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第二十一話 冬の寒さは

 プールには川から引いた水を飲用が可能なまでに濾過、消毒して張った。水温は二十五度前後に保つ。ただし泳げないコレッタたちのために、水深は五十センチほどとした。子供用のプールみたいなものだ。慣れてきたら深さ一メートルくらいにしてもいいだろう。


 プールサイドにはデッキチェア、足を伸ばすことが出来る折り畳み式の椅子を並べる。パラソルがついた丸テーブルの他にビーチボールなども忘れない。


 しばらくするとコレッタたち四人が手で前を隠して恥ずかしそうに出てきた。全員色違いのビキニにパレオを巻いている。可愛すぎるだろ、これ。


「だ、旦那様……」

「「「お館様……」」」

「「「「どうですか?」」」」


「四人ともバッチリ! 似合ってて可愛いよ!」

「「「「やったー!」」」」


 隠す手をどけて嬉しそうに声を上げてからプールに駆け出そうとしたので、俺は慌てて彼女たちを呼び止めた。


「ちょった待ったぁ! 水に入る前にまずは準備運動をします」

「旦那様、どうして敬語なのですか?」


「はいコレッタさん。プールの時は旦那様ではなく教官と呼ぶように」

「きょうかん?」


「深く考えない。皆さんもいいですね?」

「「「「はーい!」」」」


 おいっちにぃさんしっという昭和のような掛け声で準備運動を済ませ、いよいよ楽しい楽しい水遊びの始まりだ。どうでもいいが俺の水着は黒のサーフパンツで、左太股の付け根辺りに黄色い星のマークをワンポイントで入れてある。ちゃんとカッコいいって言ってもらえたぞ。


「旦那様」

「コレッタさん、旦那様ではなく」

「あ、そうでした。えっと教官」

「はい、どうしました?」


「お風呂より浅い気がするのですが……」

「それはコレッタさんたちが溺れないようにするためです。まずは水に慣れるところから始めましょう」


「分かりました!」

「ひゃっ! 冷たーい!」

「気持ちいいー!」

「えい!」

「きゃっ! やったなー!」


 うんうん、これだよこれ。女の子たちのきゃっきゃうふふってサイコー、って違ーう! 女の子だけで遊ばないで俺も混ぜてよ。


 ということで俺も混ざり、一時間ほど水のかけ合いやビーチボール遊びに興じた。


「はーい、皆さん一度水から上がって下さーい!」

「はい、教官!」

「どうしました、ルラさん?」

「一度水から上がるのは何故ですか?」


「いい質問です。今日はこのくらいの浅さですが、水の中というのは体力を消耗するんです。だから休憩が必要なんですよ」


「ではプールは終わりではないんですね?」

「もちろんです。まだまだ遊びますよ」

「「「「わーい!」」」」


 プールサイドに上がると料理人のダーグと下働きのエメリ、リネアが冷たい飲み物を持ってきてくれた。デッキチェアに寝そべってみたが日差しが眩しい。これは盲点だったので、次は(ひさし)を用意しておこう。


 それから再び軽く遊んで昼食。午後も休憩を挟んで二時間ほどプールを楽しんでから、その日の水遊びはお開きとなった。


「楽しかったか?」

「「「「はい!」」」」


 元気に返事をしてくれたが、思いっきり遊んでいたせいか四人とも眠そうだ。俺も眠い。


「エルンスト、悪いが俺とコレッタたちは夕食まで眠らせてもらおうと思う」

「かしこまりました」


「えっ! そんな!」

「お館様、朝から遊んだのに申し訳ないです」


「いいんだよ。さっきも言ったけど水の中は体力を消耗するからな。そんな眠そうな顔で仕事して怪我するよりはずっといい」


「でも……」

「命令だ」

「「「「はい……」」」」


 そんなこともあり、プール遊びは基本的に彼女たちの休みの日に限ると決まった。俺が決めたのではなく四人が自主的に決めたのである。もちろんその時は俺も混ぜてもらうことにした。



◆◇◆◇



 数日後、何度目かになるエアコン木箱の納品のために商業ギルドを訪れると、商品開発部門長のシグブリットが俺の許に駆け寄ってきた。現在は魔石の確保が難しい大型の物は納品を控えており、小型の方を量産している最中である。イートンクラスの魔石は生活ギルドでの小売価格の半分で商業ギルドが卸してくれていた。


「イチジョウ様、お待ちしておりました」

「あれ? 何か約束してたっけ?」


「いえ。少々お話ししたいことがございまして。お時間よろしいでしょうか?」

「構わんよ」

「ではこちらへ」


 通されたのは応接室である。


「それで話とは?」

「はい。王都で辻馬車を取りまとめている辻馬車扶助会より、傘下にある辻馬車にエアコン木箱を取り付けたいとの申し出がありました」


 この世界の辻馬車は地球のと少し違い、まさにタクシーのような役割を担っている。ただし料金は乗車時間により加算され距離は関係ない。


「ん? 別に構わないんじゃないか?」

「エアコン木箱を装備した辻馬車はおそらく利用頻度が高まるため、扶助会の利益が増えると思われるのですが、そのような商用利用をしても構わないと?」


「買った客がどのように利用しようと自由だよ。グライムスの館もある意味商用利用みたいなものだろ」

「なるほど、確かに」


「ただし商業ギルドが値引きするのは構わないが、俺の方はどれだけの大量購入だろうと卸値を下げるつもりはないからな」

「ギルドも値引きは考えておりません」


 いくら辻馬車にエアコン木箱を積んでも、アドバンテージを得られる期間はそれほど長くはないだろう。とは言え用もないのに涼みたい一心で辻馬車を利用する者も出てくるかも知れない。一時的でもそれなりに儲かるのではないだろうか。


 いいところに目を付けたと思う。俺も馬車を買ったらエアコン木箱と暖房木箱は搭載することにしよう。そう考えると馬車搭載用に暖房木箱の需要も見込めるのではないだろうか。


 こちらの世界ではまだ冬は経験してないから、どのくらい寒いのかは分からない。しかし夏の暑さと湿気から推測すると、関東より関西の気候に近いと考えられる。気になったので帰宅してからコレッタに聞いてみた。


「コレッタ、ちょっといいか?」

「はい、なんでしょう?」

「王都の冬って寒いのか?」


「寒いですよ。膝くらいまで雪が積もることもありますし」

「そんなにか?」

「はい」


 惑星ジースの公転軌道が地球よりも遠地点と近地点の差が大きいのかも知れない。プールは冬場はアイススケートが楽しめそうだ。毛糸の帽子にミトン(親指とその他の四本の指がまとまるアレ)を着けて、モコモコのセーターを着たコレッタたちはさぞ可愛いだろう。


 いや、それより暖房木箱だ。どのくらいの需要が見込めるかは定かではないが、少なくとも馬車には必要なはずである。毎年凍死者を出すような貧しい村などがあれば無償で提供してもいい。


 冬が来る前にある程度は作り置きしておこう。

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