第四話 嫌では
——まえがき——
すみません。ジャンルをファンタジー(ハイファン)から
恋愛(異世界)に変更しました。
最初からそうするつもりだったのに間違えていたようです。
本当に申し訳ありません。
「おいお前、ちょっとツラ貸せや」
その日の朝、冒険者ギルドを訪れようとした俺は途中で高価そうな鎧を身に着けた男に声をかけられた。テンプレか? テンプレなのか?
俺はコイツらを知っていた。個々の名までは知らないが、Cランク冒険者四人のパーティーの一人だ。Bランク相当の実力がありながら、素行が悪いせいでCランクに据え置かれている者たちである。ジェリカによるとギルドも手を焼いているそうだ。
冒険者ギルドの受付嬢が可愛らしい制服ではなく革鎧を身に着けているのも、半ば彼らのような素行の悪い冒険者のせいとのことだった。
「これからギルドに行くんだが?」
「いいから来い!」
首根っこを掴まれてしまった。こんなヤツをやっつけるのにどうということはないが、そこで俺は一つ考えが浮かんでいたのである。
コイツのパーティーに護衛させてキパラ大森林に上薬草を採りに行くのだ。夜中にこっそりでもいいが、それだとジェリカに説明出来ずせっかく採取してきても売る手立てがない。ならば利用させてもらおうではないか。
「おい、連れてきたぞ」
待っていた三人の前に乱暴に投げつけられた。周囲に人影が見えない路地裏である。痛みはないが痛そうにしておこう。
「な、なにするんだ!」
「うるせえ! てめえ駆け出しの分際でジェリカちゃんに色目使いやがって!」
「そんなの知るかよ。新人冒険者に親切にしてくれてるだけだろ!(色んなところを)」
「ちょっと見てくれがいいからっていけ好かねえガキだ。冒険者の心得ってモンを教えてやる!」
「やっちまえ!」
ボカスカボカスカ!
「痛え!」
「痛えよー!」
「ググッ!」
ボカスカボカスカ!
「も、もうやめて!」
はい、一方的に殴る蹴るをしてやりました。
「なあ、冒険者の心得ってなんだ?」
「ひっ!」
ボカッ!
「なんだって聞いてるんだよ!」
「ゆ、許して!」
「あん? さっきお前ら言ってたよな。冒険者の心得を教えてやるって。なあ、その心得ってのを教えてくれよ」
ドカッ、バキッ!
「お、俺たちが悪かった」
「悪かった?」
ボコッ!
「い、痛い! 悪かったです! 申し訳ありませんでした!」
四人のパーティー名は『紅蓮の決死隊』。メンバーはリーダーがアドル、以下ガレン、ジョセ、マルコムだそうだ。
「申し訳ありませんでしただ? それで済むとでも思ってるのか?」
ボカッ!
「ひいぃっ! もうやめて下さいぃっ!」
「ギルドに行くって俺の時間を奪ったんだ。どう落とし前つけてくれるんだよ!?」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「もうしません!」
「許して下さい!」
「なんでも言うことを聞きます!」
「ほぉーう、なんでも聞くって言ったな?」
「や、それはあの……」
「言ったよなあ?」
ボカボカ!
「い、言いました! 言いましたからやめて!」
手足の骨の数本は折れていただろう。そこにはさっきまでの強そうな冒険者の面影は微塵もなかった。涙を流し、鼻水が垂れ、地べたに這いつくばっている姿はさすがに痛々しい。とは言え先に仕掛けてきたのは彼らだ。俺は悪くない。
「よし。ならお前ら、俺をキパラ大森林まで連れていけ」
「はひ?」
「俺は戦闘職としてはFランクだからCランク三人以上のパーティーが同行しないと行けないんだよ」
「えっと、なにをしに?」
「上薬草を採るために決まってるだろ。行くのか? 行かないのか? 行かないなら俺の気が済むまでボコボコにするだけだがな。もちろん命の保証もしない」
「い、行きます!」
「行きますとも!」
「行かせて下さい!」
「行きますから殺さないで!」
四人の同意が得られたところで、俺は彼らの怪我を治癒魔法で癒してやった。さらに汚れた鎧などもクリーンの魔法で新品同様にまで清めるオマケ付きだ。
「これは……」
「いいかお前ら、今日ここであったことは他言無用だ。誰かに喋ったら……分かってるよな?」
「言いません!」
「誰にも言いません!」
「絶対に言いません!」
「口が裂けても言いません!」
口が裂けたら喋るどころではないと思うが、これだけ脅せば、もとい、頼んでおけば問題は起きないだろう。それから彼らにもろもろ口裏を合わせるように命じて……お願いしてから冒険者ギルドに向かった。
「ジェリカ、おはよう」
「あらレン君……と『紅蓮の決死隊』!?」
「ああ。彼らが同行してくれることになったから、上薬草を採りにキパラ大森林に行ってくるよ」
「ちょっとレン君!」
彼女が俺に顔を近づけて囁く。
「大丈夫なの?」
「平気平気」
「だって『紅蓮の決死隊』よ? この前話したし噂は知っているでしょう?」
「うん。だけど彼らは今後は心を入れ替えるそうだよ」
「そんなこと言われても……」
「ジェリカちゃん!」
「な、なに?」
声をかけたのはリーダーのアドルである。
「今まですみませんでした!」
「「「すみませんでした!」」」
「は、はえっ?」
「俺たち心を入れ替えたんです!」
「その手始めにレン様……レン殿をキパラ大森林に連れていこうと思います!」
「レン様?」
「な、なんのことかなあ」
俺が彼らを睨みつけると縮こまっていた。ここに来る前にまずはレン様、ダメ出しするとレンの旦那、レンのアニキなどと言い出したので、レン殿と呼ばせることに決めたのである。
「レン君!」
「はい、なんでしょう?」
「なんでしょうじゃないわよ。規定を満たしているから私には止めることは出来ないけど、キパラ大森林は本当に危険だから行ってほしくないの」
「ごめん。必ず無事に帰ってくるから」
「どうしても行くのね?」
「うん。決めたことだからさ」
「そう。じゃギルドカード出して」
「ほい」
「貴方たちも」
「「「「はい!」」」」
手続きを終えると再びジェリカが顔を近づけてきて囁いた。
「絶対に帰ってきてね」
「分かってるって」
「帰ってきたら一週間はうちに泊まること!」
「はい?」
「レン君が他の子と遊ぶのは止めないけど、これでも心配するんだから一週間くらい独り占めさせなさい」
「ジェリカとしかしてないけど」
「それでも! 分かった?」
「はいはい」
帰ったらすぐにでも上薬草の栽培に取りかかりたいところだったが、ここは彼女の言う通りにした方がよさそうだ。ま、俺も嫌じゃないからいいけどな。