第十六話
「なるほど要するに、お前は罰としてやっていた掃除の最中にカリフと名乗る組織の首領、アルマという女に出会った。その際に日記帳を手に入れたというワケか?」
「まあ、そうなりますね」
「……」
「どうしました、レフィーユさん」
「いや、長々と説明してくれてありがたいが、それを信じる方が難しいと思わないか?」
「やっぱり思ってましたか…、確かに『あっ、この人信じてないな~』というのが『すまない、手荒なマネをした』の辺りで感じましたよ」
「アラバ、笑い事ではないだろう?」
そう彼女が自分の名前を口に出すので、少し戸惑いを見せたが『大丈夫だ』と、ここに仕掛けられている監視カメラが音声を拾うタイプではないと彼女は言っているのだろうと理解したが、レフィーユは少し睨みつけて言った。
「まったく少しは私の身にもなってほしいモノだな。私は今回お前が来るから、今日の日のために水着まで買い揃えていたのだぞ?
お前の考え、いや、企みを知らずに自分だけ意気揚々と恥ずかしいじゃないか?」
「すいませんね、これには少し考えがあったから言えなくて…」
「考えだと、女の柔肌を見る以上に、それはさぞ上等な考えなのだろうな?」
「それは、目のやり場に困りましたけど…」
素直に感じた事を言うと何故か照れていたので、彼女に自分の考えを打ち明けることにした。
「まあ、もし『私』が、のこのこと日記帳を返しに来たら、監視カメラの映像を見ている人はどう思うのかと、私なりに考えてみたのですよ」
「なるほど、確かにこの部屋は気圧が一定に保たれているという事は、誰も入っていないという事になる。
そこで漆黒の魔道士であるお前がやって来て、日記帳を返しに来るという事は、何もお前は悪者ではない事を示すいい機会だと、そうお前は考えたのだな?」
頷いてレフィーユは手を差し出す。それは当然。
「どうした返しに来たのだろう?」
しかし、押し黙る自分がここにいた。
「…すいません」
そう謝ったと同時くらいだろか警報が鳴った。
「アラバ!?」
思わず彼女は自分の名前を叫んで静止しようとさせるが、構わず非常口に向かって走る。その寸前で現れたのはオズワルドだった。
「き、貴様ぁ!!」
さすがに緊急事態だからか、すでにオズワルドは自分の東方術を駆使して大き目の剣を手にしていた。
その『ブロードソード』で自分を突こうと身構える。しかし、それが仇になる。大きな武器であればあるほど一つの行動を取るのに時間が掛かるのだ。
当然、『身構える』という一動作にも…。
「ぶっ!?」
身構え終えた時、その目標が見せた見事なとび蹴りに周囲は怯んだのか、見送るように非常口のドアを開けて、夜独特の風を感じたので少し安心した。
だがその時、横から気配に魔道士の首が曲がった。
何が起きているのかわからず、外から突き出た『日本刀』にもう一度、周囲は驚く中、オズワルドが歓声をあげる。
「おお、シャンテ、よく間に合ってくれた、さあリッドムーン家の華麗なるその剣撃、見せてやるのだ!!」
よく歓喜に沸けるとオズワルドを純粋に睨んだ。正直、七色同盟の人間は貴族やお金持ちを想像していた。
しかし、そのシャンテという彼女、自分がよく相手にしている『犯罪者』、いやそんな甘い表現ではなく、殺人鬼、それよりもっと先にある『何か』だった。
「…死ね」
『ゾッ』とした。
彼女との攻防はさっきの一度だけ、だが、一度で『殺される』と思った。
『横』に斬りつけようとしてきたので、それを何とかギリギリで反応するが、彼女の付加能力に困惑した時には胸部を『縦』に斬り付けられていた。
「覚悟ぉ!!」
斬りつけられた事でほつれた法衣を確認すると殺される予感が実感へ代わる、そんな中で『彼女』の邪魔をするようにオズワルドが自分に突きかかった。
二人の間に入るようにオズワルドは邪魔をしたのは、運がよかった。
ここで逃げれば、誤解されるだろう。
でも逃げるしかなかった。
もう一度、非常口に入り、自分はそのまま階段を使わず飛び降りた。
「なんという事だ…。追え、逃がすな!!」
しかし木々の上に着地してその近くにあったマンホールで地下に逃げたので、魔道士を追う事は出来なかったのだが。
次の日…。
「どういう事か、説明してもらおうか?」
レフィーユからは逃げられなかったのは言うまでもなかった。