御花畑
いつものように雑用をしているといつもとは違う光景が目に入ってきた。
「あれ?」
「おや?」
最初にそれに気づいたのは外で作業していた僕とプレゼントさんだった。
森林を抜けた先には見渡す限りの花畑が広がっていた。色とりどりの花が優雅に風に吹かれている。
「うわぁすごい」
「これは壮観ですな」
「ちょっと僕皆に伝えてきます」
一階のダイニング部分で管を巻いていたアクさんとラビさんに新しい地域に入ったと伝える。ゾロゾロと皆で外に出て状況確認。
「こりゃあ花粉症にとっちゃ地獄みてぇな場所だな」
「やだぁ私が出歩いたら毛皮で受粉の手助けしそう」
それが初見の感想でいいんですか?
「こういう場所ならまたどっかに集落みたいなのがあるかもな」
「人がいるかもしれないんですね」
「あぁ交流するかどうかは任せる」
そういうとアクさんは寄り道亭に戻っていった。
交流担当って確かラビさんだったよな。
「どうします?ラビさん…」
「…」
「ラビさん?」
「むー…名前どうしよう」
地名考えてるこの人。新しい地域に来て真っ先に考えることがそれなのか…
森から出て結構進んだ所で、寄り道亭の移動が止まった。
根をおろすようにゆっくりと地面に着地する。
「姫から聞いてきたぞ。反応はあったみたいだ。村くらいの規模かな、ここから南西の方向だな」
アクさんから大体の方角を聞く。
「外出るんなら道迷わないようにな、印でもなんでもつけて行くこと。あとは1人では行かないことなんだが…」
本来交流担当のラビさんはなんかネーミングの儀に入ったうえに、異常な難産のようでウンウン唸りながら部屋に戻っていった。
「仕事ができた途端にアイツ使えなくなるな…」
「とりあえず近場の探索くらいなら僕とメメでやってきましょうか?」
「新しい土地だ。何が起きるかわからん。死なないとは言ってたが、底無し沼とか、滝とかに落ちてお前1人で戻ってこれるのか?」
メメの助けがあったとしても僕の身体能力は高くない。独力でそんな状況から助かる可能性は低いだろう。
「じゃあラビさんの復帰まちですか」
「あいつクソマイペースだからな…最悪今回はスルーする手もあるが」
「スルーなど言語道断ですぞ!」
プレゼントさんが声を荒げて入ってきた。
「華麗なる花に囲まれた集落。立ち寄らないわけにはいきませんぞ!できるならば美しい花を育てる秘訣をご教示願いたい!あわよくば種や苗などもいただければ尚よし!」
こんなに興奮するプレゼントさんは珍しい…いや、珍しくないか結構こんなテンションだったような気もしてきた。
「お、おう」
アクさんが気圧されるほどのテンションはやっぱりはじめてかも。
「ラビ殿が行けないというならば自分が行きましょう!」
「えっ、プレゼントさんが?」
「よろしく頼みますぞトモリ殿!」
「おいおい畑仕事はどうすんだ」
「そちらはアク殿に頼みます!」
「いやいや待ってください。そもそもプレゼントさん外の探索したことあるんですか?」
「それがまったく未経験ですぞ」
ハッキリと言い切られた。
「…大丈夫なんです?」
「…まぁ今のところは物騒な動物やら怪物は見当たらねぇし、そんな奴らがいたらここまで花が咲き誇ったりしないだろうが…」
「任せてください!必ずや美しい花を寄り道亭の庭に咲かせて見せましょう!」
「…こいつがここまで外に行きたがるのは初めてだ。まぁ2人と1匹ならなんとかなるだろ」
「そうと決まれば早速準備してきますぞ!」
プレゼントさんはそう言うと自分の部屋に戻っていった。
「…まぁラビが準備できたら後から追わせるからそれまではトモリ、お前がプレゼントの面倒みてやってくれ」
「…はい」
待つこと数十分
「お待たせしましたなトモリ殿!」
大きなリュックを背負ったプレゼントさんが意気揚々と出てきた。
「プレゼントさんそのリュックは?」
「村でお土産を貰えたらこのリュックで持ち帰ろうかと」
大きいリュックには最低限の生活用品が入っている、それ以外には空の瓶や鉢が入っている。これに土やら花やらを貰うつもりらしい。
「プレゼントさん」
「何ですかな?」
「何か身を守るためのものとか持っていった方がいいかと…」
「問題ありませんぞ!」
プレゼントさんはそう言うと外に飛び出し、何かを持って戻ってきた。
「これが自分の相棒ですからな」
その手には大きなシャベルが握られていた。丸腰よりマシか…
「トモリ殿も準備はできたのですかな?」
「はい」
僕はすぐ近くにあった自分のリュックとスリングショットをプレゼントさんに見せる。
「これがトモリ殿の相棒ですか」
「まぁ…とりあえず護身になるものをアクさんに貸して貰ってます」
接近戦はたぶん無理ですって言ったら、クロスボウとか銃とか色んな物を見せられたけどそこまで物騒な物は持ちたくなかった。動物相手の威嚇ならこれでもなんとかなるだろう。
一応リュックの中にはナイフ、オイルマッチ等の火種、ロープ等々を突っ込んでおいた。
「おっ準備は終わったみたいだな」
「アクさん」
「万端ですぞ!」
アクさんが厨房の奥から出てきて小ぶりな袋を渡してくれる。
「保存食だ。あまり距離は離れてないらしいが万が一があるからな。持ってけ」
中をのぞくと乾燥野菜と塩漬け肉が入っている。
「大分塩ぶちこんでるからな。そのままスープにしてもいいが味は保証しない」
「ありがとうございます」
「行ってきますぞ!」
「おう…帰ってくるまでは待っててやるが、こっちで何か問題があったらそれも保証できねぇ。まぁお前らが見つけやすいように狼煙でもなんでも焚いてやるから自力で見つけてこい」
「はい」
「あとウサギが間に合ったらケツ蹴っ飛ばして応援に向かわせてやるよ」
「よろしくお願いします」
寄り道亭の外は一面花畑だ。
「冒険ですな!気が昂りますぞ!」
「プレゼントさんあまりはしゃぎすぎないようにしてくださいね」
とは言ったものの、周りの様子は非常に穏やかで何かが襲いかかろうとしている気配はない。アクさんが大分心配してくれていた分少し拍子抜けだ。
「これは失敬。ですが、実は自分も一度ラビ殿のように外で冒険してみたいと常々思っていたのです」
「そうだったんですか?」
でも、ラビさんなら一緒に冒険くらいいつでも連れてってくれそうなもんだけど…
「誘われたことはあったのですが、過酷な環境をとびまわれるほどの身体能力はなく、残念ながら断っていたのですぞ」
…確かに僕の居た森とか、地図で見た地名の場所も危なそうな所ばっかだったような。
「足手まといになることは自分もわかっておりました。ですが今回は居ても立っても居られず!花のことだけではなく!」
「花以外ですか?」
「はい!心がこう…モニャモニャと…説明のできぬ感覚ですが何かに呼ばれているような…」
「…わかりました。見つかるといいですね何か」
「えぇ!えぇ!」
何かを感じているプレゼントさんのためにも反応のあった集落とやらに急ぐとしよう。
「おぉこれはまた可憐な花だ…おぉ!こちらもまた…」
そこらに咲いている花に目を奪われているプレゼントさんをメメと2人で引っ張りながら進む。
…ホント早く集落に行かなきゃ。