第二十四話
だが、エドワードはこの体育の授業でみなの関心を集めることになる。
「エドワード、無理せんで歩いてもええんやで?」
先に1000Mを走り終えたサイトが言うように、エドワードはあまり走ることがなかったのだろうか、息が絶えていた。
「いえ…ご心配…なく…」
その返答が、もう何度目になったのだろうか、元々、後方の集団を走っていたエドワードはとうとう一人になるが、歩く事はなかった。
そうして完走した最後尾でゴールしたその姿は、オズワルドの印象やら、少し離れたトコロでやっている女子の体育の授業をサボっているアイーシャとは別の印象を与えた。
「ワシはイワトちゅうモンじゃが、お前、根性あるのう?」
「すいません…授業の…進行を…遅らせて…」
自分だけではなく、サイトやイワト、ここにいる男子生徒は見直す事となり、次第にその一生懸命さが、周りの生徒に好印象を与えていたのだ。
それに引き換え…。
といった光景が、この休憩時間にあった。
少し離れたトコロでオズワルドの後ろ姿が見えたので、気配を殺して尾行をすると人気のない校舎裏についた。
その待ち合わせの相手は、シャンテ。
彼女は笑顔で出迎え、談笑をし始めていた。
会話はよく聞き取れない、これ以上、近づくとシャンテが気付くだろうと、そんな予感するので、会話がよく聞き取れなかったが…。
自分が見ている場所は、別の異変を見つけた。自分と同じ距離感でその二人を見ている人物がいたのだ。
それは幸い自分に気付いていないが、そんな中、二人はキスをする。
その姿を見ていたチェンバレンは下を向く。
一体どういう事なのだろうかと、あの後、別の場所で白々しくチェンバレンに聞こうとするが…。
「いやー、悪いけどなー。
お前は拉致されたんだから、気をつけたほうがいいだろー。一般人が首突っ込まねー方がいい」
このチェンバレンは愛想は良いのだが挨拶も程ほどに、のらりくらりとかわされていた。
そうして、アルマとはあれ以来、連絡ゼロ、おかげで自分の頭はこんがらがるばかりで、深夜のトレーニングルームにて、大きく深呼吸をする。
すると月影に照らされた自分の影が伸びて一定の距離、一定の空間で分離して、球体を作る。
軽く身構えて、右手で闇の球体を回して、そのまま投げるように押すと、まるで球は紐でつながれたように慣性的な動きをみせ、天井に付いた途端に『ぼとり』と落ちる。
だが回転が掛かっている、その球体はそのまま数名のバレリーナになっていた。
ラインダンスのように、足を揃えて踊り、華麗に舞わせていると。
「毎度毎度、見て、気になるのだが、これはお前の趣味か?」
別の闇の中から、レフィーユが現れた。
「細部コントロールの一環ですよ。これでもちゃんとしたトレーニングなんですよ?」
ちなみに曲目は『くるみ割り人形』である。
「そんな事は聞いてない、まったくどこで振り付けを覚えてくるのだ?」
そう呆れていたのだが、チェンバレンの事を聞く良い機会だったので、機材に腰を下ろして聞いてみた。
「パタヤ・チェンバレン…か。
七色同盟の中の末裔であり、スカーフの色はオレンジというのはアルマから聞かされているのか?」
「はい、後は西方術の『風』の使い手であり、それを用いた体術の使い手だと聞かされている程度ですが、正直、そこまでしか知らないので気になったのですよ」
するとレフィーユは『ふむ』と考え込み、唐突に聞いてきた。
「じゃあ、あの男も『婚約者がいた』というのを知っているか?」
「…婚約者ですか?」
おそらく今までの流れだと、相手はレフィーユと同じように七色同盟の一人なのだろう。
しかし、今回はあんな出来事があったせいか、名前が出た。
「もしかして、相手はシャンテさん?」
「まあ、流れとしてはそうだ。
シャンテ側が婚約話を用いたのだが…。
この婚約話は少し違う方向に向かってな」
「違う…、そういえば、さっき『婚約者がいた』と言いましたね。
もしかして、貴女の様に『家が勝手に決めた事だ』と言って、シャンテさん本人が断ったのですか?」
「いや、チェンバレンの方が断ったのさ。
『繋がりがあるとはいえ、当主が一つにまとまったら駄目だ。
もっと枝分かれする選択をするべきだ』と自分が一人息子である事と、テッドムーン家の血族のない事を指摘して断ったのさ。
まあ、両家としても『七色同盟の一人』という、大きな名誉を捨てれるわけもなく。結局、現当主同士の統合話はなくなったのさ。
私もその意見に賛同したのだが…オズワルドが色々としつこくてな。
『私が当主を降りれば、セルフィが当主というワケか、だったら、セルフィを娶ろう』などというのだから、正直、あの見境なしには腹が立っているの…だが…」
その時、トレーニングルームに携帯が鳴り響いた。
誰だろうかと思ったのだが、レフィーユは液晶を見て怪訝そうな顔ながら出た。
「もしもし…?」
こう聞いてきた後『ちっ』と舌打ちして、携帯を切った。
「どうしたのですか?」
「…無言電話だ。
さっきからしつこくてな」
「着信拒否すればいいじゃないですか?」
「いや、してるのだがな。
相手は番号を変えて、やって来てしつこくてな」
「ああ、そういえば…」
普段ならいたずら電話の相手などわかるわけがないが、思い当たる節が『自分』にあった。
「今度、私が出てもいいですか?」
「どうした?」
「それアルマさんだと思いまして」
「ちょっと待て、どうしてアイツが私の携帯番号を知っている?」
「いや、それは私が教えましたから…ね。
…睨まないでくださいよ。
確かに携帯の番号を教える際、私の携帯の番号を教えようと思ったのですが…」
そう言いながら、ポケットから携帯をレフィーユに見せると凝視した。
「凄いな…私より多いぞ?」
「いや、私もね。
『組織』の名前で、携帯に登録するのが悪いのでしょうが、今じゃあ、友達より『組織』の名前が多いのですよ。
あの時、ぎっしりと登録されているのを見て『ヘコみ』ましてね。
さすがにデータを自分で管理できる時代を恨みましたよ」
「だからって、私の携帯の番号を教えるのはどうかと思うぞ?」
また彼女の携帯がなって、それを自分に手渡すので出てみた。
「もしもし…」
すると自分の憶測どおりだった。
「キミの携帯電話は、彼女に管理されているのかな?」