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フカさんと識ちゃんのなぜ鳥は飛ぶのか問答

「なぜ鳥は飛ぶのでしょう?」

フカが識の律者に問いかける。夕時、太陽は煮えたぎるように赤く、雲は紅葉色に染まる。さきほどまでよく見えていたむこう側にある山の緑色はすっかりと黒くなり、太陽及び山の稜線の明るさとの対比が著しい。まぶしくて目がかすむほどだ。手前側の木々に目をやれば鮮やかに赤みがかった色が目立つ。

 山の中腹から二人は向こうへ飛んでいく鳥を眺めていた。鳥は黒色に消えていった。

 しばらくして、識の律者は喋りかける。

「いきなりどうしたんです?」

「ケビンがそんな問いかけをしていたそうです」

識の律者は夕焼けに照らされてさらに赤みを帯びたフカの顔から、目の前の風景に目を移し、ため息をつく。

「まったく朴念仁ったら、この壮観を見て言うことがそれですか?」

「すみません。ですが、あの鳥を見てふと考えてしまったんです」

「そうですか。まあ、どうでもいいですね、そんなこと。私も飛べますが、そんなことを考えたことはありませんよ。というか、あなたの口ぶりからしてケビンに直接そう言われたわけじゃなさそうだね」

「ええ、ナターシャさんから聞きました」

「えーと、どなたです?」

識の律者はもう一度フカを見ると、フカは識の律者のほうへ体を向ける。

「キオラハウスのナターシャ・キオラさんです」

「ああ、あの雷電芽衣が懇意にしている――」

「はい、そうです」

「はは、懐かしいね。キオラハウスといえばゼーレたちは今どうしているんでしょうか?」

「久しぶりに会いに行きますか。この前言っていた授業をしてみるというのもいいかもしれません」

識の律者が顔をしかめ立ち上がり、右こぶしを持ち上げて喋る。

「ふん、なんたってこの私が認めた人ですからね、ちょっと気になっただけです」

「電話をかけてみますか?」

「いいです。あーもうとにかくこんな話は終わりにして晩御飯にしましょう。鳥の話をしたら鶏肉が食べたくなりました」

「確かにそろそろ準備しないといけませんね。鳥を今から入れるとなると、少し煮込む時間が足りなくなるかかもしれませんが」

「まあ、そうなってもいいですよ。ちび朴念仁もそろそろ騒ぎ始めるだろうし、さっさと取り掛かりましょう」








 赤い汚れがこべりついた鍋のすぐ横に、伏犠が精衛鳥を寝台代わりにして眠っている。すっかり日は落ち、明かりは焚火のものとテント周りにあるランタンが発するものだけになった。焚火のすぐ近くにフカは座っている。識の律者はテントから出て、フカの様子をうかがいに行った。

「また何か考えているんですか?」

物憂げな表情を赤く照らしたフカに識の律者が声をかける。覗き込んでくる識の律者に対して、フカは焚火をじっと見つめながら返す。

「はい、先ほどのなぜ鳥は飛ぶのかということについて」

識の律者はあきれた表情をして、フカの隣に座る。フカはお茶を識の律者に渡す。いつぞやから二人で飲むことが習慣になった桂花茶だ。

「ありがとうございます。すっかり、この味にも慣れましたね。それにしても、まーだそんなこと考えていたんですね。そんなの餌を捕まえるためですよ」

「それもそうですが、そういうことじゃなくて――」

表情が変わらず悩み深そうにしているフカを見て識の律者はやれやれと首を振る。

「そんなことはわかっています。だから、どうでもいいことなんですよ。考えたってどうしようもないでしょう?」

「それはそうですが」

「はあーそうですがそうですがって、じゃあ、あなたはどう思っているの?」

「分かりません。考えています」

「へー、なら、ケビンならどう答えると思いますか?」

「私がよく知っているケビンなら飛ばないといけないからと答えると思います」

「昔の朴念仁も迷わずそう答えただろうね、でも今はそれじゃダメなんでしょ?」

「はい、過去の私ならそう答えていたでしょう。ですが、どうも呑み込めません。識の律者はどう考えますか?」

「さっきも答えましたよね」

フカは識の律者をじっと見つめる。真剣に答えてほしいとでも言うような真摯な視線に耐えかねて、目をつむって識の律者が答える。

「飛びたいから飛ぶんだよ!」

「識ちゃんらしくていいですね」

自信満々に答えて見せる識の律者にフカは声を明るくして笑みをこぼす。目を開けて、その表情を見た識の律者は語気を強めて言う。

「馬鹿にしているんですか? 冷淡に飛べない鳥は鳥じゃないとでも言ってみます? あ、そういえばピィちゃん達、最近よく食べているようだど大丈夫? 特に黒ピィちゃん」

識の律者が企み顔をむけると、精衛鳥はピィピィ鳴きながら飛んで行った。伏犠は落下感を覚え、飛び起き、ひとしきり驚いた後、お先に寝るぞよと一言声をかけてテントへ戻っていった。そんな様子に意を介さず、フカは怒る識の律者を申し訳なさそうにたしなめる。

「いえ、そうじゃありません、本当にいいと思っていますよ」

「ふん、そこで花提灯を作って寝ていた朴念仁二号なら、さっき私が言ったみたいに……簡単ぞよ、そんなの餌を捕まえるためぞよ。なーんて言うと思いますよ」

「そうですね。でも、私は、鳥がなぜ飛ぶのか、そんなことを考えたことなんてありませんでした。私の権能のこともあります。今まで考えたことがなかったのは恥ずかしいです。そして、私なりの答えを見つけたい」

「今は考える余裕ができたんでしょ? いいことじゃないですか」

「はい」

「もうそんな顔をするのはやめて、寝たらどうですか? もういい時間ですよ」

「ええ、ですが、もう少し考えていたいので、識の律者は先に寝ていてもいいですよ」

またまた真剣な表情をしているフカを見て、識の律者もまじめな面持ちで口を開く。

「だから、朴念仁って言われるんです。ちゃんとこっちを向いて、私の目を見て! 旅する理由が一つ増えたじゃないですか。そんなに急いで答えを出さなくてもいいでしょ? 旅する理由が一つ増えたじゃないですか。まだまだ私との旅は長いんですよ。そんな辛気臭い顔をしてついて来られる私の身にもなってください。ほら、前にあなたが言ったじゃないですか。今したいことは、私と一緒に旅を楽しむことだって」

「確かに……識の律者の言う通りですね」

「やっとそれらしくなった。あなたにわざわざ言うまでもありませんが、何も鳥に例えなくても、あなたがどう生きたいかっていうことが問題なんですからね。この偉大なる識の律者の言葉をしっかり受け止めてください」

「はい、識ちゃん、ありがとうございます」

「ちょっと! はあー、まあいいや。朴念仁は、本当に世話が焼けますね」

「すみません。あ、そういえば前に言ったというところで思い出したのですが、識ちゃんはいまだに夜――」

識の律者がフカの言葉をさえぎって、立ち上がる。

「もう寝ましょう、私もたまには早く寝たいと思います。ほら、行きますよ」

そう言って、フカに手を伸ばす。

「ええ、それでは」

フカは識の律者の手を握る。識の律者はフカを先導し歩いていく。

「あ、きれいな三日月ですよ、鳥のことを考えるなら、地面なんて向いてないで、こういう素晴らしい風景を見ながら考えるべきです……うん、やっぱり夜更かししませんか? あなたもたまには夜更かしを経験してみるものです」

「ふふ、ええ、そうですね。あ、団子が私のカバンにあったはずです。満月ではありませんが、夜食にいいと思います。ついでに茶葉パックも持っていきましょうか。伏犠は……寝かせておいてあげましょう」

「あなたも風流というのがわかってきましたね! そうしましょう」


 二人は肩を寄せ合い、月見をする。比較的平和な日常を送り、規則正しい生活を送っているフカは眠そうにして、目をこする。そして、識の律者の肩に首を預けた。識の律者は何か言おうとしたが、黙ってそれを受け入れ、微笑んだ。起こさないように空を見上げ、お茶を煽る。

 ご高覧ありがとうございます。



 ここからはあとがきでございます。読後感を台無しにしたくない方はこれ以降読むことを推奨しておりません。

 なぜ鳥は飛ぶのか、3rd以前に出た某rpgでの重要な問いとして登場して、これは作品的に(あと、なろうの二次創作のガイドライン的にも)大丈夫なのかなと思っておりました。スタレでもがっつり似た内容を取り扱ったときに、安堵したという自分がいます(笑)

 某rpg以前でもこういうなぜ鳥は飛ぶのかという問答があったのでしょうか? 誰か知っていたらご教示ください。あと、某rpgの人物とケビン、二人とも白い髪の青い目で、立場立ち位置といい、この問答といい、計画といい、が似ていて、片方を思い浮かべるとどうしてももう片方を連想してしまいます(笑)



 3rdで一番好きなキャラは識ちゃんなのですが、それにもかかわらず識ちゃんの丁寧語(敬語)と崩した口調の扱いが十分理解できているかかなり不安です。

 色々な会話を見て、フカ周りではあまり丁寧語を崩さないで、他の人と絡むときは案外崩しているなと思いつつ調べていたら、1.5部で黒ゼーレが「フカと伏犠のそばでは大人しくて先生の隣にいる優等生らしくなる」(要約)といったことを言っていたので、フカの前では大体丁寧語でいいのかなと。

 僕は敬語を崩した識ちゃんのセリフが好きなのですが、自分の技量では3人以上が登場する場面の描写や識ちゃんとほかのキャラの絡みを恋愛的な匂わせをしないで描く自信がないです。識ちゃんとフカさんの交流を描いたものが人気で僕も大好きなのですが、僕は識ちゃんと黒ゼーレもかなり熱いと思っております。

 

何かフカさんなりの答えを考えてみて出そうと思いましたが、旅をしているんだし、そもそもちょっとしたやり取りや短い時間で出すものじゃないなと思い濁してほのぼのさせました。最終的には識ちゃんと同じ意見になるのかな。識ちゃんは気持ちいいくらいスパッとしかもちゃんと思慮を働かせたうえで「飛びたいから飛ぶんだ」というようなことを言ってくれそう。

この問答の文自体、各作品、場面によってある単語の挿入とか並び替えがあったりするのですが、どれともつかなさそうが「なぜ鳥は飛ぶのか」にしました。


 

 以上でございます。もし、こんなとりとめのない乱文をここまで読んでいただいたのであればとても嬉しいです。ありがとうございました。

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