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生殺ジャンクヤード  作者: 綿鎬虎具
7/17

日常

あの大蛇から逃げて数日が経った。

寄り道亭は今もゆっくりと進んでいる。

景色が流れていく宿屋は寝台列車に乗っているようで非常に楽しい。

メメを起こして部屋から出る。

僕の部屋は二階の1室になった。

住まわせてもらう以上どの部屋でも大丈夫と告げたら、この部屋になった。隣の部屋はラビさんで、いつも何事か聞こえてくる。

下の階に行くといつも通りアクさんが出迎えてくれた。

「よぉ」

「おはようございます」

「朝飯はもうちょっと待てよ」

「はい」

玄関のドアを開けて外に出る。

宿屋の敷地は非常に広い。僕もまだ全てをまわれてはいない。その内の半分程を占めているのが畑だ。

アクさん曰く最初は家庭菜園レベルのものだったが日を追うごとに植物たちが勢力を伸ばし、こうなったとか。

現在はアクさんではなく、プレゼントさんがここの管理を行っている。ここに泊まっている人は宿泊費のかわりに何かしらの労働を行うことで対価としているらしく、ラビさんは外部との交流、見廻り。プレゼントさんは畑の管理。それぞれ得意分野で貢献しているそうだ。

まだラビさんとプレゼントさん以外にお客さんに会ったことはないが、詮索はタブーらしくアクさんに聞いても眉間の皺が深くなるだけだった。


畑の方に歩いていくと、プレゼントさんがじょうろで水やりをしているところに遭遇した。

「おや、トモリ殿おはようございます」

「おはようございますプレゼントさん」

僕も例にもれずここで労働をすることになってるのだが生来長所に恵まれなかった僕だ。アクさんに「何ができる?」って聞かれたとき、「何回でも死ねます」って言って場を凍らせてしまった。

寄り道亭が欲しい人材ではなかった僕だがとりあえずそれぞれの仕事を補佐するというところにおさまった。補佐というと聞こえがいいが要するに雑用だ。色んな仕事を体験させて僕の適性を見ようって試みらしい。

現在移動中の寄り道亭ではラビさんの仕事はない。この3日ずっと部屋でダラダラしている。なので基本はアクさんの料理の手伝いか、プレゼントさんのお世話の手伝いが僕の仕事だ。

それで、わかったことだがプレゼントさんは非常に働き者だ。誰より早く起きて、長く働いている。

疲れたりとかしないんですか?と問いかけると笑顔で自分の好きなことだからとかえされた。


「トモリ殿もそろそろ仕事に慣れてきましたかな?」

「皆さんのおかげです」

実際仕事は簡単なものが多い。畑仕事は水やりと肥料の散布、のびすぎた箇所の剪定くらいだ。…量は膨大だが。

難しく知識が必要な仕事はあまりない。そういった仕事はプレゼントさんがやってくれるので、今のところは困ることもない。

2人で作業をすると膨大に思える敷地も少し狭く感じれる。気休め程度だが。

「いやぁ人手が1人増えるだけで大分楽になりますな。トモリ殿には感謝ですな」

「少しでも助けになれてるなら幸いです」

「大助かりですよ。っとそろそろ朝食の時間ですな。自分は片づけてから行きますのでトモリ殿は先に行っておいてください」

「わかりました」

プレゼントさんに一礼して食卓にむかう。


「おぅ、皿だしてくれるか」

「はい」

アクさんの手伝いは食器の準備や後片付けが主だ。調理自体はアクさんがすべて1人でやっている。大皿に盛れるだけ盛ったお肉とか、何人前もあるチャーハンとかを皆で取りながら食べるスタイルだ。

「あと、ラビ起こしてきてくれ」

「はい」

このラビさんのお世話がアクさんの雑用で一番多い仕事だ。休みの日のラビさんは起きない、動かない、やる気ないの三拍子だ。初日はラビさんのお世話だけで半日使ったからな。

部屋の前まできたらとりあえずノックする。当たり前だけど返事はない。アクさんから受け取った合鍵をさす。

部屋は混沌としていて、足の踏み場もない。

「また、掃除しなきゃ…」

なんとかベッドまでたどり着きラビさんを起こす。

「朝ですよラビさん起きて」

「いやん…」

「起きないと失くなっちゃいますよご飯」

「残しといて…」

「…メメ」

呼びかけると僕の服からメメが現れる。最近はフードの中がお気に入りのようでいつもそこにいる。

メメはラビさんの寝顔めがけて飛びつき呼吸器官をふさいだ。

「!ガボボボ!」

ラビさんが飛び起きるとメメは一仕事終えたと言わんばかりにフードの中に戻っていった。

「…なんか最近トモリ君雑になってない?」

「これくらいしてやれとアクさんが」

「んー悪影響」

「ご飯もう出来てますから早く下りてきてくださいね」

「規則正しい生活になるー…」

「メメ見張りよろしくね」

メメをラビさんの部屋に残し、下の階に下りる。

「メメちゃんステイ!それは食べ物じゃないから!ペッしなさい!ペッ!」

下りてる最中なんか聞こえた気がしたけど、まぁ問題ないだろう。


一階に下りるとプレゼントさんが1人待っていた。

「あれ、アクさんは?」

「姫へのデリバリーですな」

宿に滞在していながら全く外出しないお客さんがいる。皆は姫って呼んでる人だが会ったことはない。僕を見つけたのはその人のおかげらしいけど礼を言うチャンスは今のところ無かった。

部屋を出ないのがその人の要望らしく、アクさんはいつもご飯の時に部屋の前にご飯を持っていくらしい。

「うぅーん…」

ラビさんも下りてきたみたいだ。と、思ったらすごいヨレヨレで疲れてる様子だ。

「トモリ君…メメちゃんの…メメちゃんの手綱を早く握って…」

メメはラビさんの腕に抱えられてムニョムニョしている。

「…なんかすみません」

メメを受け取る。メメはご機嫌に蠢いている。ラビさんは前回の大騒ぎから大分メメに気に入られているようで、僕のところにメメが居ないときは大体ラビさんの部屋に居たりする。

ラビさんはそんなメメを可愛がってくれるのだが、端から見ると子育てに振り回される母親のように見える。

「メメ殿は大変元気ですな」

「元気すぎる…お姉さんついていけないわ…」

「はは…」

「おっ、全員揃ってんな席つけよー」

皆それぞれの席について待ってるとアクさんが料理を盛り付ける。

「いただきます」

皆おもいおもいに料理をとりながら朝食がはじまる。

ラビさんはアクビしながら、

アクさんはコーヒーを啜り、

プレゼントさんは静かに、

メメは大量に料理をよそってもらってご機嫌に食べている。

「毎回思うんだけどプレちゃんどうやって食べてんの?」

「企業秘密ですな」

「黙って食べれねぇのか」

「食べれないっす」

「じゃあ食べんな」

「やめろー!」

すぐに騒がしい食卓になる。

でも、この騒がしさが少し気に入っている。

僕はスープを一口飲んで今日もまた始まったと実感した。

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