言われましてもねっ!?」
「仮にも女相手に随分と、女々しいじゃっない!?」
「武器を持った女性三人を相手するのに、何が女々しいのです、かっ!?」
そんな渾身の攻防のさなか、女々しいと言ったセルフィが自分の手刀を斧槍で捌き、自分の胸を目掛けて突きを放つが、それを身体を捻って避ける。
おかげで闇で作られた法衣が解れをみせるが、一つ撫でると元通りになる。
その動作に舌打ちをしながら、飛び込もうとしたセルフィに向かって闇を乱舞させた。
動作任せに、そして、続けざまにそんな事をするので、セルフィは余裕を持って避ける、そんな闇の塊は『足場』に当たって四散するのを見てセルフィは言った。
「そろそろ、引導を渡して上げるわ」
「じゃあ、貴女相手にふざけるのは、さすがにキツイようですから、そろそろ真面目に戦いましょうか」
闇で出来た法衣の裾が変に延びたが、セルフィは今まで本気じゃない事に苛立つように一気に距離を詰める。
「そんな戯言が、一番気に入らないのよ!!」
挑発に乗ったとわかっていたのだろうか、避けた体勢に入った魔道士に先読みをかけて、ハルバートを振るう。
「…えっ!?」
その時セルフィの思考は『真上に飛んだ』と思ったのだろう。
目が追うように、飛んだと思われたその先にはその魔道士はいない。
しかし、次の瞬間、セルフィの後ろに何かが体当たりした。
-自分は今、漆黒の魔道士という人物と戦っている。
その感覚がこれが彼の攻撃だと理解させて、転がりながらも距離をとろうと、『足場』に着地してさらに逃げるように跳躍を見せる。
「甘いですね」
耳元でそんな事を言うので、驚いたセルフィはその足場から落ちる。
しかし、慌ててはいたがハルバートを振るい、足場を作り先ほど落ちた場所を見直すが、さらにセルフィは驚いた。
その魔道士は空を飛んでいたのである。
自分が静止画像のように空に留まるのではない、自分より走るのではなく、慣性が働くように、遠心的に距離を詰め、自分の近くを遊泳して蹴り込む。
全体重が乗った重い攻撃で受け止めたハルバートを落としそうになるが、もう一回転するようにその魔道士はこっちに向かってきた。
何も考えず、さらにハルバートを振るい、上に続く足場をハルバートで描く、ふくらはぎの辺りが何かが掠ったような気がしたのが、彼の攻撃だとわかりきっていたので。
振り向かず、さらに高い場所に移動して、居た場所をようやく振り向くが、それを見た時、彼はバク宙でこっちに向かってきて、自分の描いた足場に着地して両手を広げて言った。
「何を驚いているのですか?」
「どうして『見えない』はずの、それに乗ってるのよ。
『見えない』何て、闇が使える貴方には見えていて騙したのね?」
「騙してなんかいませんよ」
「なら、どうして貴方が足場に乗っているのよ」
「私は闇を撒き散らせていたでしょう?
それで空中にある作られた足場を大体、確認したのですよ」
ようやく、合点が言ったのかセルフィは言った。
「じゃあ、言わせてもらうわ、ホント、甘いわね!!」
今、二人の立っている足場を消し、セルフィは自分側にしかない足場に着地する。
魔道士は虚空に解けていき、彼女の耳元で囁く。
「ホント、甘いですよね…」
まるでバンジージャンプをするように背後に回り、彼女に再度、体当たりをする。
自分の記憶の限りでは、今、彼女の落ちようとしている場所には足場はない。幸い低い高さで、地面に落ちたので防御本能は聞いたのだろう。
『痛み』でうめいた彼女にこう言った。
「勝負ありですね…」
しかし、セルフィは目を細めて、何をしようとしていたのだろうか…。
その動作は『危ない』と言おうとしたのだろか。
その『戸惑い』のおかげで、自分の防御本能を背後で押し付けられた『何か』に使う事が出来た。
「うわっ!!」
背中を切りつけられた痛みで思わず、苦しみその目標にようやく目を向けたとき、セルフィは言った。
「誰、貴方!?」
そこにはまるで、テレビの見た事のある戦隊物を彷彿とさせるような仮面をつけた奇妙な男が立っていた。
アルマでもない、その異様な姿はおそらくカリフではないだろう、その人物はこう言った。
「漆黒の魔道士、大人しく日記帳を渡せ、そうすれば命だけは助けてやる」