第二十三話 見つかった
「あの、それでレン様?」
「うん?」
「レン様にはい、今、好きな人っているんですか?」
「好きな人かぁ……」
時々肌を重ねるカタリーナ、コレッタを始めとする四人のことも大好きだし、彼女たちも求めれば拒まないだろうからいずれはそういう関係になるだろう。五人、多いな。
しかしこのシュロトヘイムは一夫多妻制が認められている国だ。正直に言って引かれるならそれまで、受け入れてもらえるならモナも好きな人の仲間入りする可能性がある。可愛いしエロいし、俺の好みにドストライクだからだ。ウブっぽそうなところもポイントが高い。
「五人かな」
「ご、五人ですか!?」
「まあ、お互い結婚は考えてないけど男女の仲なのは一人だけで、四人は口説いてもいないけどね」
「あ、あの……」
「ちょっと待って。勘違いかも知れないけど、モナの言いたいことが何となく分かるから先に教えてくれ」
「え? あ、はい」
「モナは貴族令嬢だったりする?」
「いえ、ごく普通の平民の娘です」
「婚約者は?」
「いません。婚約者どころかこれまで男性とお付き合いしたことすらありません」
「そんなに可愛いのに?」
「はい……えっ!? か、可愛い……?」
「すごく可愛いよ」
「あ、ありがとうございます……」
さらに真っ赤になってうつむいてしまった。本当に男性に対しての免疫とかないんだろうな。
「それなのに冒険者ギルドの男性って荒くれ者もいるでしょ。怖くないの?」
「最初は怖くて夜も寝つけないほどでしたけど、今は慣れました」
「そうか」
「それにレン様以外は男性とは見てませんから」
「男性と見てないとは?」
「冒険者様です」
「冒険者様?」
「はい、冒険者様です。冒険者様には女性もいらっしゃいますから、男女の区別なく冒険者様なんです」
「なるほど、そういう意味か」
「はい!」
「話を戻すけどモナ、俺はかなりエッチだぞ」
「し……知ってます……」
「へ?」
「手紙に書いてありましたから……」
「そ、そう」
ジェリカは一体何を書いたんだ!?
「モナ、俺の女になってほしい」
「はい! レン様の女になります!」
「そんな即答でいいのか? 他に五人も好きな相手がいるんだぞ」
「それを堂々と言われる甲斐性がおありということですから」
「そんなもんか」
「はい。それよりレン様こそよろしいのですか?」
「なにが?」
「さっきも言いました通り、私は男性とお付き合いしたことがないのですよ?」
「だから?」
「えっとレン様の女として、どうすればレン様が喜んで下さるかよく分かっていないということです」
「なんだ、そんなことか」
「そ、そんなことかじゃありません」
「心配しなくても、俺といてモナが嬉しいと思ってくれれば俺も嬉しいから」
「本当ですか?」
「ああ」
「私はこうしてレン様と二人だけで話していることが嬉しいし楽しいんですけど、そんなことでもいいんですか?」
「うん。そう思ってくれてることが俺も嬉しい」
「あの、レン様の女になれて飛び上がりたいほど嬉しいんですけど、それもですか?」
「うん。俺もさっきから心の中でガッツポーズしっぱなしだよ」
「レン様……」
俺たちはソファから立ち上がり、ごくごく自然な流れで互いに抱き合って唇を重ねた。ふわりと香るのは香水ではなく石鹸の香りだ。柔らかな感触と相まって一気に愛おしさがこみ上げてくる。今すぐ押し倒したい衝動に駆られたがここはギルドの応接室。さすがにそういうわけにはいかないだろう。
「あの、レン様?」
「うん?」
「もっとお会いしたいです」
「ああ、定期的にギルドに来るのは月に一回かそこらだったもんな。でももうモナは俺の女なんだから、仕事が終わった後でも休みの日でも好きな時に会おう。俺もモナに会いたいし」
「レン様が私に会いたい……嬉しい……」
涙を浮かべる彼女の頭を胸に抱きよせる。
「さ、俺はそろそろ帰るよ」
「えっ!? 帰っちゃうんですか?」
「モナ、昼飯食う時間がなくなるぞ」
「今は胸がいっぱいでお昼なんか食べられません」
「そ、そうか」
「レン様、今日、仕事が終わったら会えますか?」
「構わないけど……」
「凄いの、私もされたいです」
ジェリカ、本当に何を書いた!?
「お、俺は構わないけど、いいのか?」
「はい。一度家に戻って両親にはレン様のところに泊めて頂くと伝えてきますから」
ちょっと待てぇい!
「モナ、正直なのはいいことだが今日のところは帰すから少し遅くなるかも、にしときなさい。あとレン様のところじゃなく友達と遊んでくる、にしなさい」
「どうしてですか? 泊めては頂けないのですか?」
「ご両親が心配するでしょ」
「そうなんですか?」
「と、とりあえず言った通りにして。お願い」
「分かりました……」
ウブなのか大胆なのかさっぱり分からん。一応この世界では俺は彼女より一つ年下なんだけどな。
モナは可愛いしエロいから抱けるならすぐにでも抱きたいところなのは事実だが、実は彼女とは初々しい恋人同士の関係を楽しみたいとも思っていたのだ。
キスこそしてしまったが休日に手をつないでデートして、別れ際にキスしてまた今度というのをやってみたかったのである。そんなことを何度か繰り返してからいよいよ、という青春真っ只中を彼女に経験してほしかったのだ。なにせ男性と付き合ったことすらないのだから。ま、なるようになるだろう。
モナの仕事が終わるまで時間が出来たので、第一拠点の屋敷に帰ってギルバートに離ればなれになった元家族の捜索に進展があったか聞いてみる。
「主様! ちょうど今念話を送らせて頂こうと思っていたところでした!」
「どうかしたのか?」
「妻と息子二人が見つかりました!」
「おお! それで会ってもらえるのか!?」
「はい! 三人ともまた私と暮らせるなら暮らしたいと言ってくれているそうです!」
あの凛々しいギルバートが隠しもせずに涙を流している。なんとめでたいことか!
「ただ三人とも王都にはおらず、馬車で一日かかる距離にある宿場町フラニティにいると……」
「コレッタたちとキパラ大森林に向かう途中に寄った町か」
「もちろん歩いて行きます! ただお休みが……」
「何を言ってる! 辻馬車を雇ってすぐに迎えに行ってこい! 金の心配なんてするな!」
俺はギルバートに金貨十枚を手渡した。
「こ、こんなに……」
「足りなかったら払ってやるから。自分は凄い主に仕えているんだと家族に自慢してやれ!」
「わ、分かりました! このご恩は必ず!」
「ゆっくりしてきていいぞ。俺も今夜から女を連れ込むからギルバートはいない方が都合がいいんだ」
「主様……感謝致します!」
おそらくギルバートは方便だと思っているのだろうが、モナを連れ込むのは事実だしな。まあ、あまり遅くならないうちに帰すつもりではあるけど。
ギルバートを送り出してからしばらくして、冒険者ギルドの前で待ち合わせているモナを迎えに行く時間となった。




