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これで異世界転移n度目なんです、が!! #異世界転移 #不憫系主人公 #もはやベテラン #神様絶対許さない

作者: 竜造寺。

 



 何度も何度も世界を行き来させるような神様のつらを拝める日が来たなら、やるべきことは決めている。

「俺の身体わっハァあああ↑↑!! ボ↑ド↓ボ↑ド↓ダァ↑↑!!!!!」といって全力で泣き喚きながらブリッジして壁に顔面から突進してやるつもりだ。

 かなり本気である。

 目にもの見せてやるのだ。お前が信じた人間はこんなにも気が狂った頭の可笑しい奴なのだぞと。






 ……アキトにとって、異世界に行くこと自体は苦痛ではないのである。

 だが勘弁してほしいのは、ようやく慣れた頃に更なる別世界へと転移させられることである。


 この前の世界では、今までにない魔法体系にかなり戸惑いつつもようやく実戦で使えるようになったころに、また転移させられた。

 お前さぁ……、と苦言を呈したくもなるはずだ。当事者であったなら。

 そうしてやってきたのが、今の世界である。

 見る限り、森の中。まぁ、異世界転移の定番ではある。転移の瞬間を誰にも気付かれないようにするために打ってつけなのだ。


 神、曰く。


『ここはアルトロフィシティ世界軸。なんか、こう……あれだ。魔法が凄い。感じ? の世界だ。頼んだ』


 いや、“頼んだ”じゃないが?

 何を頼んでいるのかもわからないし、そもそもお前は何を言っているのか。何が“魔法が凄い。感じ?”だ。バカじゃないのか?

 せめて神様なら、もう少しまともな説明をしてほしいものである。


 いうて、アキトはもう慣れたものである。いや慣れたくて慣れたわけではないのだが、ずっとこの神が担当……、担当? まぁそんな感じでいつも同じ声だ。そのせいか分からないが、最近はかなり雑になってきている。


 いやでもやっぱり腹立つ〰〰!


『あ、すまない、言い忘れていた』その時、再度神は口を開いた。珍しい。いつもここで放りっぱなしのくせに。『この世界では、魔法が使えるようになるまでに、特別な訓練が必要だ。頑張ってくれ』

「ぶっ飛ばすぞ」

『……』

「なんか言えよ」

『…………アディオス』

「アッ! 逃げんな! おい! ばーか! あほ! ぶす! ハゲ!」


 アキトは空に向かって罵声を浴びせるが、当然ながらそこに神はいない。

 神はいつもこうだ。自分の都合でアキトを異世界に転移させておいて、都合が悪くなるとすぐに逃げる。

 何なんだろうな。使えない上司の元で働いているような気分というのはこんな感じなのだろうか。

 神の世界に労働基準監督署があるなら真っ先に駆け込んでやりたい。


「はぁあああ……」長い長い溜息と共にアキトは地面に寝転がった。「これで何度目だよ……!」


 思わず泣きそうになる。


 正直なところ、こうなる原因を作ったのは自分自身の行いの結果である部分は否めないのであるが。


 というのも、最初に異世界──カルクラプス世界軸に転移させられた時は、学校のクラスメイト総勢四十名と共に転移させられた。

 初の異世界転移で不安はあったものの、クラスメイトがいる安心感もあり、何とか乗り切ろうと一致団結したことはしっかり覚えている。


 だがそこで、アキトは自分自身すらも知らなかった才能に気が付いてしまったのである。

 地球から呼ばれた人間の中でも突出して高かった魔力親和性だ。

 そのおかげか、アキトはクラスメイトの中でも異様に“強かった”のだ。


 まぁ。強くて損することはないと思っていた。

 それ故に、クラスメイトの分まで強くなってやるという素晴らしい向上心と共に日々努力を重ね、神曰く、その世界軸上での最強の魔法使いにまで上り詰めたのだという。


 そこで神はピーンッと閃いてしまったのだろう。

『あ、こいつを転移させれば、楽できるんじゃね?』と。


 そうしたら、これだ。

 その世界での目標を達成したと思ったら神の声が聞こえ、強制的に転移。

 新たな世界で、こっちでもよろしく~! と。


「ガチ最悪……」


 飽きた。

 そう。そろそろ飽きたのだ。


 ……アキトは思考する。


 果たしてこの負のループを断ち切る方法はあるのだろうか。

 少し、未来予想をしてみよう。ゴールは負のループからの脱却、言い換えれば神との関係を断ち切ることだ。

 では神との関係を断ち切るのはどうすればいいだろうか。

 神は恐らく、アキトが有益だからこうして転移させているのだろう。


 ……つまり?

 アキトが有益でなくなればいいのではないか?


 おや? とアキトは首を傾げた。


 ──この世界では、魔法が使えるようになるまでに、特別な訓練が必要だ。


 おやおや? とアキトは首を傾げた。

 魔法が使えないのであれば、それは無益なのでは──!?

 突然の閃き! 光輝くアイデア! ああ眩き未来!


「つまりニート! ニートは全てを解決する」


 ぺかー、と笑顔を浮かべるアキト。

 本人は至って真剣である。


「そしたらここで寝てりゃいいかぁ……」頭上は青空、雲一つない快晴。さわやかな風。ふと思い返すと、こうしてのんびりするのも大分久しぶりな気がする。「…………」


 両腕を頭の後ろに組み、目を閉じる。


 頬を撫でる風。草木の揺れる音。鳥のさえずり。


 眠気がやってくるのに、そう時間はかからなかった。



 少し眠るぐらい、バチは当たらないはずだ。



 穏やかな日差し。風に乗って香る匂い。鉄の匂い。僅かに聞こえる悲鳴。


 金属がぶつかり合う音。人の足音。人の声。


「殺せ!」「逃がすな!」「助けて!」


 爆発音。爆風。焦げた匂い。





 あ〰〰! 戦いの音ォ〰〰〰〰!!





 アキトは勢いよく飛び起きた。飛び起きざる得なかったともいう。


「なぜこうなる〰〰〰〰!!」


 異世界転移常連のアキトにとって、こういった出来事は日常茶飯事だ。

 やれ魔物が襲ってきた、やれ姫様が連れ去られた、やれ魔法使いの暴走だ、ええ。慣れてますとも。

 今回は、あれじゃろ? 

 盗賊とかが、襲ってきたんじゃろ? 

 それも身分を隠してここに来ていた姫様の素性がバレたとか、そんなんじゃろ?


 ……ふと、考える。

 例えばここで、襲われている誰かを見捨てるのも、無益に繋がるのではないだろうか。

 確かに、そうかも。


 けれど、それは却下。ダメー。


 他人の苦しみを以て自分の利益を得るのは、『邪道』。偽りの平穏だ。


「はー……」


 思わずため息も出ることでしょう。

 こういう面倒な性格だから利用されているんだろうなぁ、とは思いつつ、これだけは譲れないのである。


 立ち上がって、耳を澄ませる。

 沢山の世界を巡るうちに、アキトは様々な音に敏感になっていた。それはもはや獣の如き感覚。後方で衣服が草に擦れた音であっても聞き逃さない。

 咄嗟に振り返って、女性と目が合った。アキトの後方、約五メートルほどの距離。


 ブロンドヘアと碧い瞳、隠しきれぬ高貴な雰囲気を纏う女性。

 だが、彼女の衣服は村娘と言ったものであり、かつ、汚れている。枝にでも引っ掛けて破れた跡。泥と、血の跡。


「……あ」今にも消え入りそうな声だった。「助けて……」


「りょ」


 その直後だった。アキトの姿が消えて、代わりにアキトが立っていた場所の地面が破砕する。

 それがアキトの移動に伴う衝撃であることは、およそ初見では気付けまい。


 何かが起こった。何かが起きている。

 女性に分かるのはその程度だ。


 それから間もなく、女性の後方から響くのは戦闘音と、悲鳴。


「ぐぇ」と、踏まれたカエルのような悲鳴。

「ぎゃあ」と、やかましい鳥のような悲鳴。

「ひぃ」と、怯えた声。

「ぽッ!」と……なんか変な声。


 僅か十数秒の出来事だった。追手がいるはずだった方向から姿を現すのは、つい先程姿を消したアキトだ。


「終わりましたよーん」

「へ……? え……?」




 ◇




 その後、アキトは女性を連れて近くの村へと向かった。

 向かった、というか、どちらかと言うとアキトが女性に道を教えてもらっていたというのが正確ではあるのだが。

 そうして森を抜け、街道と思しき道に出た辺りだった。村があるという方角から馬車と、騎乗した騎士たちがやってくるのが見えた。


「あ」と女性が思わず声を漏らす。


 その反応から、あの一団は女性にとって何かしらの関係者であることは想像に難くなかった。


「……あ、の……その」

「あの武装した方々は、あなたの護衛ですか?」

「え」女性の目が見開かれた。どうして分かっているのか、という目だ。勘です、とは言い難い雰囲気。「……はい、そうです」

「じゃあ、安心ですね」

「あ、あの! も、もしよろしければ……」


 そう言って女性が振り返るが、その時点でアキトは既に姿を消している。

 文字通り、姿を消している。つまり、透明化の魔法だ。この世界での魔法は習得できてはいないが、別世界の魔法で代用できることは追手との戦闘で確認済みである。

 異世界間距離(・・・・・・)が近い世界に行ったことがあって助かった。世界軸同士が近いほど魔法は似通い、代用もしやすくなる。数多の世界を巡ってきたアキトだからこそできる技だ。


 魔法というのは“手段”であり、魔法習得の難しさは言い換えればその手段の複雑さにある。

 だが面白いのは、魔力は世界を跨いでも大きく変わらない。

 それ故に、手段は違えど結果は同じになる。……とはいえ、魔法の威力や効果は元の世界比較で良くても十分の一が限度だが。

 アキトの異様な魔力親和性がなければ使い物にはならない技術ではある。


「え? あ、あれ……?」


 女性は戸惑いながら辺りを見回す。

 申し訳なさがないわけではない。が、これがアキトの流儀である。


 見ればわかる。女性は間違いなく貴族。そしてそういった人との関わりは、正直なところアキトにとって無益である。

 感謝されるのも、褒められるのも決して嫌なわけではない。

 けれどそういう関係を築くのは、ここに長くはいられないアキトにとっては後々辛い思いをするだけだ。

 

 親しい間柄になった人と別れるのは、何度経験しても辛い。

 世界という隔たりは、思った以上に、遠い。


 だからこそ、アキトは関わらない。

 女性の感謝は必要ないし、女性の名前も素性も知らなくていい。





 アキトは、学校のクラスメイト総勢四十名と共に転移させられた。

 そして、アキトは才能に気が付き、世界最強の魔法使いにまで上り詰めた。


 だが、その二点の間には、数々の苦難が存在していた。


 アキトが最初の世界の“魔王”──いわゆる、ラスボス(・・・・)を倒した時点で、クラスメイトは半分以下にまで減っていた。

 アキトを慕ってくれていた女性も、彼が不在だった間に、魔物に襲われて死んでしまった。


 しなくてもいいのなら、決して経験したくはなかった永訣。

 伝えることすら出来なかった別れの言葉は、今のアキトの心にも刺さり続けている鋭利な棘だ。


 そういった経験があったからこそアキトは最強の座にまで上り詰めることが出来たのだと言えるが、それはアキトが望んだことではない結果論に過ぎない。


 以降、アキトはこう考えるようになる。

 他人の苦しみを以て自分の利益を得るのは、『邪道』だと。

 ──ならば、自分の苦しみを以て他人の利益を得ることこそが、己が歩むべき『正道』なのだと。





 アキトは静かに背を向ける。

 護衛に勘付かれる前にさっさとここから離れるのが吉だ。

 小走りに村とは反対方向へと走り出す。道があるのなら、それに沿って走るのが一番だろう。どうせどこかには繋がっている。

 気ままな一人旅も慣れたものだ。


 ……その時だ。


「ちょっ、ちょっと待ってください!」


 グイ、と服を引っ張られて、アキトはつんのめりそうになりながら立ち止まった。

 何故気付いた!? そう思いながら振り返ると、そこには先程の女性が立っていた。だが、瞳が明らかに変容している。


 ……魔眼だ!?


 どの異世界でも一定数存在し、何故かすべての異世界で似たような能力が存在する。

 世界を跨ぐ不思議なえにし、それが魔眼。


 見たところ、女性の魔眼は『看破』の魔眼だろう。その目で透明化したアキトの姿を見破ったのだ。


「……おおう」

「な、なんで逃げるんですか、アキト(・・・)さん!」

「いや、なんでって……て、あれ? 名乗りましたっけ?」

 

 言ってて気が付いたが、『看破』の魔眼だ。単なる透明化を見破るだけではなく、魂の根源を覗き、その者の名前や来歴までも看破する最上位の魔眼。

 下手をすれば、こちらの思考すら読まれかねない代物だ。


「そんなことより!」


 そんなことよりって言った!?

 これより大事なことはあるのか!?


 思わず顔を顰めたアキトだったが、女性から放たれた言葉を聞いて、認識を改めることとなる。


「やっぱり……! 他人の空似じゃない……! アキトさんだ…………!」

「え? んん? えっとぉ?」

「姿も、顔も、声も別物になっちゃいましたが、私、カルクラプス世界軸の……セラです……!」



 ぶわ、と鳥肌が立った。



 カルクラプス世界軸。

 アキトが最初に転移させられた世界軸。

 そしてセラというのは、アキトを慕ってくれていた女性の名前だ。


「セラ…………? セラ・ステラスス……? 本人、なの?」

「はい、そうです……セラです! アキトさん……! あちらの世界で魔物に襲われた後、気が付いたらこの世界に生まれ変わっていまして……」


 ──異世界転移がアキトに対してでもこれだけ行われているということは、異世界への転生もまた然り。

 魂は不変だ。輪廻の環によって、何度も何度も生まれ変わる。そして生まれ変わっても、魂は同じ。一説には、魂と魔眼には相関関係があるとも言われている。双方とも、世界を同一の“かたち”で跨ぐからだ。


 この瞬間、アキトの脳裏に存在してた馬鹿らしい仮説が確信へと変わった。




 ──かつて死別したクラスメイトもまた、どこかの世界で生きているのではないか。




「ひゃあ!?」アキトは思わず、セラを抱きしめていた。「あわ、あ、アキトさん……?」


 感情の整理が追い付かない。

 セラとの再会。それだけでこんなにも嬉しいというのに、これがまだ序章に過ぎない、そんな予感がアキトの中には確かに存在していた。


「ごめん……もうちょっとだけ、このままで」

「…………」セラは困ったように微笑んだ。「……はい、いいですよ」


 アキトの背中に回されたセラの手は、優しく包み込むように添えられた。
















 何度も何度も世界を行き来させるような神様のつらを拝める日が来たなら、やるべきことは決めていた。


 だが、それも考え直さなければならないらしい。


 どうして世界を行き来させられるのかがずっと分からなかった。

 けれど。

 ともすれば、今日みたいな日のためだったのかもしれない。



 生きる意味を見つけた。


 どれほどの時間がかかるか分からない。

 けれど、別れの言葉も言えなかった仲間たちと再会するためならば、どれほどの時間がかかろうと構わない。



 かなり、本気である。



 目にもの見せてやるのだ。お前が信じた人間はこんなにも気が狂った頭の可笑しい奴なのだぞと。


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