第二十話
赤、緑、青、黒、オレンジ、藍色…。
私は自分の頭の中を整理するように、もう一度、今度は名前を当てはめる。
赤はアルマフィ家。
緑、青はエドワード、アイーシャ夫妻。
オレンジは、パタヤ・チェンバレン。
青に少し黒の混ざったような青の藍色、シャンテ・リッドムーン。
黒は、トラン・オズワルド。
そして、残りは紫色
名前は、ミン・チョンワという男である。
「う~ん…」
さすがに休憩代わりに、思い浮かべていただけあって、背伸びをしてPCの画面に目を戻した途端、吟味する事はなかった。
クリックして、私は一昨日の内に頼んでおいた映像を再生する。
しかも三倍速で、それでいて何か気になるところがあれば、普通の速度で再生し直し、細かい事もを見逃さないように細心の注意を払っていたところでドアの方でノックがした。
「どうした?」
返事をして、誰が入って来るのだろうかと思おうとしたが、少し不快感を覚えた。
「オズワルド、何の用だ?」
「冷たいな、がんばっている花嫁にコーヒーくらい持ってきてもいいでわないか?」
見るとコーヒーの入ったカップを差し出して来た。しかもブラックのままで。
「すまない、コーヒーは気に召さなかったかな?」
そういう意味ではない、この男の高そうなコーヒーセット一式を見れば解ることだが、砂糖もシロップも用意されてないのだ。
もし、私がブラックが嫌いだったらどうするのだろうかと思いもしたが…。
「すまない、これは私が片付けないとな」
そう言って、苦そうにそのコーヒー飲んでいた。
「それで三日が経ったワケだが、何か進展はあったのかオズワルド?」
あくまで映像に注意を払っていた、私の横のオズワルドは頭を掻いた。何もないというのは聞いていた、そして町の住人にも迷惑かけていると言うことも…。
そんなこともあれば警備員と治安部は当然、不仲になり情報交換もまともに出来ない状態になっていたのは目に余る状況となっていたが。
気が付くとオズワルドは私の肩に手を回して来たのを払いのけて答えた。
「私は今、見ての通り仕事中なのだが、オズワルドお前は動かないでいいのか?」
「上に立つ人間が働いてどうするというのかね、キミも見たところ三日もここに篭りっぱなしでサボってると見えるが…何を見てるのかな?」
そう言って、オズワルドは自分が目にしたの映像に呆れていた。
「まったくあの男も、キミの下らんことを。我々に落ち度はないと、何度、言えばわかる?」
「ふっ、こちらとしてはどうやって日記帳が盗まれたのかも解らないのだぞ?
ホテル内の金庫前の監視カメラの内容も見させてもらったが、一切、あの魔道士が映ってなかった。
という事は、日記帳が盗まれたのはその前、お前達がここに来る前に犯行が行なわれていたという事だろう?」
「驚いたな、今日のうちにここまで調べていたとは、だが、こんな地味な作業は、キミの部下に任せればいいモノを」
「あいにく私は、自分の目で納得できなければ動けない性分でな。
だが、まさかあいつの監視もしていたとはな」
「随分と人聞きの悪い事をいうものだな警護だよ。ああいう男でも一応、キミの学友なのだからと言いたいところだが、シャンテに聞くところによると同じところをずっと徘徊しているそうだぞ?」
どうして警護なのに、そんな報告が入るのだろうかと目を細めてしまったが、オズワルドにとってあの男が何者なのかを知らないという良い判断材料になった。
ようやく半年分の映像を見終わったので、立ち上がって携帯で残りがまだ届いてないので連絡を入れる。
「ああ、私だ、頼んでおいた残りは…」
相手側は驚いていたが、その驚きは半年分を見終えたからではなかった。
「どうした、何も全部を揃える必要はないだろう、手間が掛かるかも知れないが、断片的に送ってくれても構わないと言ったはずだが?」
どうやら、半年分のデータを三日で見終えるなど思ってなかったらしく、暇つぶしで頼んだモノだとあそこでふんぞり返っている男と一緒だと思われたようだ。
さらにここで、この男、いや『組織』と言っておこう、その落ち度がわかる。
「ああ、わかった、すまないな…」
携帯を切りオズワルドを睨む。
「どうして半年しか、監視カメラのデータがないのだ?」
オズワルドにしても私がここまで調べると思ってなかったらしく黙り込んだトコロに、今度はオズワルドの携帯が鳴った。
「あ、ああ、連絡だ。少し失礼するよ」
いい逃げ方をしてくれると思ったが、それは違った。
「ふう、そうか…」
やけに安心した声で、笑顔だった。
どうして笑顔だったのか…。
アラバが捕まったからだったというのには、そんなに時間が掛からなかった。