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第二十二話

 アルマとのドライブが終わる頃には、夜になっていた。


 アルマの乗っていた車を見送り、しばらく歩くと見慣れた白鳳学園の正門。


 もう門限も過ぎ、その正門前には警備のために治安部が二名立っていた。


 このまま目の前に現れようかと思ったりもしたのだが、、少し頭の整理をしておきたかったので、遠回りをする事を選んだ。


 裏門に向かうワケではない。


 ただ警備もなく、別の入り口から入ろうとそこに立ち、身を屈める。


 「よいしょっと」


 古来より学園といった建物というのは、特に生徒というのは潜入できる場所というのを知っているモノである。


 それは学園側とて、狙って作ったワケではないだろう。


 だが立地条件により大きくなってしまった構造、特にこんな雨水を逃がすためだけの『溝』は、別に汚れてもなく、自分が身を屈めて潜入するには適していた。


 しかし、学園側とてコレを黙っているワケではないというのも頭に入れておくのも大事である。


 今いる状態が夜だとはいえ、目の前は真っ暗、それは大きな鉄板でそこの溝を塞いでいるのがいい証拠だ。


 別に驚くわけではない、いつもの事だ。確か四隅にボルトで締めてあったのも覚えていた。


 何故なら、時折、そのボルトを外して学園内に外にと、これは秘密の脱出経路でもあるのだから…。


 おい、じゃあ、お前はいつも学園を抜け出す時に、ドライバーを持っていくのかって?


 ドライバーなど使わない。ドライバー代わりなら手を合わせるだけで出来る。


 そのまま手を上にある鉄板を持ち上げるような体勢で掴み『闇』を扱いボルトの解除に向かわせようとしたのだが…違和感に気づいた。


 ボルトを外そうとする前に鉄板が持ち上がったのである。


 前に潜入した時は、一人だったので、ここのボルトの締め忘れをしたのだろうかと、ほふく前進で学園内に潜入しながら。


 ふと、物事には完璧を求める事は出来ないものだと思った。


 例えば、レフィーユ・アルマフィという女である。


 綺麗に整った顔に何頭身かと思われるスタイル、家柄だけではなく成績も優秀で、この学園の治安部のリーダーである彼女にも欠点はある。


 それは料理である。


 彼女は料理が出来ないのは、有名ではあったのだが、あそこまで出来ないとは思いもよらなかった。


 料理くらい教えてあげなよ?


 自分は確かに料理は出来る、彼女も教えた通り、食材を切れる。


 だが教えた通り煮込んだところで、思わず言ってしまう。


 「どうして、こうなるのですか?」


 一体、彼女の手から何が生み出されるのであろうか、出来上がったのは『宇宙怪獣』だったりするのである。


 始めに味見して痙攣して以来、二度と食べる気が起きず。


 「正直言って、初等部にいた頃は家庭科の授業は受けたことがなくてな」


 レフィーユも理由にならない言い訳をするのだが、反論として彼女には出来る料理があるという。


 それはサンドイッチである。


 だが、みなさん、考えてほしい。


 サンドイッチ、料理といえますか?


 あははっ、それはねえ?


 -グサッ!!


 「ぎゃあああ!!」


 背中の激痛が彼女のサーベルだと知らせた。


 「ふっ、すまんな。何かお前が失礼な事を考えてそうだったので、ついやってしまった」


 「レフィーユさん、東方術で人を遊び半分で刺したりしたらいけないって、初等部で習いませんでしたか?」


 そう言いながら、身体を起こして溝から出ると辺りを見回していたのでレフィーユが微笑んで言う。


 「安心しろ、私一人だ。


 というより、オズワルドの警備員は定時で帰っていったよ、まるでOLの様にな。


 まあそんなアイツは、チェンバレンがお前の事で誤ってきた際に助からない事を望んで聞こえない程度に言っていたぞ?


 『良くやった』とな。


 そんなオズワルドがお前の姿を見たら、どう思うか楽しみだ」


 「随分、物騒な話ですね。こっちは『研修』した帰りなんですよ」


 「研修、ドライブではなかったのか?」


 「まあ、七色同盟、今回の事件にしても、こちらは結局、何も知りませんから、いろいろとアルマさんが教えてくれました」


 「随分と軽率だな、その話が『カリフ』の作り話だと言う可能性もあるだろう?」


 「その可能性は否定できませんがね、でも一つだけ間違いじゃないのだろうなと思える事があったのでね…」


 おそらく彼女にしては予感はあったのだろうか『なるほど』と一つ頷き、少し困った様子を見せて聞いてきた。


 「という事は当然…聞いてきたのか?」


 「まあ、今回の婚約話の大体は…」


 しばらく経って、ようやく今回の発端を口にした。


 「七色同盟の最後の一人、ミン・チョンワさんでしたか、殺されたらしいですね?」 


 「ああ、この記念日が近いというのもあって、まだ公にはなっていないが、今回の婚約話はそれが大元だ。


 あんな事態を防ぐために、エドワードのように結婚をして、まとめて警備を強化した方がいいとオズワルドはお考えのようだが、こちらとしては簡便願いたいものだがな。


 それでカリフは他にも何か言ってなかったか?」


 「いえ、特に、何かあったら携帯で連絡してくるそうですよ」


 「ふっ、普通にそういう組織と連絡が取れると言うのは、いろいろ問題があると思わないか?


 だが、一応、おまえの意見を聞いておきたい…今回、どう見ているのだ?」


 それには回答に困った。


 『貴女が、いや、貴女の組織がそのミン・チョンワという人を殺したのではないのか?』


 アルマとの会話の中で、いづれ、この問いに辿り着くのは、時間の問題だったがアルマはこれだけを返してきた。


 『それはキミが決める事だ』


 まるで日記帳を手渡した時と同じような事を言ってきたので、反論しようとしたのだが。


 『キミは日記帳を受け取ったのだろう?


 それはこういう事でもある』


 そういって、アルマはこれ以上答える気はなかったので、しぶしぶ黙るしかなかったのだ。


 こうなると…。


 「信用は仕切れないとしか、言いようがないですね。


 せいぜい、利用されてます」


 「ふむ、妥当だな」


 彼女もそう頷く中、最後の問いを思い出した。


 「墓守(はかも)り…」


 「どうした?」


 「いや、最後にアルマさんから、教えてもらったのですがね。


 『カリフ』って『墓守り』という意味らしいですよ?」


 「オズワルドは『墓荒らし』と称したが。その『カリフ』の首領であるアルマは『墓守り』か…」


 「レフィーユさんは七色同盟の一人なのに知らなかったのですか?」


 「様々な事を教え込まれたのはたしかだが、それは知らなかった」


 「ですがオズワルドさんは知っていました」


 「だがそれは明らかに矛盾しているな。


 一体、どういう事だ…?」


 おそらくカリフの頭領であるアルマは、自分の組織のことなのだから嘘は言っていないだろう。


 しかし自分が『信用は仕切れない』と言ったためか、二人とも、これ以上、何も言えなかった。

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