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かおせかっ! 〜カオスなセカイで青春を〜

やっぱり世界終わるかも。

この状況に至るまでの経緯は前回参照。読んでも読まなくても大体話はわかります。

https://ncode.syosetu.com/n2861ku/

「……本当にお祭りだね」

 そう漏らす、桃色の着物をまとった白髪の美少女、都城(みやこのじょう) みやこ——みやに、俺たちをここに連れてきた張本人ことゆゆは、白い着物を翻して、猫耳をぴょこんと立てて告げる。

「当然だよっ! だって、ここは妖怪たちの夏祭り——百鬼夜行だもん!」


 辺りには、和太鼓が響き渡っている。

 祭り囃子と共に、大勢の人々——というか妖怪変化魑魅魍魎が仲良く盆踊りをしている。

 これから御神輿も出発するようで、裸にふんどしの筋骨隆々な妖怪が、神輿を担ぎ上げていた。

 その光景はまさしく、妖怪たちによる夏祭りであった。


「出店も向こうに出てるよ!」

 指さすゆゆに、俺たちはついていく。

「……すごい……みんな人間じゃないんだ……」

 驚く赤髪で赤い着物のツインテ少女、串間(くしま)の声に、ゆゆはこくりと頷いて。

「どう? これで妖怪が実在するってわかってもらえた?」

「そりゃ、もう、すごく」

 こくこくと首を縦に振る串間を横目に、都城の妹——水色の着物の白髪美少女、まいは物珍しいものを見たという目で一言。

「……これが、ジャパニーズオマツリ……」

 外国人みたいになってるぞ? 宇宙人だからほぼ同義だけど。


 こうして俺たち四人と一匹は遊び回った。

 屋台の食べ物を食べたり。

 射的をしたり。

 金魚すくいもした。

 何も得られはしなかったが。


「それにしても、この祭りに来たの何年ぶりだっけ」

 俺のこぼした問い。「大体五年も前になるかにゃあ」なんてゆゆは言う。

 それに対してみやが「延岡くん、前にもこのお祭り来たことあったんだー」と聞いてきたので、俺は頷いた。

「ああ。まだ子供の頃に、何度かじいちゃんやばあちゃんに連れてってもらったんだ」

「へえ、延岡くんおじいちゃんとかいたんだ」

「いたよ。小学校上がる前に死んだけどね。

 ばあちゃんはまだ生きてるけど、何年か前に腰を悪くしてからは行ってなかった」

「あたしは何度も来てたけどね。にぃにが出不精なだけだにゃー」

 笑うゆゆに、「でもここ、一人じゃ来れないし」と反論。

「え? どういうこと?」

 頭にハテナマークを浮かべたみや。まあ、無理もない。

 ここは現実にある神社だが、普通の人はこの祭りを知覚できない。何故なら、妖怪たちは本来、人間とは別の次元に生きているからだ。

 イラストとかのレイヤーを思い浮かべてもらえばわかるかもしれない。人間と妖怪は、違う層に生きているから、互いに干渉することは原則不可能だ。一部の例外を除いて。

 ここは、妖怪のレイヤーでやっている祭り。だから、人間には知覚不能なのだ。その一部の例外にならない限りは。

「要するに、妖怪に連れてこられないと来られないんだよ。この祭りは」

「はえー」

 何もわかってなさそうな顔で綿菓子を頬張るみやを、俺は少し笑って見ていた。


「にゃっ。……にぃにはあたしのにゃ」

 ゆゆが俺の腕をつかむ。胸、当たってるぞ。いいのか?

 頬を膨らますゆゆに、みやは対抗するように俺の腕をつかんだ。

「渡さないから。私の延岡くん」

「むーっ」

 ……暑いなぁ。


「仲睦まじいですね」

「う、うらやましいです」

 ……まいと串間の視線は冷たいんだけどなぁ。風邪引きそうだ。


 やれやれ系主人公を気取ろうとした、その時だった。

 ドォン、とでかい音がした。

「まさか、ここに人外が集っているだなんてね。ふふ、この祭りを壊すのは心苦しいが——残念だ」

 そう言いながら空から現れたのは——。

高千穂(たかちほ)先輩っ!?」


 説明しよう。

 高千穂先輩、通称『部長』。この和風な世界観でものすごい場違いな近代武装姿——有り体に言ってしまえばコマンドーのシュワちゃんをそのまま女にしたような格好をした激強女は、うちの高校の文芸部で部長をしている超人である。

 とある組織で傭兵をしていると聞いたことがある。高校生のはずなのに。歴戦のヴァンパイアハンターとも言っていた。高校生なのに。なんか超強い存在だ。高校生なのに!

 まあ、要するにバケモンである。

「君たち妖怪に対しては静観を決め込んでいたが——いかんせん民間人からうるさいと苦情が出た。どうやら今晩はお盆だからか次元の壁が薄かったらしい」

「マジ?」「え、知らんけど」

「なので、調査しに『来た』ッ!」

「……ここって、普通の人間が来れるようなところじゃないよね?」

 ゆゆに尋ねると、「そ、そのはずなんだけど、にゃあ……」と尻尾を逆立てて告げる。この尻尾は、そう、めっちゃ怖がってる感じ。

「おっ、そこにいるのは愛しき部員たちじゃあないか!」

 そう言って俺たちを指さしてきた部長に。

「カヒュッ」「ヒッ……なんで」「てかこんなに離れてるのにっ」「こえーよ」

 びびる俺たち。部長は笑いながら告げる。

「ここに来てまで部員に会えるとはね。一〇〇〇〇回も全力で地面を殴って次元を強行突破した甲斐があったよ」

 怖っ!

 秒間一回と換算してもおよそ三時間近くは土を殴り続けたであろう血まみれの拳を振って、彼女は笑っていた。怖っ。


「だが、こんなところに来るのは感心しないなぁ。——言うなればここは人外魔境。化け物だらけの危険地帯」

「そ、そんなことないですっ」

「おやぁー? 串間ちゃん。どうしてそんな、顔を真っ赤にして」

 ニヤニヤする部長に、串間は珍しく大きく息を吸って、大きな声で、叫んだ。

「妖怪たちだって、悪い人ばっかじゃないです!

 確かに、人間とは姿も形も違いますけど! なんなら倫理観価値観その他諸々が違ったりするらしいですけどッ!

 ——でも、いい人たちだっていっぱいいます。この子みたいに」

 そう言って、串間はゆゆの髪を少し撫でた。

「そうかそうか。まあ、一理はあるな。わかる」

 部長はというと、少しだけ目を細めて——しかし。

「だが、こちらも仕事だ」

 視線を鋭くする。

 一触即発の空気感。ピリピリした緊張。

 部長は、銃を構えた。


 そのとき、誰かが叫んだ。

「神事の決闘が始まるぞー!」


 ざわめき出す会場。

「えっ、えっ、何が始まるの!?」

 混乱するみやの手を引く。

「ちょっと俺たちには危険な催しだ」


 夜が深くなると、妖怪たちは戦いはじめる。

 何故か。——妖怪たちは、それを『神事』と呼ぶ。

 祭りは何故起こるか。それは各地様々だが、その中でも『神への感謝』や『悪鬼退散』といった話はよく聞く。

 例によってこの百鬼夜行も似たようなものだと、じいちゃんは言っていた。

 この町から悪い物を遠ざけるために、妖怪たちが神輿を担いで練り歩く。それが百鬼夜行の始まりだ。

 そして同様の理由で、妖怪たちもこの平和は神様の御業だと考えるらしい。だから、神様を喜ばせるために、年に一度の祭りで『決闘』を奉納するのだと……どっかの妖怪が口にしていたのを聞いたことがある。

 閑話休題。

 じいちゃんは、その決闘を奉納する『神事』の時間になると、もっと遊びたがる俺を半ば無理矢理家に連れ帰っていた。

 今ではその理由もわかる。——乱闘の最中にぶち込まれて、ただの人間が無事でいられるはずがない。

 流れ弾一発で即死の可能性すらある。相手は千差万別の妖怪とはいえ、少なくとも人間ではないのだ。人間のレベルに合わせてくれるわけ、ないじゃないか。


 しばらく胡座で座っていた部長だが、納得したかのように立ち上がって。

「じゃあこうしよう。——私が勝ったら、祭りはここで解散だ」

 不敵に笑う部長に、串間は渋い顔をして。

 けれど、「それは困りますね」と串間の肩に手が置かれた。

「まい!?」

「お姉ちゃんは逃げてください。——このお祭りがなくなるのは、惜しいので」

 そう言って、まいは腕をピンク色の巨大な刃物に変形させた。

 信じられないものを見た、と言ったように固まるみや。それを横目に、串間もピンク色のステッキを取り出して。

「——同感です。変身(チェンジ)、ルビープリズム」

 彼女の身体が、光ったかと思ったら。

「ほう、魔法少女か。——面白い」

 串間は変身した。魔法少女に。

 息を呑んだみやの腕を、俺は引いた。

「逃げるぞ」

 宮司さんのような姿をしたかえるの妖怪が、いつの間にか作られた土俵の真ん中で軍配をかざし。

「用意——————はじめ」

 振った。

 周囲に、衝撃波が舞った。


「きゃあっ」

 妖怪たちが数体飛んで行ったほどの大きな風。みやの悲鳴に、俺は思わず振り返る。

「いったた……」

 彼女は転んでいた。

「大丈夫か」

 尋ねると、彼女は「……へーき。だけど……」と言って、足下を見た。

 見た感じ、彼女自身にけがはない。でも——。

「下駄、だめにしちゃった」

 鼻緒が切れている。素足の方が下駄よりよっぽど走りやすくはあるだろうが……。

 少しだけ考えてから、俺は彼女に手を差し伸べた。

「……ありがと。でもほんと大丈夫……」

「いいから」

「わかっ……えっ」

 手を取った彼女——の腕を引っ張って。

 そのまま、腰に手を当てて。

「……これって」

「言わせんな、恥ずかしい」

 紛れもないお姫様抱っこ。恥ずかしさをごまかすように、俺は叫んだ。

「ゆゆ! 道案内してくれ!」

「んにゃっ。——あとでちゅーる、忘れないでねっ」

 そうして、彼女の先導の元、俺は走った。


 俺の足腰は悲鳴を上げる。

 だが、踏ん張った。踏ん張って踏ん張って、煽ってきていたゆゆの声もだんだん心配のそれへと変わっていき、やがてそれも聞こえないほど疲弊してきて。

「う、ぐ……」

「あともうちょっと! がんばってにぃに!」

「あど、もう、ぢょっと……」

 うめきながら、泣きながら——しかし、みやの顔を少し見ると、それだけで力が沸いてくるようで。

 息も絶え絶え——俺は、どうにか家に帰り着くことに成功した。

 水をがぶ飲みし、痛む腰をさすりながら、それでも息を切らしながら、彼女の寝かされた布団を見る。

 そして彼女の安らかな寝顔を見て、目を細めた。

 ……なんとか無事で、よかったなぁ。

 …………今夜のこと、どうごまかそう。


    *


 ——夢を見た。

 それは愉快な夏祭り。どうみても人間じゃない人たちの、楽しい楽しい夏祭り。

 私と、友達と、まいと、延岡くん。延岡くんの妹さんも連れて。

 とっても楽しかった。いろんなことをした。どんなことかはもう覚えてないけど、とにかく楽しかったのは覚えている。

 しかし、突然コマンドーみたいな格好をした部長が出てきて、全てをめちゃくちゃにしようとした。

 そこに魔法少女が現れて、私たちを守ろうとして——まいが、腕を鎌にして、私を守ろうとしていた。

 目を見張る光景だったけど、延岡くんが腕を引っ張った。

 その場から動けない私を、お姫様抱っこして。

 連れて行ってくれて……。


 薄目を開けると、光が射していて。

「おはよう。よく眠れた?」

 そう、延岡くんは笑った。


    *


 結局、祭りは存続することになったらしい。

 ひどくボロボロになったまいとその背中で気絶していた串間が延岡家に戻ってきたのは、もう深夜も零時を少し回った頃のことだった。

 当然のように部長まで連れてきたので、客用の布団を敷いたら川の字になって寝だした。仲良くなったようで何よりだ。

 さて、俺は夜明けまでずっとみやを見ていたわけだが、さすがに眠くなって。

 みやに朝の挨拶をしたところで、俺は気絶してしまったらしい。

 頭痛腰痛筋肉痛その他諸々の全身が軋むような痛みに起こされた時には、もう既に終業式が終わった頃だった。

「お休みの連絡はしといたからね。おつかれさま、にぃに」

 ゆゆに耳元で囁かれつつ、俺はもう一度布団に入ろうとした。今日から夏休みだ、と浮かれ気分だったのかもしれない。

 だが、現実は非情だった。

《今からそっち行くね!》

 みやからのメッセージが、数十分前に来ていたことに気づいた——時には既に遅し。

 ぴんぽーん、と玄関のチャイムが鳴った。


「こんにちは、夏休みの宿題届けに来たよ!」

 みやの元気な声に、俺はため息を吐く。

「……頭、すっげーガンガンするんだが」

「それは大変だね」

「他人事みたいに言うんじゃない」

 お前が原因だぞ、とは言わないでおいてやるけど。——昨晩のことが夢じゃないとバレた時が怖い、ってか恥ずかしいし。

 軋む身体を伸ばし、俺は尋ねた。

「で、他になんかあるか?」

「文芸部の夏休み予定表、持ってきた」

「……げ、ほぼ毎週予定あんじゃん」

「ほかにも、みんなで海行ったりとか、バーベキューとかもしたいねって言ってた」

「合宿かぁ……串間が嫌がりそうだけど」

「楽しみにしてたよ? あの子正式な部員じゃないけど!」

「…………ああ、そうだったか」

 もうすっかり部員のつもりだったが、実は違っていたらしい。今度入部届見せてみるか。

 なにはともあれ、無事に夏休みは幕を開けたようだった。


 この先も、どうせ平凡な毎日は続いていく。

 どんな異常が起これど、世界はそれを呑み込んで、また新しい普通の日常を送らせる。

 けど、それでいい。それがいい。

 俺にとって、この何気ない日常こそが、大事な宝物なのだから。


 だからたとえ何があろうとも、俺はこの日常を楽しみたいのだ。


Fin.


 かおせかっ! 第一章・完


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― 新着の感想 ―
妖怪たちの百鬼夜行というユニークな設定に私もワクワクしながら読み進めました。部長の破天荒な登場やまいと串間のまさかの変身と戦闘シーンには驚きましたが、それらを日常として受け入れている主人公の視点が物語…
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