第十七話
レフィーユは何も言わず、食堂内のテレビを視線を送ると、そこにはオズワルドが数個のマイクに向かって演説のように答えていた。
「噂にも聞いていたが、あの魔道士はとんでもない事をしてくれた」
まだ周囲は暗い、昨日の内に撮ったのだろうか、マスコミが質問する。当然、自分が悪役として前提の質問にオズワルド意気込んで答えた。
「確かにこの金庫を見れば、漆黒の魔道士がどれほどの相手なのかがわかる。
どうやって盗み出したのかすら、こちらが聞きたい。これで今まで彼女が手こづるのも頷ける。
だが、ここで私たちが引くわけにはいかん。
我らの『警備隊』と彼女の連携を持って、日記帳の奪取に専念したい」
「…敵が増えた」
「ふっ、眉間がよりすぎて、水量を表す単位になってるぞ?」
『新技か?』と茶化していたが、レフィーユも不機嫌なのが見て取れた。
「…どうして、渡さなかった?
あの時、私に渡しておけば事は終わっただろう?」
やはりそこが気になりもしたのだろう。確かのレフィーユの言うとおりであるのだが自分なりに理由があった。
だが、それを言う訳にも行かないので黙っているとレフィーユは気づいたのだろう。
「返すつもりも理由を言うつもりもないと?」
それにも黙るとため息をついたまま答えた。
「まあいい、私とて、気になる事があるのでな。それはお前に預けておいた方が良さそうだ。
ちゃんと保管を頼むぞ?」
やけにあっさりと引き下がったので、今度はこっちが理由を聞こうとすると、玄関の方が何やら騒がしくなった。
「こ、困りますっ!!」
こんなユカリの大声も聞こえてきたので何だろうとレフィーユが先に見に行ったのだが、彼女の顔が不快感に代わる。
「おお、我が婚約者よ」
後にやってきた、自分が目にしたのは先ほどテレビに映っていたオズワルドだった。
「テレビを見てくれたようなら、話は早い、一緒にがんばろうではないか!?」
「ふっ、どうりでどのチャンネルをつけても、同じ内容の番組しかやってない訳か、国宝が盗まれたから仕方がないとはいえ。
オズワルド、貴様は少し勘違いしているぞ?」
「おお、勘違い?
確かに漆黒の魔道士は、そんなにたやすい相手ではないという聞くが」
彼女の肩に手を掛けて、気持ちの悪く言った。
「安心したまえ、我が精鋭たる警備員、そして、七色同盟の力が合わされば、何も恐れるものはない」
「『断る』と言ったら?」
「何を言うかと思えば、今回はキミの追う『漆黒の魔道士』に関する事件でもあるではないか?
ここで私とキミが彼を捕らえられれば、結婚のいい宣伝にもなる、治安維持にも発展するのだぞ?」
「その魔道士に一撃も加えられず、ただ逃した貴様にそれが出来ればな」
何も言い返すことも出来ないオズワルドの手を軽々と振りほどき、彼女は言い返す。
「治安維持と宣伝活動を一所くたにするトコロをみると、よほど腕に自信がないと見える。
だが今回、私はアイツの味方をするつもりはないが、気になるところが山ほどあるのでな。お前達に協力するつもりはないと言いたいのだ」
「気になる点、お姉さま、何が気になっていらっしゃるの?」
ユカリが聞いてきたの拍子を見計らって自分を見たレフィーユは言った。
「どうやって気圧が一定に保たれた部屋に入らずに魔道士は、日記帳を手に入れることが出来た?」
「それは『闇』の使い手だからだ、きっと『闇』を使って日記帳を奪ったのだ」
「ふっ、私が受け持った事件では、そんな状況下でヤツが動けた記録などないぞ。
それに、それではどうしても日記帳を手にするためにドアを開けなければならないじゃないか?
さらに監視カメラの放つ熱や、その動きでさえ、気圧に変動が掛かるからという理由で、カメラも取り外され、部屋の構造すらもわからなかったのだぞ?」
「だから、漆黒の魔道士という由縁なのだろう。部屋全体を覆いつくして、金庫も開けたのだ
どうしてキミは協力出来ないというのだ?」
「カリフ…、アイツはそう名乗る組織、ボスから日記帳をもらったそうだが?」
するとオズワルドは笑い出した。
「何がおかしい?」
「すまない、キミが私の国のそんなおとぎ話を信じると思わなかったからさ。
じゃあ、何だ、その魔道士は、カリフにこの日記帳を手渡され、のこのこと返しに来たと言うのか?」
『そうだ』と頷いたのは彼女だけではなかった。
「じゃあ、『カリフ』という組織の意味を言っておかんとな」
そう言って自分が耳にしたのは、カリフとは『墓荒らし』という意味だった事に顔をしかめた。