第十話
「なるほど勢い良く部屋から飛び出るところを見せて、自分の部屋のドアを『能力』で開き難くすれば、お前がまさか同じ作戦を取るとは、誰も思わないのだろうな。
見てみろ、何の警戒もなく、みんな出て行くぞ?」
寮の四階にて、彼は学園外に逃げると見せかけて、ここに残るという同じ方法をとっていた。
仕方のない事だろう、学園を出るとしてもまず外を警備に回っている治安部に見つかる可能性があるのだ。
それがセルフィ達にでも見つかりでもしたらそれこそ『終わり』だった。
となると学園内、いや、この場合、近くであればあるほど見つかり難くなるという犯罪心理を付いたレフィーユを評価するべきなのだろうが、そして、まだ見逃す気などないと意思表示をしているのかサーベルが握られらたままだった。
「感謝はしてほしいものだ。『あの魔道士キックって、何ですか?』誰かさんが後処理もせずに逃げたのだからな」
『言い訳するのに大変だった』と、腰に手を当ててため息をつくのを見ていると少し気になる事があった。
「レフィーユさん一人…ですか、随分と迂闊ですね?」
「ふっ、追い詰めた事には変わりないのだ、どうとでもいえ、お前の方こそ、勝負を捨ててないには見えないが?」
「ふっ、わかりますか?」
「私の真似をするな。しかし、迂闊というのは、お前の目論見というのに面白みを感じていたのでな」
「面白み?」
「お前の次の狙いは『捕まる事』だろう。
捕まって、私、いや、他の治安部に、その小箱の中身を見せる事だ…」
レフィーユは、窓のブラインドを指で少し開けて外を眺めて、解説を始めた。
当然、その隙に逃げようかと思ったが…。
読まれているのか、視線が完全に自分全体を捉えていた。
「まず、回覧板をこの階のどこかに隠し、そのまま自分は逃亡図り。頃合いを見計らって治安部に捕まる。
そして、隠したとは知らずにその小箱を切り裂くなりして開いた小箱を見せて…。
『回覧板なんかあるものか』と惚ける事が目的だ」
「その展開は、少し無理があるのでは?」
「当然だ、無理がある。
しかし、先のセリフを少し変えて話せばもっと説得力が沸くだろう。
『私はそれを開けるための番号を知らない、これは渡されただけだ』とな…。
当然、その後、お前の部屋も調べるようになるだろう。だが、見つかるわけもない、この寮の四階にある、男の部屋のどこかに隠したとなれば…。
そして、この騒ぎの後なのだ、口座番号が何なのか、そこにいた男子生徒なら気付くだろう…。
これは回覧板だと…」
「さっきから仮説ばかりですね?」
「だが、間違ってはいないだろう?」
「まあ、大体、あってますが…」
ちなみにレフィーユが思ったより早くやって来たので、まだ、小箱の中には『回覧板』が入っていたので、一瞬口籠もったが誤魔化すように、気になる事を聞いた。
「でしたら、ここで確実性を求める貴女が、どうして一人でやってきたのですかね。
ここでこそ大勢で取り囲めば、私は何の抵抗も出来ないのですよ?」
すると髪をかき揚げ、笑みを浮かべていた。
「ふっ、抵抗してほしいのさ」
「はい?」
「いや、お前と一度、勝負をしてみたくてな。この学園にやって来たのはいいが、こういう機会には一度も恵まれてなかっただろう?
ここで一度、私と戦ってほしくてな。
そこでお前が私を倒したら、もうこの件から手を引いてやろうじゃないか。
ただし、私がお前を倒したら…わかるな?」
「随分と酔狂ですね?」
「誰かの悪い病気が移ったのだろうよ」
つい笑いそうになったが、手の裏を見せるとレフィーユは緊張した。
パチンッ
指で音を鳴らす何気ない始まり動作に、彼女は身構えるがそれより先に目が眩んだ。
次の瞬間、視界が真っ暗になる。
彼女の周囲のブラインドが闇によって、開かれ、さらに閉じられていた。
人間の目の習性を利用して、光を浴びた内に身を屈め、闇に焦点を狭まった内に懐に飛び込む。
「くっ」
拳をサーベルの柄で受け止め、切り返すが腕で受け止めて、その手を一回転させて『掌底』を放つその姿は闇の法衣を纏った、あの魔道士。
彼女相手に手加減したら、こっちが負ける。
そんな心境で放つ『掌底』が、当たろうとした時、彼女の『姿』が歪んだ。
「ふっ」
彼女の東方術、付加能力『残像』で完全に振り切った自分を斬り付けに…。
「あの…、みね打ちでお願いしますよ?」
「駄目か?」
「駄目に決まってるじゃないですか…」
何故か舌打ちをしたのが気になったが、これで『死んだり』でもしたらシャレにもならない。
その攻撃を辛うじて避けた際、ブラインドに指が引っかかって出来た隙間から、レオナ達の姿が見えた。