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生殺ジャンクヤード  作者: 綿鎬虎具
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閑話

「そういえばトモリ君はこの世界に来たばっかりだったよね」

ラビさんがテーブルに突っ伏せながら聞いてくる。

「はい、洞窟出て、ラビさんに会って現在にいたります」

「ならば説明しようこの世界について!」

テーブルから飛び上がり、二階に走っていったかと思うと、何かの紙を持って戻ってきた。

テーブルいっぱいに広げられた紙にはいくつかの地名が書かれている。

「これは…?」

「お前まだ書いてたのか」

アクさんが横から話に入ってくる。

「書いてるって…」

「そう、これは私手作りのワールドマップなのだ!」

書いてある地名は、ヴァーム大河、砂の街サイロード、ザット断崖、シナスタ海岸、オグン平地、ブラウンリーフの森…だけだ。

「この地名は…?」

「私が付けました」

生産者証明みたいに言う…

「なんかこの世界地名が付いてないんだよね。旅をする人も全然いないとか」

「誰も困らないんですか?」

「困ってないみたい」

「…誰も困ってないし、気にしてないなら自分で勝手に名付けしていいやって理屈ですか?」

「そうだよ!」

少しは悪びれて欲しい。…今さらか。

「今現在この世界で地名が存在するのはここに書かれている場所だけなのだ。以上!この世界についての説明終わり!」

説明…?

されたか…?

「アクさんはこのヴァーム大河より前の地方から来たんですよね?」

「おぅ、だが俺には期待すんなよ外に興味なんざ無かったし、交流なんざしてこなかったからな。まぁたまにちらっと外見た時は、火山地帯だったり、雪が降ってたりしたかな」

と、至極適当に答えられた。本当に興味なさそうだ。

実際、寄り道亭の走破性能は非常に高く、崖でも水中でも問題ないとか聞いたことがある。

「このおっさん自分と宿に被害なかったら大抵なんでもスルーなのよ」

「へぇ…あれ?じゃあなんで救助活動…」

僕みたいな遭難者助けなくても宿の経営には別段問題ないのでは?

「うさぎがうるせえんだよ。…あとはまあ、宿だからな客がいるにこしたことはねぇ」

「アクさんがラビさんのために???」

「俺の精神衛生のためだ」

「照れなくてもいいじゃーないっすか」

「お前飯抜きな」

「申し訳ございません!」

土下座をするラビさんを尻目に書きかけの地図に視線をもどす。

「これずっと同じ方向に進んでますけど、目的地とかあるんですか?」

「特にはねぇよ。もどる理由もないし、別の方向に進む理由もねぇって話。」

本当に適当だな。

「そんでいつか見たことあるなぁって景色見つけたら私の地図が役に立つのさ!」

「それこそ気の遠くなる話だがな、俺はこいつのことだから3日続けばすごい方だと思ってたんだが生意気にも続けてやがる」

「見せてって言ってもおっさんには見せてやらないからね」

はいはいと言いながらアクさんは厨房に引っ込んでいった。

「でも、確かに地図を一から作るなんて気が遠くなりますね」

「夏休みの絵日記みたいなもんだよ。この世界での私のルーチンワークみたいなもん。やらないとなんか調子でないの」

結構まめだよなこの人。

「できるなら部屋の掃除もルーチンワークにしてください…」

「汚い部屋に見えるけど計算された部屋なんだよなぁ」

「じゃあ掃除はしない方がいいですか」

「してぇ」

人に頼りきる気満々の人間だ。どこかで痛い目を見ないとこの人は駄目かもしれない。

あ、そうだ

「じゃあ今度からメメに掃除を担当してもらいますね」

「それだけはご勘弁を!」

とうとう僕にも土下座をしてきた。大分メメに振り回されてるようだ。ラビさんに注意を促す時はメメに頼むとしよう。


そういえば、

「ラビさん」

「なあにい」

「ラビさんって何か目的とかあるんですか?何処かに行きたいとか、何かしたいとか」

「んー?」

アクさんはしたいことが見つかるまで居ていいって言ってたけどここに泊まる人は皆目的があるのかとふと気になった。

「私の目的ねえ」

「はい」

「スイーツ」

「はい?」

「スイーツ食べてぇ、すごい冒険してぇ、伝説の武器とか見つけたり、バカンスもしたいし、私の国とか作って寄り道亭2号店とか作ったり、この世界で最初の地図職人になるでしょ、私をチヤホヤするイケメンたちに囲まれて、働かなくてもトロピカルジュースが運ばれてくる仕組みとか作ってぇ…」

欲の擬人化だ…

もはや自分でも制御できていない。

「戯言は自分の部屋に戻って壁に向かって言ってろよ」

アクさんが邪気を察知して戻ってきた。

丁度いいからアクさんにも聞いてみよう。

「アクさんはしたいことあるんですか?」

「俺か?…まぁ宿の経営がそのまま俺の目的ってところだ」

「へぇ…」

世界一の宿にするとか?客でいっぱいにするとか?

「何やら楽しそうですな」

プレゼントさんも騒がしさにつられて会話に入ってきた。

「プレゼントさんはしたいことがあるんですか?」

「よくぞ聞いてくださった!自分は色んな人に頼られる存在になりたいのです!」

「頼られる…ヒーローみたいな?」

「ヒーロー!素晴らしい響きですな!なってみせますぞ!」

皆それぞれに目的があって、そこに向かって進んでるんだ。

僕は?僕のやりたかったことは…



しにたい


「それではトモリ殿のやりたいことは何ですかな?」

自分に向けられた言葉にハッとする。

「ええと…僕は…」

「…まぁまだ子供にその質問は酷かもな」

「おっとこれは失礼」

「い、いえ」

「別に目的なくたって死にゃしねえんだ。ゆっくり見つけりゃいい」

「ですな」

「…はい」

見つかるだろうか、

誰かに言える目的が、

「まぁ、程々のやつにしろよ…」

アクさんはラビさんの方を見る。

「そんで、せっかくだから温泉も掘り当てて、温泉と温泉饅頭でひと山当てて、超でかいサウナ施設とか作るでしょ…」

まだ欲が沸き上がっている。まるで泉だ。

ちなみにラビさんの欲望は夕御飯近くまで続いた。

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