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第三話 薬草を

「家が欲しいんだが」


 シュロトヘイム王国で不動産を扱っているのは生活ギルドだと教えられた。金があるのに毎度宿屋に泊まる必要はない。さっさと家でも買って落ち着きたいところだ。ということで早速俺は生活ギルドを訪れていた。


「家、ですか?」

「ああ、金ならあるから心配しないでくれ。気に入った物件があれば即金で支払う。あとこれ、ギルドカード」


「おお、Dランクの目利き職でしたか。それは失礼致しました」

「いや、俺だってこんな若僧が家を欲しいなんて言ったら冷やかしだと思うよ」


「恐縮です。イチジョウ様はどのような物件をお探しですか?」

「そうだな。貴族の屋敷までとは言わないけど大きい方がいい。あと風呂は必須かな」


 トイレはあまり期待出来そうにないので、家を買ってから改造すればいいだろう。もちろんシャワートイレ、よくある話だ。一儲けも二儲けも出来るだろうが広めるつもりは全くない。この世界の文明には必要以上に干渉しないつもりである。俺が個人的に使ったり楽しんだりする以外はな。


「ご予算はいかほどですか?」

「答える前に相場が知りたい。部屋は四つくらいで他に居間と厨房、広めの浴室を備えた家だとどのくらいなんだ?」


「新築ですとおおよそですが金貨三百枚程度ですね。ただ王都は土地が高いので、比較的郊外でも最低金貨五百枚は見ておいた方がよろしいかと」


 新築の上物(うわもの)が三千万に土地が五千万か。ん? 新築? 待てよ、それなら……


「あー、悪い。なら土地だけでいい。郊外で構わないから千坪くらいは欲しい」

「せ、千坪ですか!?」


 千坪の部分はうまく翻訳が効いて理解してもらえたようだ。ちなみに千坪の広さは正方形なら約六十メートル四方となる。


「それですと本当に郊外でも金貨三千枚は下りませんよ」

「空いてる土地に覚えは?」

「一応二カ所ほどありますが……」


 教えられたのは郊外も郊外、冒険者ギルドなどがある王都の中心部から馬車で半日くらいかかるとのことだ。


 一つ目は周囲に商店どころか人家もない、水場すらないところだった。広さは十分だがこれでは生活に支障が出る。いや、俺自身は瞬間移動が出来るので問題ないが、使用人などを雇った場合に買い物だけで往復丸一日かかるとか拷問だろう。これで金貨三千枚なのだそうだ。


 もう一つはそれよりかなりマシで徒歩圏内に市場があり、近くに流量の多い川も流れているから生活には困らないと思う。ただし土地だけで金貨七千枚、日本円にしておよそ七億の物件だ。こちらも王都から馬車で半日の距離である。


「こっちの金貨七千枚の土地にする」

「本当によろしいのですか!?」


「ああ。それと一軒家がいいんだが、割と王都の中心部に近い物件はないかな?」

「それならいくつか。ですが土地と合わせて最低でも金貨千五百枚は必要ですよ」


 何カ所か内見して、冒険者ギルドまで徒歩五分ほどのところにある二階建て6LDKの屋敷に決めた。予定より部屋数は多いが、新築なのですぐに住めると言う。これが金貨二千五百枚。都心の一等地に比べたら安いものだ。


 この屋敷は郊外の土地から瞬間移動で王都に来る時に、人に見られないようにするために購入することにした。


「さて、支払いだが現金即決払いなんだ。二千枚くらいマケろよ」

「そ、それはさすがに。三百枚くらいでしたら」


「分かった。千五百枚値引きで手を打とう」

「あの、五百枚でいかがでしょう?」


 結果、千枚値引きの金貨八千五百枚で二つの物件の権利証を手に入れた。


 ちなみに口座間取引をせずに金貨で支払ったのは、冒険者ギルドに俺の資産を知られないようにするのと手数料の節約のためだ。


 ひとまず王都の中心部に買った屋敷を第一拠点、郊外の土地を第二拠点と呼ぶことにする。しばらく第一拠点に住むが、夜中に魔法で少しずつ第二拠点を高さ十メートルの壁で囲う。一気にやってしまうと周囲を驚かせてしまうし、怪しまれる可能性があるからだ。


 壁が出来たら魔法で中に屋敷を造り、その後は基本的に俺は第二拠点に住む予定。ただ思ったより出費が多かったので、冒険者ギルドで依頼も熟していこうと思っている。そちらの報酬はあまり高額を期待せず、地道にやっていくしかないだろう。ちり積もという言葉もあるから蔑ろにするつもりはない。


 そんなわけで数日ぶりに冒険者ギルドを訪れると、ジェリカが膨れっ面で俺を手招きした。


「レン君!」


 様呼びから君呼びか。男女の仲になったのだし特に目くじら立てるようなことではない。ただ彼女はギルドでも人気があるようで、他の男性冒険者からの視線が痛かった。よくある話に発展するのだろうか。面倒臭い。


「こんにちは。依頼を受けたいんだけど」

「こんにちは、じゃないわよ。この数日どうして来てくれなかったの?」


 ジェリカも周りを気にしてか、顔を近づけて声を潜めている。それが余計に男たちの嫉妬を募らせる結果となるのだが。ま、彼女がこんな風に言うのは童貞だったはずの俺が日本での経験を生かして、テクを惜しげもなく使ってしまったからである。申し訳ない。


「えっと、ごめん。ちょっと忙しくて」

「私に会いに来るより?」


「ほら、宿とか探さなきゃいけなかったから」

「うちに来ればいいじゃない」

「あ、あははは……」


「私で童貞捨てたクセに」

「ふぐっ!」


 言われたいセリフランキング上位がナチュラルに出てきてビビった。


 本来ならそういう束縛は苦手なのだが、ジェリカは自分で目的は俺のカラダだけだと言っていた。それ以上は詮索する気もないそうだ。つまり夜の相手をすれば満足してくれるのだから気が楽である。


「普通はね、冒険者登録したら何日かは連続で来るものなのよ。それなのにレン君たら」

「わ、分かったから」


「じゃ、今夜はいいわね?」

「え、そっち?」

「なによ、不満?」

「いや、うん。大丈夫」


「そう。なら許してあげる。依頼だっけ。薬草ならいつでも買い取るからわざわざ依頼を受けなくてもいいんだけど、レン君はちゃんと私のところで受付してから行くこと!」

「へーい」


「そうそう、ちょうど上薬草の採取依頼が来てたわ。あ、でもレン君はダメね」

「どうして?」


「だってこの後私の家に来るでしょ? それに上薬草はキパラ大森林に行かないと採れないのよ」


 キパラ大森林とは王都の北西に広がる森林で、強い魔物の棲息地として恐れられているのだとか。ここから森の近隣にあるヒュブル村まで馬車で片道三日もかかるそうだ。そのヒュブル村から大森林まではさすがに馬車は出ていないため、自前の馬車か徒歩で半日の距離を行く必要がある。


 薬草の買い取り額は、入手困難な上薬草が一本金貨五枚でかなり高額。中薬草は大銀貨一枚、普通の薬草は十本単位での買い取りとなり一束銀貨一枚である。


「戦闘職としてはFランク扱いのレン君には行かせられないの。もしどうしても行くならCランク以上の冒険者パーティーの同行が必要ね。しかも最低三人のパーティーじゃないと許可出来ないわ」

「そうなんだ」


「でもそんなパーティーならレン君に雇われるより自分たちで採取した方が儲かるから、同行してもらえる望みは薄いわね」


 この世界最強のドラゴンの百倍のステータスを持つ俺ならどうということはないだろうが、明かすわけにはいかないので悩みどころである。しかし何かの時のために上薬草は手に入れておきたい。後でこっそり行ってみることにしよう。


 一日進む度に瞬間移動で戻ってくれば怪しまれないはずだ。瞬間移動は視界内か一度訪れたところならどこへでも行けるのである。


「中薬草はどこで採れる?」

「それもキパラ大森林ならたくさん採れるけど、割には合わないわね。上薬草を採りに行ったついでに採取してくるのがほとんどよ。王都の城壁の外に稀に自生しているけど採り尽くされていてなかなか見つからないと思うわ。ほとんどは薬草農家が作っているの」


「薬草農家なんてあるんだ」

「なければ上薬草ほどでなくても希少な中薬草の買い取り額が大銀貨一枚なわけないじゃない」

「上薬草は作ってないのか?」


「上薬草が人の手で作れたという話は聞かないわね。あれは特殊な環境じゃないと育たないらしいわよ。詳しいことは私も分からないけど」


 薬草農家か。第二拠点で上薬草を栽培するのもいいかも知れない。なんと言っても一本金貨五枚、日本円で五十万円の代物である。俺の魔法があれば育てるのも楽勝だろう。


 その後ジェリカの仕事が終わるのを待って夕食を共にしてから、彼女の家を訪れてたっぷりと楽しんだのだった。

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