第二十五話
「確かに携帯で連絡すると言ったけど、アラバ君、キミの携帯の番号を教えるのが礼儀と言うモノじゃないのかな?」
「別に構わないでしょう。
どうせ、こうなる事になると思いましたからね。それとも何か不味かったですか?」
こちらとしては完全に信用しているわけでもないので、勘ぐるように意地悪く、そして白々しくもそう聞くとアルマは呆れているのか頷きながら平然と答えた。
「まあ、信用できないのならそれでいいよ。こっちとしても彼女の番号を聞く手間が省けたからな」
「と、いいますと?」
「彼女に代わってくれないか?」
どうやら、自分の態度はそれで構わないらしい、ボリュームを最大にした携帯は彼女に聞こえたのだろう。
そのまま代わり『私だ』と彼女は出た。
「やあ、レフィーユ。調査は進んでいるかい?」
「どういう意味だ?」
「このままの意味さ、今日、電話しようと思ったのは、僕の方から情報を提供してあげようと思ってね」
暗がりのトレーニングルームで音量を最大にした携帯がそんな会話をつむぎ出す中、彼女も不快感を味わっているのだろうか、顔をしかめていた。
「何を考えている?」
自分もあの時、拉致された際にその台詞を言った事がある。
しかも、何度も、だからアルマの次の指示が予想できた。
「レフィーユ、それはキミが決める事だよ」
投げっぱなしで、他人に判断をあおるのだ。
普通だったら『教えたのだから、私のために何かしろ』と言った感じで見返りを求める。しかし、このアルマはまるで見返りを求めず『協力してあげよう』と言うのだ。
今までが異常だったのか、それともこのアルマが異常なのか…。
様々な取引を見た、自分にとってはとても不快感の残る印象だった。
「ふっ、だがこの男から聞いたが、お前がミンを知っているという事は、事件を知っているという事だ。
お前達が殺したのかも知れないというのに、信用できると思うか?」
ごもっともな指摘、しかし、レフィーユの言った事は自分も口にした事だ。
アルマにとってそれがとても可笑しかったのか笑いながら答えた。
「でも、残念ながらキミは今回ばかり、調査は全然進んでない。理由はわかるだろう?」
「だから、利用されろというのか?」
「いや、利用してほしいだけさ、そこから後の調査はキミに任せる。
悪い取引じゃないと思うけど?」
断るだろう…。
そう思ったのだが、どうやら彼女にも考えがあるらしい。
「いいだろう、今からか?」
「外野が言うのも何だけど、出来れば早めの方がいいと思うな。
その代わり一人でやって来ることが条件だよ?」
「ふっ、一人か?」
「そう一人だよ」
すると二人して笑うが…。
「あ、あの二人ともどうしてにこやか何ですか?」
この奇妙な光景に一人自分が蚊帳の外だった。
「別に僕はただ、彼女に協力をしようとしただけだよ。
何かおかしい事があるかい?
それにキミは僕に携帯の番号を教えてくれなかったじゃないか、いいペナルティだよ」
「ふふ、そうだな、じゃあ待ち合わせはどこにする?」
にこやかだが『くくく』と笑いあう二人にこれ以上追求をするつもりはなかったのだが、レフィーユはアルマの指定した場所に向かう事にした。
その場所は自分が始めて、アルマと出会った公園であった。