第十九話
振り向くとそこには見るからに高そうな服装と装飾で着飾った女性が立っていた。知り合いなのだろうかと思いレフィーユを見るとその通りだったようだ。
「アイーシャ、結婚したのだから、おしとやかにしたらどうだ?」
「貴女こそ、あんな事があった後に、よく落ち着いていられますわね」
すると後からエドワードが追っかけるようにやって来た。
「ま、まあまあ、アイーシャ、考えだってあるのだから、そんなに苛立たないで」
「エド、何を悠長な事を言ってますの?
日記帳、ワールドゼロの国宝が盗まれたのですわよ。貴方も私の夫、いえ、七色同盟の一人ならそれくらいの実感くらい持ってほしいですわ」
こういう場合、いつもなら自分はここでこの場を下がる。だが、ある一言に驚いたのでレフィーユに思わず聞いていた。
「レフィーユさん、もしかして、あの人がエドワードさんの?」
「そこ、言っておきますけど、私は認めてませんわ。
どうしてこんな冴えない男と結婚しなければならないのよ」
本人の前でそんな事を言うので、気遣うようにエドワードを見るが、よほど言われ続けているのか反論もせず笑顔のままだった。
そこでようやくアイーシャは自分に気づいた。
「貴方、だれ?」
こちらとしては正しくは逃げ遅れたのだが、何も知らないエドワードは紹介を始めた。
「彼が、シュウジ・アラバさんだよ」
「貴方が…」
『じっ』と観察して、彼女は言う。
「で、いくらほしいのかしら?」
とても失礼な事を。
「初対面に随分と失礼な事を言いますね?」
「お黙りなさい、この下郎。
貴方が彼女とお近づきになれたのは、きっと何か脅迫しているからに違いありませんわ」
「そ、そんなの誤解ですよ!?」
思いもよらない指摘にレフィーユに助けを求めるように顔をむける。しかし、レフィーユ、いや、アルマフィ姉妹は笑っていた。
しかし、それを何と誤解したのだろうか。
「ほら、ごらんなさい。七色同盟の一人である私が指摘してくれたから嬉しくて震えているわ」
だが、この誤解は意外とあっさりと終わる事となる。
「レフィーユ、礼には及びませんわ、私たちは七色同盟と言う固い絆で結ばれているのですから」
「えっ」
「ふてぶてしく、同盟の威光に触れようなんて、所詮下郎…」
「ちょっと待ってくださいよ」
「なに?」
「レフィーユさんが、七色同盟の一人なのですか?」
「何、当然の事を聞いていますのよ、知らないとは言わせませんわよ?」
アイーシャも最初は疑いの目で見みていたのだろう、しかし、さすがに黙ってレフィーユを見る様で空気を察したのか、彼女もレフィーユを見た。
「おや、知らなかったのか?」
『調べなかったのか?』と惚けるように言うが、あの時は日記帳の事で頭が一杯だったので、その理由を言わずに首を振る。
「ふっ、すまない、隠すつもりはなかったのだが、アルマフィ家も『赤』のスカーフを持つ、その同盟の一人なのさ」
「まあ、これも家が婚約を断りきれない理由なのよね。それでエドワードさんと結婚を機会に一緒に『結婚』をしようじゃないかって話よ」
「セルフィ…」
「ふん、どうせバレるのだから、言っておいた方がいいわよ」
バツの悪そうにレフィーユはこちらを見たが、ここでさらに気づいた。
オズワルドにしても、このアイーシャを見ればわかるのだが、自慢する気配がこの姉妹には、全くと言っていいほど感じないのだ。
お二人とも有名だから気には掛けてないのだろうかと思いもしたが、さらにもう一つ気になるところがある。
「お二人の結婚を期にって、随分と強引すぎませんか?」
するとここにいた5人が一斉に静かになった。
「何にもご存知でいらっしゃらないのでございますね…」
しかし、アイーシャはそれだけ言って黙り込んだ。
「…もしかして、聞いたらまずい事聞きました?」
「ふっ、勘がいいな。これもいずれおおやけになるだろうが、そこは…」
「自分で調べてくれ…という事ですか?」