第十五話
それはあの回覧板騒ぎのあった後日。
イワトと自分は、あの騒ぎの罰の一環として、公園の清掃をレフィーユに命じられていた。
「ほら、あんた達、早く来なさい」
「セルフィさん、最近よくこちらにやって来ますが、そんなに暇なんですか?」
「うるさいわね。私だって『また』何かを仕出かすかわからないアンタの監視なんかしたくないわよ」
「随分と酷い言い様ですね」
「ふん、そんな事、この前の騒ぎを見て言いいなさいよ。
姉さんは粉まみれになるわ、街中で乱闘騒ぎは起こるわ、挙句の果てには爆発まで起きてるじゃない。粉まみれはとにかく、あとの二つは立派な事件よ」
あと一つ加えれば殺人未遂も起きていると、爆破された男は口に出したかったが、色々と追求をされそう黙っていると。
「まあいいわ、姉さんはちょっと手続きと話し合いがあるからって、それで私がやって来たってわけよ」
「話し合い…そう言えば、そろそろ記念日が近いからだから忙しいと言ってましたね」
「あら知っているなら話が早いわ。
当然、報告はするから、姉さんがいないからって手を抜かないように、それとさっきアンタが記念日が近いって言ったように『それが原因で治安部の清掃が行き届いてないというのはよくない』と姉さんも言ってるので、それを踏まえて頼むわよ」
「へ~い」
半ばハモりながら、掃除を始める事になったのだが…。
「ほら、これも拾うのよ」
この一言ではわからないだろうが、セルフィ、これをその数分間で何回言っただろう。中々の命令ぶりだった。
「やっぱり姉妹ですね、このまま公園全部を掃除するつもりですか?」
この監視から逃れるために、イワトと逆回転に掃除をするつもりだった。
しかし、さっきからずっとセルフィはついて来ているからうんざりしていた。
「うるさいわよ、姉さんが言うには注意力を鍛える一環として、公園で清掃をする事が適してるらしいわよ。
アンタも姉さんを見習って頑張りなさい」
「確かに捜査に関しての大事な感覚を鍛えるには最適だとは思いますが、私は治安部じゃないのですよ?」
「あら、アンタの情報収集能力は、大したモノだと思うわよ?
この前の連続監禁事件、私も含めてみんなが犯人像を絞り込んでいるのに一生懸命だったというのに、姉さんが犯人を見つけて解決した事件があったでしょう。
みんなは姉さんを褒め称えていたけど、私はあの時、アンタが何回かどこかに行った数分間で何かしたと思ってるのだけど?」
『じぃ』と見つめられたのでワザと茂みに入り、返答の変わりに背負ったカゴに空き缶を放り込む。するとセルフィは続けた。
「ふん、アンタが協力すれば、あの魔道士だってなんとか出来ると思ったのだけど、まあいいわ、ちょっとイワトさんの方をみて来るから、ちゃんと掃除をしてなさいよ」
そう言われ『よっこらせ』とカゴを担ぎなおし空き缶を拾っていると、姉と弟なのか、その二人がこっちを見ていた。
「なんでしょうか?」
「あの、お兄ちゃん、これも」
小さな子供が手渡してきたのはただの空き缶だったので、最初は『そう言う事か』と理解をして、『ああ、ありがとね』とカゴの中に放り込むが、しかし、その弟らしきは、自分が姉だと思った人物を通り過ぎて行った。
だが、その女性も空き缶を持っていたので話し掛けた。
「あっ、それもですか?」
そして、女性も話し掛ける。
「噂とは別人だね、随分と優しいな。魔道士くん…」
…ボイスチェンジャーを使ったその声に、身の毛がよだった、その次の瞬間、空き缶を『ぽん』とこちらへ投げる。
思わず目で追ってしまい、更に緊張して彼女を見直すと彼女は腕を交差しながら組みかかってきた。
武器を持っていると首筋にピタリと金属独特の冷たさを感じた時にわかる、そして、彼女は微笑んだ。
「勝負あったね…」
しかし、何か起きたのを感じた子供がこっちを振り向こうとした時、彼女は離れて距離をとった。
「すまない、手荒なマネをした」
そう言って、東方術で作ったのだろうか両手に握られたかぎ爪のようなショートソード『カタール』を消すので敵意はないのがわかった。
だが彼女とは何の面識も無いので警戒する。念のために自分の影に『闇』を潜ませているのが解ったのかボイスチェンジャーを外しながら言った。
「もうボクは戦う気はないよ。さっきは、キミを試させてもらっただけ、敵意はないよ…と言っても、信用出来ないようだね?」
「すいませんね、私はそういうのを信じられない性格なのでね」
「ふむ、なるほどその用心深さは良い事だと思うよ。でもキミはレフィーユに協力しているじゃないか?」
「私が『魔法使い』だと言うことを知っているという事は『色々』と調べたのでは?」
「ふふ、そうだね。でも僕はここで言うつもりはないよ。だから、いい加減警戒を解いてほしいね。
ここで暴れたら、キミの方が不利だろう?
ここは昼下がりの公園だ。人が多いだろう。
今度は…ああ、すまない、命のやりとりをしに来たワケじゃない。キミに良い物をあげようと思ってね。
…そっちに投げるよ?」
すると何かを取り出し自分に見せて、もう一度、自分の方に投げたので受け取りその人を半ば睨み付けたが、それがよほど可笑しかったのか『くすくす』と笑っていたので、少し不機嫌になったがそれを見た。
「随分と古い手帳ですね、鍵まで掛かってる」
「日記帳だよ。ボクはこれを友好の証として、キミに託しておこうと思ったのさ」
「…託す、託すと言う事は、大事なモノという事ですが、どうして私に?」
「おや、勝負に勝ったのはボクだよ」
厄介なモノを託したのではないのかと思った、しかし、その時『気に入らないのなら、別に返してもらっても構わない』と言うので、その鍵を『闇』を使って開けようとした。
「ちょっと待った、開けるということは『受け取った』と捉えていいのかな?」
「別に危ないものではないのでしょう?」
「そうだね、受け取るのなら、それを開けていいよ。でも、ボクがいないところでやってくれないかな?」
「何か爆発するとかないでしょうね?」
「そんな書物が爆発すると思う?」
「わかりませんよ、この前ちょっと爆破されましたからね」
「ふふ、ハードな日常だね。でも、もしそうなったら『カリフ』を代表するボクが責任を取らせてもらうよ」
「カリフ…それが貴女の組織名ですか?」
「そうだよ、ボクはその代表者ってトコロ、どう、組織の名前まで言ったのだから、信用してくれた?」
「…冥土の土産という言葉を知ってますか?」
「ホント、用心深いね。キミは…でもね」
少し大きく深呼吸しながら、自分の目を見ながら真剣に言った。
「ボクは、それをキミに見てほしいと思ったんだよ。
感想なんか言わなくてもいいから、ただ、それを見た後、どうするかはキミが決めてほしいんだ」
論理的ではないが、多分、その瞬間、自分は彼女を信用できると思った。
「ああ、そうだ、貴女の名前を聞いてませんでしたね」
「アルマ…。
カリフの首領、アルマだよ。よろしく、シュウジ・アラバくん…」
ちょうどカギを開けた瞬間に、そこまで調べていたのかと驚いたが、彼女は、もういなかった。
どこに行ったのだろうかと、目で追うが見えたのはイワトとセルフィが、何も知らずにこっちにやって来る様子だった。