第二話
「この前はごめん、オレも初めてでさ。
どうしていいのか、わかんなくて…ごめん、理由になってないよな。」
もう何件目になるだろうか、彼は携帯の留守電にしきりに謝っていた。
その日は彼の両親が旅行に行く日であり、明日まで家では自分一人、彼は決心して、始めて出来た彼女を誘ったのだ。
だがさっきも言った様に、こういうのは『初めて』な彼は、半ば強引に事を進めたため、平手打ち一発、おかげで彼女を走り去らせてしまった。
謝まろうと何度携帯を掛けても、当然の事だろう。
…出てこない。
掛ける度、掛ける度、降り掛かるのは自分自身への後悔…。
『どうして、あんな事をしてしまったのだろう?』
何度目か脳裏に焼きついた頃には、いつのまにか五日が過ぎていた。
そんなある日、彼の携帯に一通のメールが届いた。
―今から、会える?
…彼は走った。
場所は、初めて出会った公園。
資産家の両親を持つという理由以外で、初めて自分が好きだと言った女性の下へ。
息が苦しい…。
元々運動は得意じゃない。
だけど、それ以上に彼女が愛しいから、好きだから、その感覚だけが彼を走り続けさせた。
倒れ込むように公園に辿りついた。
そこには、自分の好きな笑顔を浮かべた彼女がそこにいた。
走った後の肌寒さだろうか、夜風がとても冷たい事に気付くと彼女は口を開いた。
「私もね、嬉かった。だけど緊張してて…。
あの時、とても怖かったんだ…。」
『ごめん』と軽く謝るが、その表情が自分の胸に突き刺さる。
悔しい…。
どうして、その緊張を理解してやらなかったのだろう。
「ごめん…」
これ以上何も言えない自分がとても無様だ。
彼女はただじっと見ていたので、逃れる様に顔を背けてしまっていると、ゆっくり近付いて…。
とすん…。
彼女は彼の胸に頭を埋め、こう呟いた。
「身体、冷たいね。」
くすくすと笑っていたが、彼女方がとても冷たい。
一体、どれくらい待たせたのだろう?
「今日ね、私の家も旅行に行ってて、誰もいないから…。
私の家で暖まって行ってよ。
そして私に、勇気の出し方を…教えてほしいな」
そう言って、夜の公園で二人の男女は口付けを交わした。
――。
「…ふむ、お前にこんな趣味があったとはな。
しかしどうしてこの手の資産家の男というのは、この手の女に引っかかるのだろうな。
あからさまに玉の輿になるための計画ではないか?」
そこではレフィーユを隊長として女性で組織した。
…抜き打ち部屋チェックが行なわれており。
その同じ治安部で自分の名前を呼ぶ男は、最悪な事に、いや、彼女達の目的なのだろう。
明らかに男女間で流されては気まずくなるROMを発見され、その場で上映会が行われていた。
…一種の羞恥プレイである。
「大体こんな純情な女などいる訳がないだろう。
それを踏まえてお前はそれなりの家庭ではあるだろう?
こんな事で欲情するのなら、お前はいつか騙されるぞ?」
レフィーユさん、彼を殺す気ですか?
この男に同情して開けられていたドアから、身を隠すように覗き見ていると…。
「はあっ!!」
彼女の手には、自身で東方術で作られたサーベル、振り返り様にオーバースロー、そして、ドアを突き破り自分の顔をかする。
「お、お姉さま?」
心配するユカリをよそに、レフィーユはサーベルを抜き、廊下を右、左と見ると今度はサーベルを見ながら…。
「いや、気配がしたのでな…。少し見張りを数人つけよう」
そう言って、しばらくするとドアの辺りから見張りが二名現れたので、これ以上は無理だと偵察を打ち切ることにした。
「どうじゃった、アラバ?」
「連中…、マジですね」
イワトだけではない、このイワトの部屋には自分を含めて6人いる。
その5人が自分の『マジですね』言った事に落胆の色を隠せなかった。
「狙いはアレか?」
「おそらく…」
少し落ち着こうと思った、しかし、落ち着く間もないらしい…。
コンコン…。
ノックが響いた。
それが、ここにいる誰しもが以心伝心する事となる…。
レフィーユさん(ヤツ)が来たと…。
イワトが慌てているので、代わりに自分が出ることで周囲を頷かせてドアを開けた。