なろうに出会いを求めるのは間違ってるのだろうか
こちらは家紋 武範様主宰「約束企画」参加作品です。
★この作品はフィクションです。実在の人物・団体・なろうには、いっさい関係ありません。
『みんなでオフ会しませんか?』
そんなメッセージが届いたのは「小説家になろうぜ」に登録して3年経ったある日のことだった。
送ってきたのはお気に入りユーザーの「みう」ちゃんだ。
明るい小説を書く人で、僕の大好きなユーザーだった。
小説家になろうぜ、略して「なろう」は日本最大級のWEB小説投稿サイトだ。
老若男女誰でも自由に登録できて、自由に小説を投稿することが出来る。
ユーザー同士の交流も活発で、小説以外のことでも気軽に意見交換できる場所でもある。
みうちゃんはなろうにおいて大人気の作家さんだった。
彼女(かどうかは定かではないが)の書く活動報告にはこれでもかというくらい多くの人がコメントを書き、みうちゃんはそれにひとつひとつ丁寧に返信していた。
僕ももちろんみうちゃんの大ファンだったから、彼女が書く活動報告には毎回欠かさずコメントを残していた。
そしてみうちゃんから返信が来るたびに小躍りしていたものだ。
そんなみうちゃんから『オフ会』の案内が来た時、目を疑った。
何かの間違いではないかと思った。
しかも送られたのは個別のメッセージ、つまりは僕個人に当てたものだった。
天地がひっくり返るほどの強烈な衝撃が僕を襲った。
憧れのみうちゃんに会える。
それだけで天にも昇る気持ちになった。
でも僕は不安だった。
みうちゃんがメッセージを送った相手は僕だけではなかったからだ。
文面の最後に「このメッセージはタケゴンさんと帝王さんとマジョリカさんにも送っています」という文言があった。
つまり、オフ会の案内は僕の他に3人に届いているということだ。
3人が3人とも参加するとは限らないが、それでもそんなに大勢の人たちと会うとなると腰が引けた。
タケゴンさんはファンタジー系をこよなく愛するファンタジー作家さんだ。
惹きこまれるような文章は、読んでいてハラハラドキドキしてしまう。
男勝りな活動報告から察するに、硬派な30代くらいの男性だと思われる。まあ、実際はどうかわからないけれど。
帝王さんはホラーやミステリー、歴史などをよく投稿しており、SFや文芸が好きな読者からは一目置かれている存在。
活動報告もどちらかというと真面目で固く、大人びた印象を持っている。
もしかしたら誘われた4人の中で最年長かもしれない。
マジョリカさんは恋愛メインで書かれている作家さんで、彼女(彼かもしれないが)の書く物語はほぼ100%ハッピーエンドを迎える。
安定した文章力に加え、恋愛の甘さや酸っぱさが随所に散りばめられており、読んでるだけで恋がしたくなる、そんな作家さんだった。
みうちゃん含め、全員が1万ポイント超えの作品を連発する作家さんたちで、正直、なんで僕がそのメンバーの中に選ばれたのかわからなかった。
僕の一番の作品だって100ポイントに満たないのだ。
肩身が狭いどころではない。
ほとんど息が続かないかもしれない。
それでも、僕は憧れのみうちゃんに会えるならと、すぐに「行きます」と返事をした。
そして、それからしばらくしてみうちゃんから「つよぴょん、ありがとー!」とメッセージが届いたのだった。
※
オフ会当日。
僕は自分にできる最大限のオシャレをして現場に向かった。
向かった先は高級住宅街の中にたたずむ一軒の洋風レストラン。
行ってみると、すでに予約が入ってるようで個室に案内された。
そしてまさかの僕が一番乗りだった。
なんだこれは、と思った。
これではまるで僕がものすごく気合い入れて来てると思われるじゃないか。(実際そうだけど)
でもいまさら後戻りもできないのでそのまま席に着くことにした。
大きなソファーが向かい合って2つ置いてある。
上座(奥の方)に座ろうか、下座(手前の方)に座ろうかで迷ったけれど、下座に座ったらあとから来るメンバー(誰が来るかわからないけど)が座りづらくなりそうなので、申し訳ないと思いつつも上座に座って待機した。
高そうなミネラルウォーターがちょこんと置かれ、それを飲んで待つこと数分。
やがて一人の女性がやってきた。
「どうもこんにちはー」
眩しいくらいの美人さんだった。
切れ長の瞳に整った眉。
ほっそりとした頬に小ぶりな唇。
黒髪を後ろで束ねたその女性は、僕を見るなり「えーと……」と言い淀んだ。
「は、初めまして。つよぴょんです」
「ああ! あなたがつよぴょんさん!? わあ、初めまして。タケゴンです!」
「………」
ん?
んん?
「タケゴン……さん?」
「はい、タケゴンです。『イブルファール戦記』書いてます」
ちょっと待て、と思った。
僕のプロファイルだと、タケゴンさんは30代の男性のはずだ。
それがまさかこんな20代くらいの美人さんが来るなんて。
「どうされました?」
「あ、い、いえ……。まさかタケゴンさんが女性だったなんて思わなくて……」
「私もつよぴょんさんが男の方だなんて知りませんでした」
うふふと笑うタケゴン女史。
眼中になかった、という意味ではないよな? と思いつつ、「男ですよ」と僕も笑った。
「『ドメスティック・ファイヤー』、いつも拝見してます」
「え、えええええ!? 読んでくれてるんですかーーーー!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
まさか、僕の100ポイントに満たない作品を読んでくれてたなんて……。
「ヒロインが主人公に対する照れ隠しで街を粉砕するところが最高ですね!」
ヤバい、嬉しい。
そして客観的に聞くとひどいヒロインだ。
「僕も『イブルファール戦記』大好きです。ギンの国が突然裏切ったシーンはもう鳥肌が立ちました」
本当はもっと見どころ満載の作品なんだけど、ひとつひとつ伝えるのもウザがられるかなと思い、一番驚いたシーンだけを伝えた。
するとタケゴンさんは「わあ、嬉しいですー!」と手を合わせて喜んだ。
「そのシーン、私もすごく気合い入れて書いたので思い入れあるんですよー!」
「そうなんですか」
「読んでくださって本当に嬉しいです!」
タケゴンさんは心から喜んでるようだった。
こうして見ると、1万ポイント超えの人気作家さんも一人の読者に大喜びする僕とそんなに変わらないんだなと思った。
その後もなろうに投稿されているおススメ作品を言い合い、「それ知ってるー!」とか「それ知らなかったから今度読んでみるー!」といった答えが返ってきた。
人気作家のタケゴンさんはとても親しみやすく、それだけで僕にとっては夢のような時間だった。
そんな中、今度は一人のゴスロリファッションをした女の子がやってきた。
目はバッチリと大きく、唇は血のように赤い。
ふっくらとした頬は柔らかそうで、前髪パッツンのロングストレートヘアーが妙に似合っている。
彼女はやって来るなり
「どうもこんにちわぁ」
と、ものすごく可愛らしい声で挨拶をしてきた。
声優さんか? と思えるような甘い声だった。
幼女アニメに登場する可愛いマスコットキャラにでも採用されそうなキュンとなる声だ。
「こ、こんにちは」
ドギマギしながら挨拶をかわす。
誰だろうと思いつつも、僕は確信していた。
「もしかしてマジョリカさんですか?」
恋愛小説のエキスパート、マジョリカさん。
おそらく彼女がそうに違いない。
見た目も可愛らしいし、恋愛小説を書いてそうな雰囲気が漂っている。
けれどもゴスロリ美少女は言った。
「うふふ、私マジョリカさんじゃないですよぉ」
「へ?」
「帝王ですぅ」
「………は?」
思わず僕はタケゴンさんと顔を見合わせてしまった。
「て、帝王さん……ですか?」
「はいー。『横溝正史郎サスペンス』シリーズとかぁ、『さすらい浪人・鬼平八郎』シリーズとかぁ、『血みどろ凶四郎』シリーズとか書いてますぅ」
いやいやいや。
いやいやいやいや。
ちょっと待って。
帝王さん?
僕のプロファイルだと大人びた雰囲気の年長者タイプだぞ?
活動報告もものすごく真面目で固い感じだぞ?
いや、目の前にいる帝王さんが真面目じゃないと言いたいわけじゃないけど、年長者どころか一番年下に見える。
「あなたが……、あの帝王さんなんですか……?」
タケゴンさんも驚きのあまり唖然としている。
「そうですけどぉ、どうかしましたかぁ?」
「い、いえ、ちょっと想像と違ってて驚いてしまって……」
当の本人は僕らがビックリしてることに気づいてない様子だった。
「それでお二人はぁ?」
言われてハッと我に返る。
そうだ、向こうも僕らのこと知らないんだった。
「あ、申し遅れました。僕はつよぴょんです。『ドメスティック・ファイヤー』書いてます」
「タケゴンです。『イブルファール戦記』書いてます」
お互いに名乗りあうと、帝王さんは「わあ!」と目を輝かせた。
「両作品とも読んでますぅ! 大好きな作品ですぅ!」
マジか。
タケゴンさんはともかく、僕の作品まで読んでくれてるのか。
なんだか泣きそうになってきた。
「『ドメスティック・ファイヤー』は、ヒロインが照れ隠しで街を粉砕するところが最高ですねぇ」
同じとこー!
タケゴンさんが言ってるところと同じとこー!
「『イブルファール戦記』はぁ、ギンの国が裏切ったシーンが衝撃的でしたぁ」
そして『イブルファール戦記』の衝撃ポイントも僕が言ったところだった。
僕はタケゴンさんと顔を合わせて「ふふ」と笑った。
「『さすらい浪人・鬼平八郎』も好きな作品です。あの義理人情にあつい鬼平八郎の、自分を曲げないところがカッコイイですね」
そう言うと、帝王さんはボンッと顔を赤くして「ひゃあー」と目を押さえた。
「ありがとうございますぅ。嬉しいですぅ」
か、可愛い。
普通に可愛い。
この人が本当に帝王さんなんだろうか。
なんとなく信じられなかった。
そんなこんなで3人で楽しく語り合ってると、今度はヤバい感じの男の人がやってきた。
赤い髪にどくろのネックレスをジャラジャラつけたロックンローラー風の人だ。
彼は僕らのいる個室を覗いて来るなり、
「おう、ここで合ってるか?」
と聞いてきた。
誰だろう? と思う以前に、絶対部屋間違えてるだろこの人、と思った。
「え、えーと……たぶん違うと思います」
タケゴンさんや帝王さんに危害が及ばないよう、先に僕の口から牽制してみる。
しかし赤い髪の男は「えー? でもここって言われたんだけどなあ」と辺りを伺っている。
ここって言われても、あと来てないのは主宰者のみうちゃんとマジョリカさんだけだ。
どんな人かはわからないけれど、こんな人ではない……と思う。
するとタケゴンさんが勇気を出して聞いてくれた。
「あのー、どちら様ですか?」
赤い髪の男は「ん?」とこちらを向いて言った。
「オレ? マジョリカ」
はい、キターーーー!!
帝王さんに続いて、とてもそうだとは思えない作家さんキターーーー!!
「マママ、マジョリカさんですか!?」
「ひゃあー! 大ファンですぅー!」
タケゴンさんも帝王さんも生マジョリカさんに黄色い声をあげた。
僕も正直、生マジョリカさんに会えて嬉しいのだけれど、まさかこんなコテコテのロックンローラー風の男とは思わなかった。
っていうか、さっき知らずに追い返そうとしちゃったよ。
「は、はじめまして。つよぴょんです」
怒られるかな? と思いつつ、僕の隣の席に案内する。
マジョリカさんは特に怒ることもなく「おう、よろしく」と言って席についた。
そんなマジョリカさんにタケゴンさんも帝王さんも目を輝かせながら憧れの人を前にしたような顔をしていた。
「はじめまして、タケゴンです!」
「はじめましてぇ、帝王ですぅ!」
「お、おう。よろしく」
マジョリカさんは女性が苦手なのか、恥ずかしそうに目線をそらしている。
意外と女性に対する免疫がないのかな。
恋愛小説のエキスパートなのに。
「『桜の木の下で10年後』、すっごくよかったです!」
「ヒロインとの切ないラブストーリー、胸が打たれましたぁ!」
マジョリカさんの代表作『桜の木の下で10年後』は僕も大好きな作品だ。
甘酸っぱい青春時代の高校生パートの前半と、ヒロインとの約束を果たそうと奮闘する社会人パートの後半が本当によくできていて、何度も何度も読み返してしまった。
実写映画化したら絶対面白いだろうなと思える話だった。
「お、おう、サンキュ」
「あとあと! 『君と私の青春白書』とか最高に胸がキュンとしました!」
「『花咲くスミレ』もぉ、大好きですぅ!」
「『あなたの笑顔に花束を』なんて、あまりに感動して泣いちゃいました!」
「『この恋、本物ですか?』はリピート作品ですぅ!」
女性陣たちが次々とマジョリカさんの好きな作品を言い合っていくものだから、マジョリカさんの顔もどんどん赤くなっていく。
そしてなぜか僕の身体に密着して顔を隠して言った。
「そ、そんな公衆の面前でタイトルを連呼しないでくれ……」
気持ちはわかる。
気持ちはわかるけど、グリグリと背中に顔を押し付けて来るのはやめてほしい。
シャイすぎるだろ、この人。
そんなマジョリカさんは僕の背後に顔を隠しながら
「タケゴンと帝王って、男かと思ってた……」
とボソボソつぶやいてた。
うん、それは僕も思った。
なんならマジョリカさんは女の人かと思ってた。
マジョリカさんは顔を隠しながら「ところで、つよぴょん」と問いかけてきた。
「つよぴょんって『ドメスティック・ファイヤー』書いてる、あのつよぴょんか?」
思わず「ふわあー!」と叫びそうになってしまった。
まさかマジョリカさんの口から『ドメスティック・ファイヤー』というタイトルが出て来るなんて……。
「そ、そうです! 『ドメスティック・ファイヤー』書いてるつよぴょんです!」
「その作品、好きだぜ」
ヤバい。
男の人だけど惚れそう。
ってか、いつまで僕の後ろに隠れてるんだろう。
「特にヒロインが照れ隠しで山吹っ飛ばすシーン、あれ最高だわ」
「あ、あはは……」
乾いた笑い声をあげる。
そういえばあのヒロイン、街だけでなく山も吹っ飛ばしてました。
感情コントロールがヘタな子でごめんなさい。
※
いよいよ最後はみうちゃんを残すのみとなった。
どんな人なんだろう、と期待に胸が膨らむ。
もしかしたらこれを機に恋に発展したりして、なんて淡い妄想を抱いてる自分がいた。
約束の時間が刻一刻と迫る中、僕は何気に個室の入り口に目を向けた。
するとそこには、顔を半分だけ出してこちらの様子を伺っている不審人物がいた。
「な、なんかいる……」
思わず声に出してつぶやくと、不審者は「ひい!」と悲鳴をあげて姿をあらわした。
50代くらいのふっくらした体型のおじさんだった。
おじさんは「あーあ、見つかっちゃったかー」と笑いながら僕らの前にやって来た。
「はじめまして、みうでーす♪」
そう言って目元でピースサインを作りながらウィンクした。
「よろぴこー♪」
「………」
ち、ちょっと待って。
みうちゃん?
この人がみうちゃん?
「今日は私のお誘いに乗ってくれてありがとー!」
その瞬間、僕の中の「恋に発展したりして」という期待がガラガラと崩れ落ちて行った。
「は、はじめまして……」
辛うじてその言葉だけを口に出す。
思った以上に衝撃だった。
「まさか今日集まってくれたみんなが、こんなに若い子たちだったなんてビックリしたよー! みう、登場するのためらっちゃった☆」
てへ、と頭をこつんと叩く自称みうちゃん。
ちょっと待て。
ここはツッコんでいいとこなのか?
デリケートな部分なので、タケゴンさんも帝王さんもマジョリカさんも押し黙っている。というか、放心状態となっている。
「み、みうちゃん……じゃなくて、みうさんって、男性だったんですね」
僕の言葉にみうさんは「うん!」と笑った。
「思った以上に可愛くてびっくりしちゃった?」
別の意味でびっくりしちゃいました。
「にしてもまさかタケゴンちゃんと帝王ちゃんがこんなに素敵な女性だったなんてねー。マジョリカさんはイケメンだし、つよぴょんは可愛らしいしー♪」
ニコニコとみんなを眺めまわして笑うみうさん。
「みんな、よろしくね!」
ここにきてようやくタケゴンさんたちが意識を取り戻して椅子から立ち上がった。
「は、はじめまして! タケゴンです! 本日はお招きいただきありがとうございます!」
「帝王ですぅ! よろしくお願いしますですぅ!」
「マジョリカっス、よろしく」
「あ、つよぴょんです、よろしくお願いします」
危うく挨拶すら忘れるところだった。
みうちゃん改めみうさんが合流したことで、いよいよオフ会がスタートした。
と言っても、話す内容はやっぱり執筆関連。
「タイトルはどうやって考える?」だとか、
「プロットは作る方?」だとか、
「キャラクターはどこまで掘り下げる?」だとか。
創作活動において僕も気になることばかり。
高いポイントを獲得してる作家さんたちの話は僕にとっても新鮮で刺激的だった。
最初はドキドキしてたけど、こういう集まりもいいなあと思えるようになった。
当初、「これを機に恋に発展するかも」なんて邪な気持ちを抱いてた自分が恥ずかしい。
それにしてもなぜか腑に落ちなかった。
なんでこの会に僕なんかが呼ばれたんだろう。
僕以外のみんなは大人気の作家さんばかりなのに。
そりゃ、僕がみうさんの大ファンで作品への感想や活動報告のコメントを毎回必ず書いていたからっていうのもあるかもしれない。
けど、それならここに来ていない他のみんなも一緒だ。
場所の関係もあるのかもしれないけど、僕なんかよりもっともっとみうさんたちに相応しいユーザーもいるはずだと思った。
なんで僕なんだろう。
そんな疑問が次第に大きくなっていく。
「あの……、みうさん」
「ん?」
僕は意を決して聞いてみることにした。
「ひとつ聞きたいんですけど……」
「なになに?」
「どうしてこの会に僕を呼んだんですか?」
「えー? どうしてって?」
「だってみんな……タケゴンさんや帝王さんやマジョリカさんは毎回高ポイントを叩き出してる大人気作家さんだし。みうさんだって交友関係が多い大人気のユーザーさんだし。正直、僕なんかよりもっと人気のユーザーさんを誘ったほうがよかったんじゃないかなって」
自分を卑下する質問だってのはわかっている。
でも聞かずにはいられなかった。
そんな僕の質問に、みうさんたちは顔を見合わせて笑った。
「あーあ、言っちゃった」
「つよぴょんらしいと言えばらしいですよねぇ」
「ったく、しょうがねえ奴だなぁ」
「ねえ、バラしちゃってもいい?」
みうさんの言葉にタケゴンさんも帝王さんもマジョリカさんも頷いた。
「バ、バラしちゃってもいいって何を?」
「うふふ、実はね。今日の集まり、ただのオフ会じゃないの」
「た、ただのオフ会じゃない?」
「つよぴょんには内緒にしてたんだけどねー」
みうさんの意味深な発言にドキドキする。
僕に内緒にしてたって、何をだ?
そしてみうさんは衝撃的な事実を打ち明けた。
「なんとここにいるメンバーは全員『ドメスティック・ファイヤー』の大ファンなのでしたー!」
「は、はあ!?」
パチパチパチとタケゴンさん、帝王さん、マジョリカさんが拍手を送る。
ちょっと待って。
どゆこと? どゆこと?
『ドメスティック・ファイヤー』の大ファンって……。
「要するに、今回の集まりは『ドメスティック・ファイヤー』ファンの集いなの」
タケゴンさんがわかりやすく説明する。
わかりやすく説明してるけど、僕の頭ではよくわかっていない。
ファンの集い? なにそれ。
「以前からねー、つよぴょんの『ドメスティック・ファイヤー』が更新される度にSNSでみんなで盛り上がってたんだよ。知らなかった?」
みうさんが言うと、帝王さんも「つよぴょん、SNSやってないって言ってましたもんねぇー」と頷く。
マジョリカさんに至っては
「オレなんか『ドメスティック・ファイヤー』好きすぎて100回は読み返してる信奉者だぜ」
なんて言ってるし。
なんてことだ。
僕の知らないところでそんな繋がりが出来ていたなんて。
SNSをやってない僕は全然気付かなかった。
言われてみればここにいる全員、100ポイントに満たない僕の『ドメスティック・ファイヤー』を読んでいる人たちだった。
「も、もしかして、これって……『ドメスティック・ファイヤー』を題材にした集まりなんですか?」
「だからそう言ってるじゃない」
みうさんがクスクスと笑いながら僕の肩をポンポンと叩く。
ウソじゃない。
本当なんだ。
なろうで大人気の作家さんたちが、僕の作品を話題にしてくれていたんだ。
そう思うと涙が込み上げてきた。
「う、嬉しいです……。まさかそんな……」
「今度つよぴょんを交えて『ドメスティック・ファイヤー』ファンの集いをやろうねって約束してたんだよー」
みうさんの言葉にさらに涙腺が緩む。
僕の大好きだったみうちゃんの正体には衝撃を受けたけれど、来て良かった。
「ありがとうございます、本当に……」
泣きながらお礼を言うと、みうさんは「それじゃあ改めて」とグラスを手に取った。
「『ドメスティック・ファイヤー』ファンの集まりを祝して、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
その日は終電を迎えるまで『ドメスティック・ファイヤー』について語り合ったのだった。
なろうに出会いを求めるのは間違ってるのだろうか。
いいや、間違ってはいない。