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第二十九話 騎士二人が

「ふははははっ! うわーはっはっはっはっ!」


 そこは王都から少し離れたところにある軍の演習場だ。そして高笑いの主は何を隠そうこの国の王様である。彼はマイクロバス魔動車の操縦(かん)を握り、およそ千ヘクタール(十平方キロメートル)に及ぶ広大な演習場を時速百キロ以上でかっ飛ばしていた。


 ところでどうして俺が王様の駆る魔動車に乗っているのかと言うと、単に操作方法を教えるために呼ばれたからだ。元は騎士など近習の何人かに教える予定だったのを、王様自らが教えろと言って聞かなかったのである。


 自動車教習所のように決められた道を辿ったり、バックや前後に馬車を並べて縦列駐車の練習も行った。ここまではよかったんだよ。騎士さんたちも王命だからと真剣に取り組んでくれていた。


 それが今はどうだ。車内には俺の他に十名ほどの騎士と兵士が同乗しているが、皆一様に顔が青ざめている。俺は当然日本で高速道路も走っていたし、新幹線や飛行機にも乗ったことがあるのでどうということはない。


 しかし彼らにとって乗り慣れたもので一番速いのは馬だ。馬はどんなに速くても時速五十キロ程度なわけで、競走馬として有名なサラブレッドでさえも最高時速は六十キロほどてある。なのに揺れもなくそのほぼ倍の速さで景色が流れるのだから、青くなるのも無理はない。


 もちろん魔法攻撃への耐久試験も行われたが、当然無傷だった。王宮魔導師によるかなり強烈な魔法攻撃だと聞かされている。そうして現在に至るというわけだ。


 数日前まできゃぴきゃぴしながらコレッタたちに教えていたのが、遠い昔のように感じられるよ。楽しかったな〜。


「ご満足頂けましたでしょうか」

「うむ! 外装だが塗装したり紋章を描いたりしても問題はないか?」


「はい。ただ塗装や紋章の部分は不壊にはなりませんのでご注意下さい。攻撃を受けたら剥げると思いますので」

「相分かった」


「それと予備の魔石を二組、二十個お持ちしました。魔石の魔力が切れたら必ず十個一組で交換するようにして下さい。魔力が空になった魔石への魔力注入もお忘れなく」

「十個一組でなければならない理由は?」


「魔力満タンの魔石と魔力が半分しか残っていない魔石を混合すると、魔力残量の少ない魔石に出力が合ってしまうためです」

「ふむ。道理か」


「それと先ほどのように高速を出せば出すほど魔力の消費が大きくなります。こちらもご留意下さい」

「承知した。ところでイチジョウ殿」

「なんでしょう?」


「これだけの物を献上させておきながら、騎士二人の派遣のみでは釣り合わん。しかもその二人の給金まで()()が出すという」

「十分です。私の大切な者たちの安全は何物にも替え難いですから」


「しかしな、それでは()の気が収まらんのだ。王家の沽券にも関わる。領地と叙爵が妥当な褒美だぞ」

「爵位を頂いても戦争などに協力は出来ませんし、領地を頂いても私には領民を統治する能力はございませんので」


「ならば娘を娶らんか? 三人おるが末のエリスはイチジョウ殿と同じ十七歳だ。父親の余がいうのもなんだが器量は申し分ないと思うぞ」


「王女様が平民に降嫁ですか? うちには奴隷も多くおりますので家人の気が休まりませんよ。大変ありがたいお話ではございますがお断りさせて頂きます」

「仕方がないな。国は出ないでくれよ」


「そのお言葉が何よりの褒美です。まあ旅行くらいは行くかも知れませんが、他国に移住するつもりは今のところございませんので」

「今のところ、か」


 おそらくはこれが本音ではないだろうか。奇抜な物を造っただけではなく、俺はドラゴンを従えているのだ。ポチがいれば国の一つや二つ、焦土にすることさえ叶ってしまう。敵になれば待っているのは絶望のみしかないはずだ。


 もちろん俺はこのシュロトヘイム王国がどこかの国と戦争になっても、相手国をポチを使って滅ぼすようなことはしない。そんなことを命じられれば、その時こそ俺はモナと彼女の家族、そして家人全員を連れてこの国を出ていくだろう。


 悪人や俺の大切なモナ、コレッタたちを脅かす者の命を奪うことに何ら抵抗はないが、戦争は国と国との争いである。たとえどちらに大義名分があったとしても、個人が介入すべき問題ではないのだ。


 俺はただ、周りにいる者たちと仲良く楽しく、平和に暮らすことが出来ればそれでいいのである。


 魔動車イベントを終えた数日後、約束の騎士二人がやってきた。


「改めまして、マシューです」

「レイダーと申します」

「お二人が来て下さったんですね」


「我々はレン・イチジョウ殿の秘密をいくつか存じておりますので、陛下も問題ないだろうと仰せになられました」

「なるほど。お住まいはどちらに?」


「市場の近くに家を借りました。私には妻しかおりませんし、レイダーは独り身ですので」


 マシューさんは三十一歳。ダークブラウンの髪をサムライヘア、後頭部にお団子を結んでいるがワイルドだ。切れ長の目に高い鼻と、全体的に彫りが深いのでイケメンの欧米人に見える。身長はレイダーさんより少し低いが、筋肉質でさすがは騎士といった感じ。


 レイダーさんはフェードカット(サイドとバックを短く刈り上げ、トップにいくにつれて長くなる髪型)の金髪で、輪郭がシャープに引き締まっている。鼻筋が通っていて少々つり眉だが目つきが優しげなので厳ついイメージはない。


 体つきはマシューさんと同様に騎士といった感じでガッシリとしていて背も高い。この外見なら女性にモテないわけはないと思うが、マシューさん曰く理想が高過ぎるのだとか。


「ところで私の身分は平民ですが、どうして騎士爵のお二人は敬語を使われるのですか?」


「いやいや、ドラゴンを従魔にされているイチジョウ殿ですよ。年齢や身分など関係なく心から尊敬してますので」

「私も同じです。女であったなら間違いなく惚れていたでしょう」


 レイダーさんが男性でよかった。


「コレッタたちは毎日買い物に出るわけではありませんので、普段は鍛錬するなり休むなりして頂いて構いません」

「立哨や警らは?」


「不要です。まあ、さすがに怪しい者が侵入を試みるようなことがあれば知らせて頂けると助かりますが」

「でしたら鍛錬しながら警戒しておきましょう」

「ありがとうございます」


 実はコレッタたちを護衛してくれる騎士二人のために、敷地内に風呂とキッチンを備えた1DKの家を作ってあったのだ。何なら住み込んでもらっても構わないと思っていた。もちろんエアコン木箱も設置済みである。


 しかしその内の一人、マシューさんが妻帯者だとは思わなかった。可能性として考えるべきだったのにうっかりしていたよ。結局その家は二人の休憩所として使ってもらうことになった。


 それにしても頼もしい二人が来てくれたものだ。

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