第十一話 メイドは
ギルバートとエルンストの購入を決めた。二番目の男性は言うまでもなくパスだ。
執事が決まったとなると次は料理人を二人か。もしくは料理人と下働き一人ずつでもいい。そこでカタリーナが連れてきたのは、ダーグという三十六歳の男性だった。
元子爵家の料理人で、偏食の子爵に対し栄養のバランスを説いて解雇されたそうだ。その際、食材の仕入れで横領していたとの冤罪を着せられ奴隷に落とされたという。横領が本当に冤罪だったのかどうかは分からないが、少なくとも鑑定眼でステータスを見る限り犯罪歴はないから大丈夫だろう。
髪型は茶髪のハイフェード。顎に無精髭を生やしていて、目つきの悪いどちらかというとイケオジタイプだ。
「俺に買われるとして、何か希望はあるかな?」
「でしたら一緒に売られた弟子を二人、買って頂きたい」
「二人? カタリーナ、その人たちは?」
「呼びましょう」
間もなくやってきた二人は少女だった。ただ――
「ドワーフ!?」
「エメリとリネアです。ダーグと同じ子爵家で雇われていたのですが、彼の冤罪を晴らそうとして同じ罪を着せられ売られてきました」
「なるほど」
三人は犯罪奴隷になるのではないかと尋ねたら、冤罪が濃厚だったためカタリーナが買い取ったそうだ。鑑定眼によるとエメリの実年齢は八十二歳でリネアは七十六歳。確かに二人ともスキルに料理があり、ドワーフによくある鍛冶スキルも持っている。そして犯罪歴はない。
「二人もダーグと一緒の方がいいのかな?」
「「はい」」
「カタリーナ、三人とも買わせてもらうよ」
「いいの? ドワーフは長寿で鍛冶スキルがあるから高いわよ」
「大丈夫。それに求めているのは鍛冶スキルよりも料理人だからね。その料理人のダーグが信頼しているのなら一緒に来てもらった方がいいし」
「分かったわ。三人とも、レンさんは貴方たちが思うより優しい方よ。コレッタは知ってるわね? あの子もレンさんに買われたの」
「「「えっ!?」」」
二人のドワーフに加えてダーグまで驚いて声を上げていた。
「コレッタは……コレッタは元気なのですか!?」
「ああ。先日は弁当を作ってもらってピクニックに行ってきたばかりだ」
「ぴくにっく?」
「遠出の散歩みたいなものかな。楽しそうにしてくれていたよ」
「ぜひ! ぜひ俺たち……私たちを買って下さい!」
「「お願いします!」」
料理人はこれで決まった。あとはメイドだが、ここまでくると出来ればバトルメイドが欲しい。
「ばとるメイド?」
ダーグたち三人を下がらせてから、カタリーナが首を傾げる。
「執事と同じように戦闘が出来る女の子が二人か三人欲しい」
「戦闘職のBランク冒険者程度の?」
「いや、そこまで強くなくていいよ。ただ俺がいない時に執事と共にコレッタや他の使用人を護れる程度の強さはあった方がいいから、出来ればCランク程度の実力は欲しいかな」
「夜伽は主人次第、という子たちならいるわよ。三つ子の姉妹だけど」
「三つ子!? 面白そうだな。夜伽は別にしなくていいけど、Cランクの実力があるなら冒険者ギルドに登録してパーティーを組みたいね」
ギルドの試験をパスすればの話だが、Cランクとして認められればキパラ大森林に行く基準も満たせるはずだ。上薬草以外の魔物や素材も堂々と討伐したり採取したりしてギルドへの納品が可能になる。カタリーナが不思議そうな顔をしていたので、冒険者ギルドの決まりについて説明すると納得していた。
「じゃ、連れてくるわね」
そうして俺の前にやってきたのは、顔の見分けがほとんどつかない三つ子の少女たちだった。コレッタと同じ十五歳で、名前はルラ、ルリ、ルルだ。
ほんの少し紫がかった肩までの髪にアクアマリンのように透き通った存在感のある大きな瞳。少々あどけなさはあるが、唇は薄く鼻筋が通った卵形の輪郭は、コレッタ同様アニメでメインヒロインを張れる愛らしさである。
全体的に華奢だが胸が……おっと、三姉妹を見分けるポイントが見つかった。一番上のルラが直下型。真ん中のルリがわずかに膨らみが分かる程度。末妹のルルはCカップといったところである。もっとも俺は絶対に間違えないように鑑定眼で見分けるつもりだ。
「三人は俺に買われるとして、何か希望はある?」
「希望?」
「希望を聞いて頂けるのですか!?」
「嘘みたい……」
彼女たちはここで俺が会った中で、一番奴隷らしい反応を見せた。もっとも俺のところに来るなら必要のない考え方だ。
「何でも言ってごらん。叶えられることなら叶えてあげるから」
「あ、あの……」
「ルラだね。いいよ、言って」
「で、出来ればその、私たち三人を一緒に買って頂きたいです!」
「何でもします!」
「お願いします!」
「あれルリ、何でもするって、夜伽は主人次第って聞いたけどいいの?」
「さ、三人一緒に買って頂けるなら……私が我慢しますからルラとルルはお許し下さい!」
「そんな、ルリだけに嫌な思いはさせられません! 私も我慢します!」
「わ、私も……」
「いや、我慢って……悪かった。ちょっとイジワルだったね。夜伽は必要ないよ」
我慢させてまで相手してもらうのは気が引けるし、それだと俺が鬼畜の主になってしまうじゃないか。あと嫌な思いって地味に傷ついた。まあ相手は十五歳の少女だ。嫌なものは嫌なのだろう。
「バカね、貴女たち。後悔するわよ」
カタリーナさん、何を言っているのかな?
それはそれとして、冒険者ギルドへの登録とパーティーを組んで冒険者活動をすることには同意してもらえたので、三人の購入も決まった。彼女たちもコレッタに再会出来ると知って大喜びしていたのは言うまでもないだろう。
なお、購入した奴隷たちの登録完了までの間、エルンストと念話を交わし彼について色々なことを教えてもらった。それによると次の通りだ。
・エルンストは里長だった。
・エルフの全てが念話を使えるわけではない。
・隷属の契約も本当は効いていなかったが、カタリーナの人柄と自身の安全のためにグライムスにいた。
・自分より弱い者に仕える気はなかった。
彼は初見でドラゴンを余裕で上回る俺のステータスを見て驚愕したそうだ。ステータスは隠蔽していたはずだが、それを看破する鑑定眼の上位スキルがあるらしい。
ステータスについては具体的にいうと、この世界の一般的な成人男性のHPは1000前後だが、ドラゴンはその十億倍以上と言われている。俺のステータスはさらにその百倍なので、即死魔法も効かないのではないかと言っていた。事実見習い天使のラフィエルからは即死無効のスキルをもらってるしな。
念話はエルンストほどのレベルになると、この星の裏側まで届くとのこと。要するに距離の制限はないという意味だ。ただし同じエルフでもそこまで長距離の念話を飛ばせる者はおらず、距離によってはエルンストの声が聞こえるだけというケースもあるそうだ。俺はどのくらい飛ばせるのだろう。
とにかくこれで一通り必要な奴隷の購入は一段落したと言える。となると残りは上薬草などの栽培を任せられる庭師だな。俺のイメージとしては子供が独立して孫がいるような老夫婦が理想だ。たまにその孫が会いに来るなどのイベントがあるとなおいい。
奴隷である必要はないから生活ギルドで求人してみよう。ああ、庭師には秘密は明かせないから、屋敷とは別に住居を用意しておくか。老夫婦なら平屋建てがいいな。
決まってないのに理想で妄想が膨らむのはよくある話だ。




